全てを諦めた公爵令息の開き直り

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続編 開き直った公爵令息のやらかし

27話 情報共有

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「……お前だったとは恐れ入った。どーりでクレアも知らない筈だ。」
「僕の体験入店が決まってから、すぐにモニカさんと表へ出たので、お店の方達との顔合わせも無いまま始めてしまったので。」
「いや、それはまぁ……下手に皆と顔合わせするより、その方が良かっただろうが……」

殿下はうーん、と唸ってから、改めで僕の顔を見てきた。

「……詳しい話を聞かせて欲しいんだが、取り敢えず、まずは着替えるか?」

遠慮がちに言われて、僕は改めて今の格好を思い出した。
そうだ、帰って来てからサフィルと二人で話し込んでいて、まだ女装のままだった。

「あ……は、はい。そうします。」
「着替え終わったら、母上の部屋へ来てくれ。ソフィアは既に帰ってしまったが、母上が心配していたから。巫子殿達や、お前の妹も心配しているし。あとテオも。…あの男と関わったんなら、何でもいい……話を聞かせてくれ。それと、今後の事についても一緒に考えよう。」
「わかりました。」

僕がコクリと頷くと、殿下はフッと一瞬柔らかな笑みを見せて、背を向けて部屋を後にした。

サフィルに手伝ってもらい、なんとかお借りした衣装を傷めずに脱げた僕は、いつもの服装に着替え直した。
やっぱり履き慣れたズボンの方が気楽だなぁ。
顔にまだ残っていた化粧も洗い流してさっぱり出来た僕は、サフィルと共にベルティーナ様のお部屋へとやって来た。

「……失礼致します。」
「クレイン卿!大丈夫ですか?……さっきは酷い顔色だったから。」

入室早々、待ってましたとばかりに僕らを迎えて下さったベルティーナ様は、とても心配した顔で尋ねて下さった。

「……あ、はい。申し訳ございませんでした、ご心配をおかけして。もう大丈夫ですから。」
「…そう?ならよかったのだけど…。さ、皆お待ちかねよ、いらっしゃい。」

そう言って、皆の待つ広間のソファーへと促して下さった。

「シリル…!」
「皆…っ!テオも。さっきはその…ごめん。悪かったよ。ベルティーナ様、ソフィア様にも…。心配をおかけして、すみませんでした。」

待ってくれていた皆を目にして、僕は改めて謝罪を述べると、それぞれにホッとした顔をしてくれて、僕にも座す様に言ってくれた。
僕はサフィルと隣同士で空いている席に腰を掛け、また僕の後ろにテオが控えてくれた。
目が合い、優しい笑みを向けてくれる。

僕はようやく安堵して、腰を据えて本題に入れた。

「カレン嬢、カイト殿、シルヴィア嬢も。さっき話した通り、我々は今……ディオニシオ・トレント男爵、ソイツを追っている。ただの小狡い奴ではあるが、機を見るに敏と言うか…目敏いと言うか…。とにかく妙に世渡りが上手くて、今まで強かにやってきたウザったい奴なんだが……。ここ最近、動きが怪しくなって来てさ。それで、此処の所よく顔を出していた娼館フルールに、俺達は潜入して……ずっと動きを見張っていたんだが…」
「たまにお抱えの商人と会っていたのは確認出来たのですが、それ以外は特にこれと言って進展は見当たらず……」

ロレンツォ殿下とサフィルは互いに、軽く経緯を話してくれた。

「奴は女癖が悪いから、隙を見せるならソコだろうと踏んだんだが、意外となかなか尻尾を出さなくてな。」
「……そんな折に出くわしてしまったんですね、僕は。」

おずおずと僕が口を開くと、殿下が頷いた。

「そうだ。あの娼館は、店主のリアーヌやモニカだけでなく、クレアや他にも何人か知り合いが居るから、アイツが来店した際には何度か話を聞いてみたんだが、皆どれも似たり寄ったりな事しか言ってなかったからなぁ。」
「どんな事です?」
「………あんま聞かねー方がいいんじゃねぇか?耳が腐るだけだ。店でしょうもない変態行為をお楽しみなだけだったから。」
「……あー。」
「…………。」

