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続編 開き直った公爵令息のやらかし
53話 約束の証
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しばらくすると、殿下達が奥の部屋から戻って来た。
「待たせたな。」
「いいえ。お決まりになりましたか?」
「はい。」
「良かったですね。」
僕の問いに、殿下の隣に腕を絡ませて控えめに微笑むソフィア嬢は、頬を朱に染めながら嬉しそうに頷いた。
そして、彼女は傍らの殿下の方を向き、はにかむ笑顔を向けておられた。
留学で長く隣国で生活を送られていた為に離れ離れで、卒業後帰国してからも、婚約している身でありながら、偵察の為とはいえまた娼館に出入りしたりして。
そんなある意味奔放に動き回るロレンツォ殿下に、本当はかなりやきもきさせられたであろうソフィア嬢だったが。
不安から涙ぐまれる事もあった少女は、ようやくその健気な想いが報われて、誰よりも幸せそうに微笑んでいる。
手元に輝いているのは、その約束の証。
あまり見せつける様な事はされないが、この様な時には逆に身に着けない方がおかしいだろう。
彼女の喜びが形を成して、煌めいている気がした。
「いいな……。」
殿下に寄り添う彼女が、本当に嬉しそうで。
思わずつぶやいてしまったら。
「え?」
隣からサフィルに首を傾げられた。
「あ、ううん。ソフィア様、幸せそうで良かったなぁって思って。」
「……ありがとうございます、シリル。妹があの様に笑えるのも、全ては貴方のお陰ですよ。」
そんな…と謙遜の言葉を口にしようとして。
いいえ、そうですよ。と再度笑みを向けられて、僕もまた笑みを返す。
そうだね。
彼女らに負けないくらい、僕らも互いにこうして笑い合えて……幸せだ。
そのまま近くのカフェへと移動して、休憩のお茶をご一緒する事となった。
「今日はお付き合い下さり、ありがとうございました。」
席に着くと、ソフィア嬢は改めて僕らに今日のお礼を口にされる。
「いいえ。僕はなかなかご協力出来ていませんでしたから、やっとご一緒出来て良かったです。」
「シリル様の学園生活もあとわずかですね。こちらに来られて直ぐの転入で大変でしたでしょう?お疲れ様でした。」
「ありがとうございます。短期間の編入コースでしたから、せわしなくはありましたが、殿下のご配慮のお陰で、安心して通う事が出来ました。なんとか無事卒業出来そうで、僕も自信が付いた気がします。殿下、ありがとうございました。」
ソフィア嬢の労いの言葉に感謝を述べ、そして、学園へ通える様に手配して下さった隣の殿下へ改めて礼を述べると、殿下は嬉しそうに笑ってくれる。
「いいや、こちらこそ…あの時は急な提案だったが、応じてくれて助かった。いきなり異国で苦労をさせるかと心配したが、杞憂だったな。」
「ははは、元々引きこもりでしたから。むしろ、あぁいった事情でビクビクしていたエウリルスより、こちらでの方が、忙しかったですが伸び伸び学ばせてもらえましたね、僕としては。テオも側に居てくれたから、安心出来ましたし。」
そう言って、僕の後ろに控えるテオに視線を向けると、柔和な笑みを返してくれる。
「でも、シリル。もっと頼って欲しかったですよ?結局、何のお手伝いも出来ませんでした。」
「ふふ。相談に乗ってくれたじゃない。それに、サフィル達みたいに論文作成の作業とかなら協力も頼めたかもしれないけど、編入コースだからね。試験ばっかりで、そういうの無かったんだよー。でも、むしろこれからたくさん頼る事になると思うよ?仕事の先輩として、よろしくね。」
「もちろんですよ。」
「っはは!かなり頼りないけどなー。」
「うぐぅ……。」
学園生活では、サフィルに具体的に協力を願う案件は少なかったけれど、いつも話を聞いてもらっていたから。
それで充分、有難かった。
それよりも、頼るとしたらこれからだ。
だが、上司であるロレンツォ殿下がおかしそうに笑って、サフィルはむぅぅとむすくれていた。
