全てを諦めた公爵令息の開き直り

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続編 開き直った公爵令息のやらかし

35話 確定

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「男爵様。そう言えば、昨日は途中で退出させて頂きましたが、あのお客様は……もしかして、昨日お話し下さった男爵様の商談のお相手なのですか?」
「ん?あぁ、そうだ。」
「へぇ。お仕事お忙しくしてらっしゃるんですね。こんな夜も更けて来る頃なのに、大変そう……。今日もその方々は来られるのでしょうか。」
「あぁ、もうすぐ来る予定だ。なかなかお忙しい方で、こんな時間でないと予定が合わなくてな。」

男爵は抱いた肩をスリスリと撫でて来るから、僕がそれ以上奴の行動がエスカレートしない様に尋ねてみると、奴は嬉しそうにペラペラ喋ってくれる。

「そうなんですね…。では、お相手様がお越しになれば、また私達はこの場を失礼しないといけないのでしょうか…。」
「えぇー。男爵様!せっかくお相手させて頂いているのに……もうお側を離れないといけないの?」

僕とシルヴィアが、両側からそれぞれ残念そうに上目遣いで尋ねてみると。

「ふ。そうだなぁ…。」
「私達が居ては……お邪魔ですか?」
「……いや、せっかくこんな美しい娘が二人も居るんだ。早々に手放すのは惜しいな…」
「美しいだなんて……お姉様の美貌には負けます…でもお褒め頂き嬉しいですわ。」

しおらしく俯きながら呟いて、はにかみながら笑うシルヴィアに、男爵はそうかそうか。と笑ってシルヴィアの肩を撫でていた。

いやいやいや、シルヴィア?!
こっちこそ、君の美貌には全く歯が立たないですよ?!
いくら男爵が押してくるタイプには食指が動かない質だから、しおらしくしてみせて奴を惹き付けるにしても。

僕が呆気に取られた顔をしていると、すぐに男爵はこちらを見て来て彼女に背を向ける。
すると、シルヴィアはまた奴を完全に小馬鹿にする顔で嗤っていた。

やめて。
噴き出しそうになるから。

僕は苦笑しながら男爵に笑みを向けるしかなかった。

「そうだ。男爵様……私、昨日これをお返ししそびれてしまって。すみませんでした。」

そう言って、僕は懐からハンカチに包んだ石を取り出し、男爵に返すと。

「ん?……あぁ、そう言えば昨日お前に見せたんだったか。」
「キラキラしていて綺麗ですよね。お相手様ともその石の事をお話しになっているのですか?」
「あぁ。それも今夜でほぼ大詰めになりそうだ。」
「わぁ…!おめでとうございます。それではお祝いしないといけませんね。」
「そうだな、その為にも二人にはまず、ニコライ殿をもてなしてもらわないとな。」
「はい、是非!」

ニッコリと笑って喜ぶ僕に、男爵は単純に笑っている。

……奴は完全に黒だ。

ヴァレンティーノ王太子殿下のお調べにより、あの鉱石が現在この国で問題になりつつある偽銀である事が判明した。
それを何のためらいもなく受け取るなんて。
やっぱりとんでもない奴だな。

ぎこちなく笑う表情の裏で、奴をギロリと睨む心地で見つめていた。

そうこうしている内に、奴らはやって来た。
部屋をノックして店のボーイに扮したテオが、また奴らを案内している。

「よぉ!ディオニシオ。早いな。」
「お待たせしたかな?男爵。」

マルシオとニコライの二人が勝手知ったるという具合で、男爵に気軽に話しかける。

「これはこれはニコライ殿。度々この様な場で申し訳ございませんが、また来て頂き有難い限りです。」
「…お!昨日の可愛い子ちゃん。めげずに今日も男爵サマのお相手とは、仕事熱心だねぇ~。」

ニコライに改まって挨拶をして迎える男爵だったが、そんな彼に構わず、マルシオは僕に構って冷やかしてくる。
瞬時にシルヴィアがイラっとした表情をした為、僕は慌ててマルシオの方へ寄って迎え出た。

「えぇと、マルシオ様……ですよね。昨日は御前を失礼致しました。先程男爵様ともお話をさせて頂いておりました。お仕事のお話が纏まりそうなんですよね。是非、お祝いの席にご一緒させて頂きたくて。」
「ニコライ様も!ようこそいらっしゃいました。お待ち申し上げておりましたのよ。さ、どうぞこちらへ。」

シルヴィアも気持ちを切り替え、ニコライを迎え入れていている。
対面に座れる様にテオが椅子を整えるのを手伝ってくれて。
そして。

「ワインを持ってまいります。」
「えぇ、よろしくね。」

僕と目を合わせたテオは、一瞬目を細めて、やがて小さくコクリと頷いて出て行った。
来客達がやれやれと椅子に腰を下ろして一息ついている内に、テオは戻って来てくれた。
手にワインボトルを持って。

また男爵にラベルを見せて確認を取り、鷹揚に頷いた奴にペコリと礼をしたテオは、そのボトルを僕へ手渡してくれる。
それは、ラベルの色は黒地に白抜きの文字が書かれていたものだった。

……確定だ。
奴はニコライ・チェルネンコで間違いない、という事だ。

この作戦を決行する前に、殿下やセルラト公爵達とも話を通していたんだ。
ニコライが殿下達の目的の人物で間違いなければ黒いラベルのワインを、違えば別の色のラベルの物をテオが持って来る事に決めていた。

そして、テオは黒いラベルのワインを持って来た……。
僕とテオは互いに目を合わせ、緊張を滲ませたが、シルヴィアがそっと割って入って来る。

「ボーイさん、グラスを下さいな。皆様にお酌したいので。」

ニッコリと微笑むシルヴィアは、僕とテオに視線を向け、落ち着く様に促してくれた。
テオはすぐにお盆に乗せて一緒に持って来たグラスを彼女に手渡す。
彼女は穏やかな笑みを崩さないまま、そのグラスをニコライに渡した。
そして、僕も男爵に手渡し、テオはマルシオに渡す。

「お注ぎ致しますね。……えぇと、男爵様。」
「まずはニコライ殿に。」
「はい。……ニコライ様、ようこそお越しくださいました。」

上品な笑みを向け、彼女はそれぞれにお酌をしていった。
皆、乾杯をして、お酒が入りフッと空気が緩んで和やかになっていく。
テオは更にもう一本、ボトルを取りに部屋を後にした。

……確実に証拠を掴んで捕まえてやる。
そう決意を固めた僕とシルヴィアは、互いに視線を交わし、軽く頷き合ったのだった。
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