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続編 開き直った公爵令息のやらかし
33話 作戦開始
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娼館フルールはその開店と同時に店の少女が数人表へ出て行って、また客の勧誘を始める。
それは、僕らの作戦開始の合図でもあった。
————店の開店の一時間半ほど前。
自身の近衛兵と共にヴァレンティーノ王太子が姿をお見せになられて。
「兄上!」
「ロレン、待たせたな。お前の睨んだ通りだ、やっぱり例の偽銀だったよ、コレ。」
朝方にお預けになられたあの石を持って王太子殿下はお越し下さり、ロレンツォ殿下に返された。
「ヴァレンティーノ殿下。」
「ブラス、早々からすまないな。」
「いえ、殿下御自らこちらにいらっしゃるとは。」
「ロレンには悪いが、ディオニシオだけならともかく、あのニコライ殿も絡むとなれば事が大きくなり兼ねないからな。念の為だよ。」
ヴァレンティーノ王太子はセルラト公爵としばらく話しておられたが、少しすると僕らの元に寄って来られる。
「この度は巫子様方のご友人のご令嬢まで協力下さるとの事で、感謝致します。クレイン卿も。……私達は周囲の警戒を張らせて頂きますが、お二人が一番間近で接触される事となりますから、どうぞくれぐれもご注意下さい。決してご無理はなさらないで下さいね。お二人に何かあっては大変ですから。」
「ご配慮、ありがとうございます…王太子殿下。」
「決して無理は致しませんわ。」
柔和な笑みで労わって下さる王太子に、僕らは礼を述べた。
僕らに一言下された後、救世の巫子達にもお声を掛けておられた様だが、今回は特に出番は無い二人は少々つまらなそうな顔でぼやいており、王太子殿下は苦笑しておられた。
だが、話題が僕らの格好へと移り、チラチラとこちらを見ては盛り上がっている……様に見受けられる。
何だよ、コソコソしなくても面と向かって嗤ってくれて良いんだぞ。
僕は若干むすくれたが。
「ふふ。アデリートの王太子まで魅了してしまうなんて。流石はお兄様ね♡」
なんて、シルヴィアは的外れな事を耳打ちして来るものだから。
「いやいやいや。それを言うならシルヴィアでしょ。もぅ、そんな色っぽい恰好しているから……お兄ちゃんは心配だよ。」
「ふふふ。なら、その気持ち忘れないで。お兄様が私を心配してくれてる様に、皆もお兄様の事心配してるんだからね。」
「………分かってるよ。」
「本当にぃ~?」
シルヴィアは訝しい目で僕を見た後、サフィルの方に視線を送る。
ロレンツォ殿下やリアーヌさん達と話を詰めていたサフィルは、不意にシルヴィアの視線に気付くと、隣の僕の方を見て、少ししゅんとなった後、また殿下達と話を続けていた。
「あーあ。サフィル、心配でたまんないんだろうな。しょげちゃった。」
「うぅ……。」
「あぁ、ごめんってお兄様。責めるつもりじゃなかったの。今回のこの件は痛し痒しね。お兄様のこの行動が無ければ、もっと時間が掛かってしまっていたかもしれないし。そうなれば、ニコライも本国に帰っちゃって、有耶無耶になってしまっていたかもしれないわ。」
サフィルと同じく、ちょっとしょんぼりする僕に対して、シルヴィアが精一杯励まそうとしてくれる。
「お兄様……私ね、今回こうやって一緒に協力出来るの嬉しく思ってるの。だって、私…今まで何も出来なかったんだもの。」
「シルヴィア……。」
「だからね、一緒に頑張って悪い奴なんてさっさと捕まえちゃって、そしたら皆でお疲れ会して。で、いっぱい遊びましょ!私、アデリートは初めてだから、とっても楽しみなの。おすすめの屋台とか教えてね!」
ニコッと笑ってくれる彼女に、僕はフッと笑みを零した。
「……うん、そうだね。何処が良いか、候補考えとかないとね。」
「ふふ、楽しみ!」
弾ける笑顔を向けてくれる彼女は、その着ている衣装とは相反してあどけない笑みで。
こんな可愛い妹まで巻き込む事になってしまって心苦しい限りだが、ここまで来れば迷ってばかりはいられない。
僕も腹を括らないと。
もう、とにかく無理なく一生懸命頑張って、皆で協力して決着を付けよう。
僕はそう心に決めた。
すると、ロレンツォ殿下が眼前にやって来て。
「シリル、気負い過ぎてくれぐれも無茶はするんじゃないぞ。」
「はい、殿下。」
「それと、コレを。」
そう言って、殿下は僕にあの石を渡してくれた。
「場の空気と話の流れにもよるだろうが、奴とのやり取りで使えるだろうからさ。」
「そう…ですね。」
「こんだけお膳立てしてやったんだ。今夜来るかな…アイツ。」
「ここまでくれば、早く来て欲しいものですね。」
「……あぁ。」
グッと表情を引き締め、殿下は僕の肩をポンと叩くと、セルラト公爵達の方へ行かれ、また話し込んでいた。
そうして各々最終確認をして、それぞれの場に潜んで行く。
男爵の使う部屋のすぐ隣の部屋に身を潜めるサフィル達は、きっと一番神経を使う筈だ。
お目当ての相手が今夜来てくれるとも限らない。
それでも、いつ来るかも分からないまま、来ることを前提に息を殺して待たねばならないのだから。
