上 下
279 / 347
続編 開き直った公爵令息のやらかし

56話 祝福を

しおりを挟む
「おめでとうございます!ロレンツォ殿下、ソフィア様。」
「……おめでとう、ソフィア。」
「ありがとう。」
「シリル様…お兄様……ありがとうございますっ」

春の訪れと共に程なくして……ロレンツォ殿下とソフィア・アルベリーニ子爵令嬢の婚姻式が、厳かな雰囲気の元、執り行われた。
第5王子という事や、お母君のベルティーナ第4側妃様のお立場の弱さも相まって、恐らく他の兄王子方の婚姻式よりは些か華やかさには欠けるのだろうが、それでも、きちんとアデリートの直系王族としての式を挙げられたのだ。
心の内では殿下を良く思わない者も居るかもしれないが、それでも式に参列した主だった貴族方は、新たに契りを交わされた若い二人に賛辞を送り、礼儀正しく接していた。

予定通りに式が終わり、お互い気を遣いたくない新郎新婦のお二人は、披露宴はごくごく身内の者だけでのささやかなものになさったので、僕らはつい気安い心地でお二人を祝って楽しんでいた。
誰よりも弱いお立場でご苦労されながら、ようやくここまで来られた殿下とソフィア様は、歓びと安堵が入り混じった笑顔で、互いに微笑み合われている。
その仲睦まじい様子を、母ベルティーナ様は嬉しさとほんの少しの寂しさをもって、見守っておられた。

そして……。

「ソフィア、おめでとう!」
「……ランベルト兄様ぁ!」

ひと際明るい声で祝福の声を掛けられて、ソフィア様の表情がパッと明るくなった。
可愛い妹の晴れ姿に歓び勇んでやって来たのは、礼式用の騎士の格好をした彼女の兄君だった。
そして、その兄君の後ろからやって来られたのは、彼女の実家アルベリーニ子爵家のご家族方で。

しばらく家族に囲まれて、互いに歓びを分かち合った後、僕らの方にも来て下さった。

「シリル様、私の家族を紹介させて下さいませ。……私の兄で長男の現子爵家当主、ファウスティーノ・アルベリーニとその奥方のティーナ・アルベリーニ子爵夫人、その娘のビアンカに息子のフィオリーノで…」

幸せな笑顔を綻ばせているソフィア様は、集まられたアルベリーニ家の紹介をして下さった。
先ずは現当主一家の紹介からで、厳格な雰囲気が漂う子爵のファウスティーノ様が当主らしく真面目な顔をして頭を下げて礼をして下さり、僕も幾分緊張しながら礼を返した。

「私の姉でヴィオーラ伯爵家に嫁いだ長女のオルテンシア・ヴィオーラ伯爵夫人。そして、改めてもう一度ご紹介させて頂きますね。もう一人の兄で、騎士団に所属している3男のランベルトです。」
「こんにちは!シリル様とは夏ぶりですよね。お元気そうで何より。」
「ランベルト卿もご健勝の様で。お久しぶりです。」

サフィルのすぐ上の兄君であるランベルト卿とは、僕がヴェネトリア学園に通い始めてしばらくした頃に、サフィルから紹介されて。
夏季休暇でエウリルスへ帰国する際、王都の城門から見送って下さって以来だった。
ご本人の気さくな性格も相まって、些か気安い雰囲気で久々の邂逅を喜んでいると。

「…あ、お母様!……シリル様、こちらが私の母でチェチーリア・アルベリーニ前子爵夫人です。」
「………貴女が、ソフィア様やサフィルのお母様……。」
「初めまして、クレイン公子様。チェチーリア・アルベリーニと申します。」

アルベリーニ家を支える前子爵夫人で、サフィル達のお母君であられる凛とした眼前の女性は、深くお辞儀をして下さり、僕も同じく深く礼をして。
改めて目にすると、その女性は一族の母らしく堂々としつつも、穏やかな笑みを向けて下さる。

「初めまして、シリル・クレインと申します。ご令息のサフィル・アルベリーニ卿には、大変お世話になっております。ご挨拶が遅れ、申し訳ございませんでした。これを機に、どうぞお見知りおき下さい。」
「そんな、それはこちらの方こそですよ。私共は貴方様に本当に助けて頂きましたのに、お礼どころかご挨拶すら今になってしまい、申し訳ない限りです。こうして娘のソフィアが無事、ロレンツォ殿下との婚姻を果たせたのも、貴方様のお力添えあっての事と存じております。本当に……ありがとうございました。」

一族の長として気丈に振舞いつつも、末娘の幸せそうな笑顔を目に出来て、彼女はその目じりに薄っすらと涙を滲ませておられた。
それから、長兄のファウスティーノ様も同じ様に礼を述べて下さり。
久しぶりの再会に、ご家族は皆とても喜ばれていた。
こうして家族水入らずで会えたのは本当に久しぶりで、子爵家前当主のデルフィーノ・アルベリーニ様のお葬式以来だったそうだから。
前回の、悲しい再会とは打って変わって、今回は誠におめでたい席での再会に、皆様涙ぐんで喜びを分かち合っておられた。

そうして互いに挨拶を交わした後、主役の花嫁であるソフィア様は花婿のロレンツォ殿下に呼ばれて、一緒にヴァレンティーノ王太子殿下夫妻に挨拶に行かれ、一旦この場を離れられた。

この前、殿下にお願いした件だったが、そんな事をするまでも無く、サフィルは家族の方へ近寄ろうとはせず、殿下の傍に付き従ったままでいる。
むしろ、ソフィア様を呼び寄せて下さっていた。

「……少し、宜しいでしょうか。」

こうしてご家族全員が集まるというのは、なかなかない機会だから。
どうしても、伝えなければならない……大切な話を。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

言い逃げしたら5年後捕まった件について。

なるせ
BL
 「ずっと、好きだよ。」 …長年ずっと一緒にいた幼馴染に告白をした。 もちろん、アイツがオレをそういう目で見てないのは百も承知だし、返事なんて求めてない。 ただ、これからはもう一緒にいないから…想いを伝えるぐらい、許してくれ。  そう思って告白したのが高校三年生の最後の登校日。……あれから5年経ったんだけど…  なんでアイツに馬乗りにされてるわけ!? ーーーーー 美形×平凡っていいですよね、、、、

兄たちが弟を可愛がりすぎです

クロユキ
BL
俺が風邪で寝ていた目が覚めたら異世界!? メイド、王子って、俺も王子!? おっと、俺の自己紹介忘れてた!俺の、名前は坂田春人高校二年、別世界にウィル王子の身体に入っていたんだ!兄王子に振り回されて、俺大丈夫か?! 涙脆く可愛い系に弱い春人の兄王子達に振り回され護衛騎士に迫って慌てていっもハラハラドキドキたまにはバカな事を言ったりとしている主人公春人の話を楽しんでくれたら嬉しいです。 1日の話しが長い物語です。 誤字脱字には気をつけてはいますが、余り気にしないよ~と言う方がいましたら嬉しいです。

弟が生まれて両親に売られたけど、売られた先で溺愛されました

にがり
BL
貴族の家に生まれたが、弟が生まれたことによって両親に売られた少年が、自分を溺愛している人と出会う話です

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

俺の彼氏は俺の親友の事が好きらしい

15
BL
「だから、もういいよ」 俺とお前の約束。

処理中です...