全てを諦めた公爵令息の開き直り

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続編 開き直った公爵令息のやらかし

42話 お誘い

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シルヴィアと巫子達を見送って、そののち。
陛下への報告や諸々の全てを終えて。
晩餐ではロレンツォ殿下と共に僕らも内々の席に呼ばれ、共に巫子達の事や救済の礼をもっとしたかった旨など、食事を楽しみながら話に花を咲かせていた。
末席にて幾分緊張もしたが、それでも度々感謝を口にして下さり、和やかな雰囲気で過ごせたのだった。

元気が有り余って騒がしい彼らが帰った後の、僕らが住まう城内の一画は、久しぶりの静けさを取り戻し、それが少し寂しさも感じさせたが。
きっとまた向こうで元気に過ごしているのだろうと思いを巡らせて、心地良い疲れをお湯の中でじんわりと溶けさせる。

夜着に着替えてベッドに転がっていると、サフィルも部屋へと戻って来た。
晩餐の後、先日捕まえたトレント男爵達のその後の件で、少し王太子殿下と話があったロレンツォ殿下に付いたサフィルは、先に僕を部屋へ帰らせてくれたから、彼の方はてっきりもっと遅くなるのかと思ったが、思いの外早く終われた様だ。

「おかえりなさい。早かったね、良かった。」
「ヴァルトシュタイン侯爵の話も加えた上での調べがついた、とのお話だけでした。ようやく観念して容疑を認めた様ですし、この件はこれでひと段落といったところですね。」
「そっか、お疲れ様。その件では随分心配かけちゃったね。」
「貴方を二度とあんな危険な目には遭わせたくない。もうあんな無茶はしないで下さいね。」

お願いしますよ、とそう言われたが。

「えー。どうしよっかなぁ…。」
「シリル?!」
「アハハ、冗談だよ~。」

ちょっと悪戯っぽい笑みを向ける僕に、サフィルは何とも言えない顔をしている。
軽く受け流されて、どう釘を刺そうか悩んでいるのだろうか。
……そんな事よりも。

「ねぇ、色々あって疲れたでしょ?……背中流してあげようか?」
「い、いえ。全然大丈夫です。軽く済ませて来ますから、シリルは先に休んでいて下さい。」

にっこり笑ってにじり寄ろうとする僕に、サフィルはサッと顔色を変えて、そそくさと浴室へ消えていった。

何だよぉ……。
この前されたご奉仕?してあげようかと思ったのに…。
僕にするのは愉しんでたのに、されるのは嫌なのかな?
なんか納得いかない……。

なんとなくモヤモヤしたまま寝転がって、傍のナイトテーブルの小さい引き出しにしまっていた、片手程の大きさの小箱を引っ張り出してはこっそり開くと、中には小瓶が一つ。
あまり細かい細工はされていないが、中に入った淡い薄紅色の液体が振動でとぷんと揺れる。

「………はぁ。どうしよっかなぁ…」

小瓶の蓋を開けるでもなく、手持ち無沙汰に中の液体をゆらゆらと揺らし見ていると。
隣部屋からカタリと物音がして、手の物を引き出しに仕舞ったら。
サフィルは割合すぐに戻って来た。

湯上りで上気する頬は少し朱の色を帯び、楽なガウンを軽く羽織っているが、その開けた胸元から覗く引き締まった胸と腹は、相も変わらず何とも言えない色香を纏っている。
何度目にしても、高鳴る鼓動は抑えられない。

「もっとゆっくり入って来て良かったのに。」
「シリルこそ、お疲れでしたでしょうに。気にせずお休み下さって良かったんですよ。」

遠慮がちに返して来て。
俯かれてしまって、その表情は読み取れない。

図りかねて、取り敢えず彼の背中をベッドまで押して行って、ポスンと座らせた。
そして、後ろから抱き付いて、ちょっと強引に彼の顔を掴んで、その唇にキスを落としてみる。

「…ふ。」
「サフィル、今日はもしかして気が乗らない?嫌ならやめとくけど…」

いつもは大体彼の方から来てくれるので、今日は頑張って僕の方からお誘いをかけてみたが。
ぼんやりとうわの空の様で、僕にされるがままになって、ちゃんと反応してくれない。

攻勢をかけてみたはいいが、その気じゃないなら無理をさせたくもないし。
どうしようかと戸惑っていると、サフィルはキスを受けたその唇を手の甲で押さえて、真っ赤な顔で俯いた。

「気が乗らない訳ありません。……そうじゃなくて、抑えが効きそうになくて怖いんですよ。」
「え、そんなの気にしなくていいのに。」

恥ずかしそうにサフィルは呟いたが。
なんだ、そんな事。

僕はあっけらかんと答えたが、彼は。

「そういう訳にはいきません。……シルヴィア様に、貴方を泣かせたら許さないって言われたばっかりなのに……。」
「え。あの時、目を逸らしてたのって、そういう事だったの?」

目を丸めて問う僕に、サフィルはしばらくの沈黙ののち、観念してコクリと頷いた。

恐らくシルヴィアが言ったのは、兄を悲しませる様な事はするな、という意味だろうけど。

(別の意味で泣かせちゃってるとは…言えない…)

不意にそう考えてしまって、一瞬頭が回らなくなってしまったらしい。

「~~~~もう、巫子様やシルヴィア様が来られてから、その間、ずっとその…していなかったので、久々に閨での貴方の姿が頭をよぎって……止められなくなってしまって。きっと絶対暴走しかしない気がするので、その、今日はやめておいた方が良いかと。」

遂には耳まで真っ赤にして項垂れるサフィルに、今度は正面からキスをした。

「ん。…シリル、あの。ですから…」
「ねぇ、明日はお仕事お休みだよね?」

問題のトレント男爵達の件もひと段落し、シルヴィアとカレン、カイトも元の世界へと帰ってしまったし。

「え?…えぇ、そうですが……」
「じゃあ、ちょっとくらい羽目を外しても大丈夫じゃない。」

無邪気に答える僕に、サフィルはぐっと言葉を詰まらせる。

「ちょ…っだからそんな煽る様な事言わないでっ!」
「ダメなの?この前、もっと我儘を言ってもいいって言ってくれたのに……。」

無理させたくないって、僕を想いやってくれるのは嬉しいけれど。
我慢ばっかりさせたくない。
ただでさえ、今回の件ではたくさん心配をかけてしまったんだし。
そのお詫びとお礼も兼ねて、僕だってもっと貴方を甘えさせてあげたいのに。

しょんぼりと俯く僕を目にして、サフィルは真っ赤になって固まっている。
伸るか反るか、迷いに迷っているのだろうか。

彼のどこまでも僕を想いやってくれる優しさは、嬉しい。
優しい彼は好きだけれど、ふと見せるギラリと欲に目を光らせた彼の顔も好きなんだ。
強く求められているのがありありと感じられて、ゾクリと身が粟立ち、飲み込まれてしまいそうになる陶酔感が堪らない。

どこまでも甘く、優しく包み込んでくれるのも好きだけど。
心の箍を外して、剥き出しになった本能も感じてみたい。
今まではとても付いていけそうになくて、あまり強くは望めなかった。

でも、今回は違うんだ。
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