殿下はそういう人なんだから、仕方がないよ。
僕は、しょげるサフィルを宥める様に苦笑した。
「待たせたな。」
「いいえ。お決まりになりましたか?」
「はい。」
「良かったですね。」
僕の問いに、殿下の隣に腕を絡ませて控えめに微笑むソフィア嬢は、頬を朱に染めながら嬉しそうに頷いた。
そして、彼女は傍らの殿下の方を向き、はにかむ笑顔を向けておられた。
留学で長く隣国で生活を送られていた為に離れ離れで、卒業後帰国してからも、婚約している身でありながら、偵察の為とはいえまた娼館に出入りしたりして。
そんなある意味奔放に動き回るロレンツォ殿下に、本当はかなりやきもきさせられたであろうソフィア嬢だったが。
不安から涙ぐまれる事もあった少女は、ようやくその健気な想いが報われて、誰よりも幸せそうに微笑んでいる。
手元に輝いているのは、その約束の証。
あまり見せつける様な事はされないが、この様な時には逆に身に着けない方がおかしいだろう。
彼女の喜びが形を成して、煌めいている気がした。
「いいな……。」
殿下に寄り添う彼女が、本当に嬉しそうで。
思わずつぶやいてしまったら。
「え?」
隣からサフィルに首を傾げられた。
「あ、ううん。ソフィア様、幸せそうで良かったなぁって思って。」
「……ありがとうございます、シリル。妹があの様に笑えるのも、全ては貴方のお陰ですよ。」
そんな…と謙遜の言葉を口にしようとして。
いいえ、そうですよ。と再度笑みを向けられて、僕もまた笑みを返す。
そうだね。
彼女らに負けないくらい、僕らも互いにこうして笑い合えて……幸せだ。
そのまま近くのカフェへと移動して、休憩のお茶をご一緒する事となった。
「今日はお付き合い下さり、ありがとうございました。」
席に着くと、ソフィア嬢は改めて僕らに今日のお礼を口にされる。
「いいえ。僕はなかなかご協力出来ていませんでしたから、やっとご一緒出来て良かったです。」
「シリル様の学園生活もあとわずかですね。こちらに来られて直ぐの転入で大変でしたでしょう?お疲れ様でした。」
「ありがとうございます。短期間の編入コースでしたから、せわしなくはありましたが、殿下のご配慮のお陰で、安心して通う事が出来ました。なんとか無事卒業出来そうで、僕も自信が付いた気がします。殿下、ありがとうございました。」
ソフィア嬢の労いの言葉に感謝を述べ、そして、学園へ通える様に手配して下さった隣の殿下へ改めて礼を述べると、殿下は嬉しそうに笑ってくれる。
「いいや、こちらこそ…あの時は急な提案だったが、応じてくれて助かった。いきなり異国で苦労をさせるかと心配したが、杞憂だったな。」
「ははは、元々引きこもりでしたから。むしろ、あぁいった事情でビクビクしていたエウリルスより、こちらでの方が、忙しかったですが伸び伸び学ばせてもらえましたね、僕としては。テオも側に居てくれたから、安心出来ましたし。」
そう言って、僕の後ろに控えるテオに視線を向けると、柔和な笑みを返してくれる。
「でも、シリル。もっと頼って欲しかったですよ?結局、何のお手伝いも出来ませんでした。」
「ふふ。相談に乗ってくれたじゃない。それに、サフィル達みたいに論文作成の作業とかなら協力も頼めたかもしれないけど、編入コースだからね。試験ばっかりで、そういうの無かったんだよー。でも、むしろこれからたくさん頼る事になると思うよ?仕事の先輩として、よろしくね。」
「もちろんですよ。」
「っはは!かなり頼りないけどなー。」
「うぐぅ……。」
学園生活では、サフィルに具体的に協力を願う案件は少なかったけれど、いつも話を聞いてもらっていたから。
それで充分、有難かった。
それよりも、頼るとしたらこれからだ。
だが、上司であるロレンツォ殿下がおかしそうに笑って、サフィルはむぅぅとむすくれていた。
殿下はそういう人なんだから、仕方がないよ。
僕は、しょげるサフィルを宥める様に苦笑した。
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