はぁあ、と溜息をつきながら答える殿下に、僕が店での行為を思い出して遠い目をして見せると、隣ではサフィルがげんなりした顔をしていた。
……多分、今まで殿下と一緒に話を聞かされて、ほとほと嫌になってたんだろうな……。

「で、その変態オヤジは……今日はお兄様に目を付けたって言うの?」

僕の向かいに座っていたシルヴィアが、ムッとした顔で殿下に尋ねた。
訊かれた殿下は、一瞬うっと呻いてから、頷いていた。
すると、更にシルヴィアの視線がギロリと厳しいものになる。
それに対して、殿下は気まずそうに目線を逸らしている。

シルヴィアの背後から溢れ出て来る負のオーラが半端ない。
カイトやカレンも僕を心配してくれて、男爵に対して怒ってくれている様だったけれど。
シルヴィアの其れは尋常ではなかった。
僕らがこの部屋に来るまでに、相当憤っていたのだろうな……。

「アイツ……かなり質の悪い奴に感じましたね。きちんと対応しているあの店のルールを平気で無視して、新人に手を出して嫌がるのを喜ぶ、随分迷惑な質でした……。僕はテオの助けもあって、途中で抜け出せたので事無きを得ましたが。ただ、まぁそういう好色な変態男ってだけの感じしかしませんでしたよ。普段の政界での動きは敏いものがあるのかも知れませんが、好色故に……確かにソコでボロを出しそう。殿下達の狙いは正しいと思います。……コレ、見て下さいますか?」

僕は店での奴の振る舞いを辟易しながらも思い出し、ポケットからある物を取り出した。

「……奴に名とどんな仕事をしているのかと訊いた際に、僕の手に乗せて自慢していたんです。『国外に何度も足を運んで、最近特別に良いヤツを見つけた。流通販路も築けた品だ。』って。確かそんな事を言っていました。」

あの時、僕に自慢してきた男爵は、石を取り出して見せてくれたまま、僕に熱い視線を送って来て、その後すぐ事に及ぼうとして来たから、回収すんの忘れてたんだろうな。
ちゃっかり持って来たんだよね、と笑って言った。

「何?この石。」
「……鉄鉱石?あー、でも鉄ってクロガネって言うぐらいだから、もうちょっと黒っぽいのかなぁ…?え、じゃあ、もしかして…銀?!シルバー?!」

僕が間にあるテーブルに置いた石を見て、カイトは眉を顰め、カレンはテンションが高くなった。

「……銀は国の管理下に置かれている筈よ。悪巧みにしたって、そんな銀鉱石を一介の男爵如きが取引で扱える筈がないわ。」

腕を組んで、シルヴィアは憮然と言い放った。
その答えに、殿下も厳しい顔をする。

「だが、見た目は銀の鉱石の様に見えるな……。」

あんな小者に何故……?
殿下は口に手を当てて考え込むと、その向かい側に座るカイトが、軽く口を開いた。

「銀の様で銀じゃないのかなぁ……?なんか宮センが言ってたニッケルみたい~。」
「何だそれは?」

初めて聞く言葉に、僕が目を丸めて尋ねてみると。

「あー、えっとね。俺らの世界で使われている金属の一種でさ。俺らの世界じゃ生活の色んな物に使われてて、合金で加工して使う事が多いイメージあるけど、その辺は工業科でもないし、分かんないなー。ただ、中学……ええと、今通ってる前に通ってた学校で、理科の授業の後、センセーが雑学で教えてくれたんだけどさ……。」

そう言って、カイトは思い出話がてら、数年前の出来事を教えてくれた————…。
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