「シリル、どうかお気をつけて。」
「サフィルこそ。大変だろうけど…頑張って。」
互いに短い言葉を交わし、それぞれ所定の場所についた。
それは、僕らの作戦開始の合図でもあった。
————店の開店の一時間半ほど前。
自身の近衛兵と共にヴァレンティーノ王太子が姿をお見せになられて。
「兄上!」
「ロレン、待たせたな。お前の睨んだ通りだ、やっぱり例の偽銀だったよ、コレ。」
朝方にお預けになられたあの石を持って王太子殿下はお越し下さり、ロレンツォ殿下に返された。
「ヴァレンティーノ殿下。」
「ブラス、早々からすまないな。」
「いえ、殿下御自らこちらにいらっしゃるとは。」
「ロレンには悪いが、ディオニシオだけならともかく、あのニコライ殿も絡むとなれば事が大きくなり兼ねないからな。念の為だよ。」
ヴァレンティーノ王太子はセルラト公爵としばらく話しておられたが、少しすると僕らの元に寄って来られる。
「この度は巫子様方のご友人のご令嬢まで協力下さるとの事で、感謝致します。クレイン卿も。……私達は周囲の警戒を張らせて頂きますが、お二人が一番間近で接触される事となりますから、どうぞくれぐれもご注意下さい。決してご無理はなさらないで下さいね。お二人に何かあっては大変ですから。」
「ご配慮、ありがとうございます…王太子殿下。」
「決して無理は致しませんわ。」
柔和な笑みで労わって下さる王太子に、僕らは礼を述べた。
僕らに一言下された後、救世の巫子達にもお声を掛けておられた様だが、今回は特に出番は無い二人は少々つまらなそうな顔でぼやいており、王太子殿下は苦笑しておられた。
だが、話題が僕らの格好へと移り、チラチラとこちらを見ては盛り上がっている……様に見受けられる。
何だよ、コソコソしなくても面と向かって嗤ってくれて良いんだぞ。
僕は若干むすくれたが。
「ふふ。アデリートの王太子まで魅了してしまうなんて。流石はお兄様ね♡」
なんて、シルヴィアは的外れな事を耳打ちして来るものだから。
「いやいやいや。それを言うならシルヴィアでしょ。もぅ、そんな色っぽい恰好しているから……お兄ちゃんは心配だよ。」
「ふふふ。なら、その気持ち忘れないで。お兄様が私を心配してくれてる様に、皆もお兄様の事心配してるんだからね。」
「………分かってるよ。」
「本当にぃ~?」
シルヴィアは訝しい目で僕を見た後、サフィルの方に視線を送る。
ロレンツォ殿下やリアーヌさん達と話を詰めていたサフィルは、不意にシルヴィアの視線に気付くと、隣の僕の方を見て、少ししゅんとなった後、また殿下達と話を続けていた。
「あーあ。サフィル、心配でたまんないんだろうな。しょげちゃった。」
「うぅ……。」
「あぁ、ごめんってお兄様。責めるつもりじゃなかったの。今回のこの件は痛し痒しね。お兄様のこの行動が無ければ、もっと時間が掛かってしまっていたかもしれないし。そうなれば、ニコライも本国に帰っちゃって、有耶無耶になってしまっていたかもしれないわ。」
サフィルと同じく、ちょっとしょんぼりする僕に対して、シルヴィアが精一杯励まそうとしてくれる。
「お兄様……私ね、今回こうやって一緒に協力出来るの嬉しく思ってるの。だって、私…今まで何も出来なかったんだもの。」
「シルヴィア……。」
「だからね、一緒に頑張って悪い奴なんてさっさと捕まえちゃって、そしたら皆でお疲れ会して。で、いっぱい遊びましょ!私、アデリートは初めてだから、とっても楽しみなの。おすすめの屋台とか教えてね!」
ニコッと笑ってくれる彼女に、僕はフッと笑みを零した。
「……うん、そうだね。何処が良いか、候補考えとかないとね。」
「ふふ、楽しみ!」
弾ける笑顔を向けてくれる彼女は、その着ている衣装とは相反してあどけない笑みで。
こんな可愛い妹まで巻き込む事になってしまって心苦しい限りだが、ここまで来れば迷ってばかりはいられない。
僕も腹を括らないと。
もう、とにかく無理なく一生懸命頑張って、皆で協力して決着を付けよう。
僕はそう心に決めた。
すると、ロレンツォ殿下が眼前にやって来て。
「シリル、気負い過ぎてくれぐれも無茶はするんじゃないぞ。」
「はい、殿下。」
「それと、コレを。」
そう言って、殿下は僕にあの石を渡してくれた。
「場の空気と話の流れにもよるだろうが、奴とのやり取りで使えるだろうからさ。」
「そう…ですね。」
「こんだけお膳立てしてやったんだ。今夜来るかな…アイツ。」
「ここまでくれば、早く来て欲しいものですね。」
「……あぁ。」
グッと表情を引き締め、殿下は僕の肩をポンと叩くと、セルラト公爵達の方へ行かれ、また話し込んでいた。
そうして各々最終確認をして、それぞれの場に潜んで行く。
男爵の使う部屋のすぐ隣の部屋に身を潜めるサフィル達は、きっと一番神経を使う筈だ。
お目当ての相手が今夜来てくれるとも限らない。
それでも、いつ来るかも分からないまま、来ることを前提に息を殺して待たねばならないのだから。
「シリル、どうかお気をつけて。」
「サフィルこそ。大変だろうけど…頑張って。」
互いに短い言葉を交わし、それぞれ所定の場所についた。
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