全てを諦めた公爵令息の開き直り

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続編 開き直った公爵令息のやらかし

54話 卒業祝い再び

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それから程なくして無事、王都ヴェネトリア学園を卒業出来た僕は、その卒業祝いを殿下達に内輪で祝って頂いた。
またベルティーナ様のお部屋をお借りしてのもので申し訳ない気持ちも少しあったが、その方が側妃様だけでなく侍女のダリアさん達にも参加して頂けるし、お世話になった皆にお礼も言えたし。
ただただ楽しんだ。

なかでも、殿下にとっては独身最後のパーティーの意味も重なり、殊更はしゃいでおられた。

「おめでとう!シリル!!」
「ありがとうございます、殿下。」
「シリル、私からも。ご卒業おめでとうございます。」
「ふふ。サフィル、ありがとう。」

乾杯直後で既にほろ酔いの殿下からノリ良く祝われ、また、サフィルからは穏やかな笑みを向けられて、僕はそれぞれに感謝の言葉を返す。
その後、参内して下さったソフィア嬢や、この部屋の主であるベルティーナ様、侍女のダリアさんからもそれぞれに祝って頂き。

女性陣はお酒は程々に、お菓子類を摘まんでそれぞれ話に花を咲かせておられたが、殿下はまぁまぁ豪快にワインを煽っていた。
そしてその腕にはまたジーノが捕まり、サフィルはげんなりした顔をしている。
テオに至っては、前回エウリルスの仮住まいでの卒業祝いの時の反省も込めて、殿下の腕が届きそうな範囲には極力近付かない様に変に警戒をしていた。

宴もたけなわとなった頃。
ソフィア嬢が帰る時間となって屋敷へとお帰りになり、宴はお開きとなったが。
まだまだ飲み足りない!とごねる殿下によって彼の自室へ連れて行かれ、男だけで二次会へとしゃれこんだ。
……ただの飲み会である。

「~~~いいかぁ?!シリル様はなぁ、お前だけのものじゃないんらかなぁ~!ちょぉっと好かれてるからって、いい気になりやがってぇ……うぐっ」

サフィルは完全に酔いが回ってしまっているテオに、何やら説教されていた。
怒ったり、泣いたり、百面相だ。
テオって酔ったらあんな風になるんだ、へぇー。
なんて思って眺めていたら、横から割り入って来たジーノが面白そうに揶揄っている。

僕もちょっと飲み過ぎたかも。
休憩に離れた席で水を一杯飲んでいると……ロレンツォ殿下に捕まった。

「よ~シリルぅー飲んでるか~?って、何だよ水じゃねーか。今日はお前の祝いなんだぞ、主役が飲まねーでどーすんだよ。ほら、飲め飲め!」

そう言って、空になったコップに、手にされていたボトルからトプトプとワインを注がれる。

「ちょっと、殿下!もういいですよ!」
「なんれだー!俺の酒が飲めねーのかぁ?」
「……そういう、無理矢理相手に飲ますのって、巫子達の世界じゃ良くない行為だそうですよ…。」

冷めた声音でぼそっとそう言うと、殿下はピタッと手を止めて固まった。
そして、溜息をつくとゆっくりとテーブルに瓶を置いて隣の席にどっかりと腰を下ろした。

「ちぇーっ!折角シリルの酔っ払った姿、見てみたかったのにさ~。」
「え?今結構酔ってますよ?だから水飲んで休憩したくらいですし。」
「んなの全然酔ってる内に入んねぇよ。全然ケロッとした顔してんじゃねーか。さては上手く逃げてやがったな~?」

訝しい目を向けて来る殿下に、僕は苦笑した。

「逃げてませんよ。今日はかなり飲みましたって。」
「んな見え透いた嘘つくなー。」
「本当ですってば。あんまり顔に出ないんです。限界を試した事は無いんですが、父の遺伝ですかね……お酒には強いみたいなんですよ、僕。」
「え~~~~意外だぁ~。」

よくは知らないが、亡くなった僕の実父のシルヴェスター公爵は豪快な質で、その気質と相まって酒豪だったらしい。
どうせなら、酒豪とかどうでもいいから、剣術とか腕力とか、そっちの気質をもう少し欲しかったが。
その辺は全く受け継がれなかった。
はぁ。

そんな事をなんとなしにぼやいていると、殿下のお気には召したらしい。
面白そうに笑っている。
…きっと、実父もこんな豪快な笑い方をしていたのだろうな。

「やー、でも凄いよなぁ~。編入コースとはいえ、ヴェネトリア学園卒業だもんなぁ。エウリルスの学院も卒業したし。両方卒の経歴なんて、中々いねーぞ。俺よりすげーや。」
「何言ってんですか。その学園に通わせて下さったのは殿下でしょ。」
「んな謙遜すんなってぇ~!これからいけ好かねぇ奴らに振りかざす武器になんだからよぉー。」

ははは…。
殿下ってば、かなり酔いが回ってきてる様なので、これは話半分で聞いといて…いいんですよね?
うん、そう思っておこう。

「それはそうと…いよいよですね、殿下とソフィア様の婚姻式。」

先月は結婚指輪も創りに行って、無事出来上がった事だし。
後はもう、式まで秒読み…という所まで来ていた。
さっきはソフィア様がまたあの婚約指輪をして来られていたので、囲まれた女性陣に祝われたり、羨ましがられたりして、頬を朱に染めて愛らしく照れておられた。

しかし、対するロレンツォ殿下の反応はと言えば。

「…あ…あぁ、そうだな。」

と、なんともぎこちない。
それまでの楽し気だったほろ酔い気分も吹き飛んでしまわれて。

「…?どうしたんです。嬉しくないんですか?」
「いや、そんな事はない。嬉しいさ、とても。ソフィアには随分辛い思いもさせてしまったから、なんとかここまでこぎつけられて良かったし、安堵してる。でも、正直思うんだ。本当に俺なんかで良かったのかな……って。」

覇気も無く、心許なく揺れる瞳は、ゆるゆると下がっていってしまって。
非常に珍しい、らしくない弱音。
それなら、尚の事。

「いいじゃないですか、お酒の所為って事にすれば。僕で良ければ聞きますよ?話して下さい。」
「…………ん。」

努めて優しい声音で伝えてみたら、殿下は少し躊躇いも見せたが。
やがてゆっくりと頷いた。
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