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続編 開き直った公爵令息のやらかし
25話 何も出来て無いのに
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「シリル。」
「……」
「シリル。此処には私と貴方しか居ません。なので、正直に話して下さい。」
「な…何を……?」
初めは少し怒気を孕んだ声音で。
次は、もう少し柔らかい声音で、サフィルに尋ねられた僕は。
ビクリと肩が跳ねたが、ようやく声を出すことが出来た。
「店での事です。太ももを撫で回されたって、本当ですか?」
「……うん。」
「……っ!そんな目に遭われていたなんて。同じあの場に私も居たのにっ」
サフィルは眉の皺を深めて、ギュッと拳を固く握り込んだ。
「それ以上はされてない…ですよね?」
「……ごめんなさい。」
確認して来るサフィルに。
心底心配してくれているから、尋ねてくれているのに。
僕はそんな彼に目も合わせずに、俯いたまま謝罪の言葉を吐いたら。
「………まさか、されたんですか?」
絶望すら滲んだ悲壮な声音で、再び問うて来た彼に、僕は今度は顔を上げた。
「違う!危なかったけど、ちゃんとテオが助けてくれたから!………ごめんなさい。」
「シリル、それは何に対する謝罪です?」
「僕の軽率な行動の所為で、サフィル達の仕事の邪魔をしてしまった事…」
「それだけですか?」
「…っ。皆を……サフィルを…心配させてしまった、事…」
サフィルは、己が抱えた怒りを収め、努めて冷静な声音で問うてくれたが。
その抑え込んだ怒りが、恐ろしい。
「シリル…」
僕の怯えを察知したのか、心配した顔で手を伸ばして来てくれたが。
「…っ」
僕は思わず、ビクッとまた肩を跳ねさせてしまった。
それを、拒絶と捉えてしまったのかは分からないが、サフィルが……傷付いた顔をした様に、見えて。
「すみません、貴方を問い詰めてしまって。違うんです。私の方こそ、もっとちゃんと…話しておくべきでした。貴方が不安になるのは当たり前でしたのに。逃げたのは私なんです。」
項垂れるサフィルを目の当たりにし、今度は僕の方が顔を上げた。
「?」
「……娼館に潜入している事、本当は昨日…きちんとお話するべきでした。でも、そんな事を言ってしまったら、貴方に失望されてしまうんじゃないかと思って、怖くて。キスで逃げてしまいました。そしたら、抑えが効かなくなってしまって。」
「…そっか。」
懺悔する様に口にする彼に、僕はポツリとそう呟いた。
「でも、まさかあの様な……。」
「……。」
「こんな事なら、もういっそ…閉じ込めてしまいたいってくらい……」
はは。と少し投げやりな自嘲の笑みを零すサフィルに、僕は。
「…いいよ。」
「え。……は?」
口にしてしまっていたその言葉は、彼の全くの本音ではないのだろう。
けれど、口を突いて出て来るほどには、彼の望みの一部なのかもしれない。
それならば。
僕は、首を垂れ、両手を合わせて、おずおずと彼の前に自身の両腕を差し出した。
「それで、サフィルが安心出来るなら…閉じ込めてくれたって……構わない。」
「~~~何言ってんです?!良い訳無いでしょ?!ただ、そのくらい…どうしようもなく好きで、誰の目にも触れさせたくなくなってしまうくらい…心配になってしまうってだけでっ」
余裕が無いだけの、醜い独占欲から出て来てしまった、うわ言でしかない。
こんなものは。
サフィルは、自分で口にしてしまった事を、同じ己の口で否定する。
それなのに。
「…と、閉じ込めたって、縛り付けたって…限界を超えて気を失ってしまっても無理矢理してくれたって…何だっていい。好きにしてくれて、構わない……僕の事。」
「シリル!」
「あ、貴方の気の済むまで、好きにしてくれて…いいから。お願い、嫌いにならないでっ!まだ見限らないで…僕の事…。まだ何も出来て無いのにっ」
震える声で、必死に言葉を紡いだ。
ただの気休めでもなければ、嘯いているつもりもない。
……失いたくないんだ。
自分の愚かな失態の所為で、これ以上、彼に失望されたくない。
「……」
「シリル。此処には私と貴方しか居ません。なので、正直に話して下さい。」
「な…何を……?」
初めは少し怒気を孕んだ声音で。
次は、もう少し柔らかい声音で、サフィルに尋ねられた僕は。
ビクリと肩が跳ねたが、ようやく声を出すことが出来た。
「店での事です。太ももを撫で回されたって、本当ですか?」
「……うん。」
「……っ!そんな目に遭われていたなんて。同じあの場に私も居たのにっ」
サフィルは眉の皺を深めて、ギュッと拳を固く握り込んだ。
「それ以上はされてない…ですよね?」
「……ごめんなさい。」
確認して来るサフィルに。
心底心配してくれているから、尋ねてくれているのに。
僕はそんな彼に目も合わせずに、俯いたまま謝罪の言葉を吐いたら。
「………まさか、されたんですか?」
絶望すら滲んだ悲壮な声音で、再び問うて来た彼に、僕は今度は顔を上げた。
「違う!危なかったけど、ちゃんとテオが助けてくれたから!………ごめんなさい。」
「シリル、それは何に対する謝罪です?」
「僕の軽率な行動の所為で、サフィル達の仕事の邪魔をしてしまった事…」
「それだけですか?」
「…っ。皆を……サフィルを…心配させてしまった、事…」
サフィルは、己が抱えた怒りを収め、努めて冷静な声音で問うてくれたが。
その抑え込んだ怒りが、恐ろしい。
「シリル…」
僕の怯えを察知したのか、心配した顔で手を伸ばして来てくれたが。
「…っ」
僕は思わず、ビクッとまた肩を跳ねさせてしまった。
それを、拒絶と捉えてしまったのかは分からないが、サフィルが……傷付いた顔をした様に、見えて。
「すみません、貴方を問い詰めてしまって。違うんです。私の方こそ、もっとちゃんと…話しておくべきでした。貴方が不安になるのは当たり前でしたのに。逃げたのは私なんです。」
項垂れるサフィルを目の当たりにし、今度は僕の方が顔を上げた。
「?」
「……娼館に潜入している事、本当は昨日…きちんとお話するべきでした。でも、そんな事を言ってしまったら、貴方に失望されてしまうんじゃないかと思って、怖くて。キスで逃げてしまいました。そしたら、抑えが効かなくなってしまって。」
「…そっか。」
懺悔する様に口にする彼に、僕はポツリとそう呟いた。
「でも、まさかあの様な……。」
「……。」
「こんな事なら、もういっそ…閉じ込めてしまいたいってくらい……」
はは。と少し投げやりな自嘲の笑みを零すサフィルに、僕は。
「…いいよ。」
「え。……は?」
口にしてしまっていたその言葉は、彼の全くの本音ではないのだろう。
けれど、口を突いて出て来るほどには、彼の望みの一部なのかもしれない。
それならば。
僕は、首を垂れ、両手を合わせて、おずおずと彼の前に自身の両腕を差し出した。
「それで、サフィルが安心出来るなら…閉じ込めてくれたって……構わない。」
「~~~何言ってんです?!良い訳無いでしょ?!ただ、そのくらい…どうしようもなく好きで、誰の目にも触れさせたくなくなってしまうくらい…心配になってしまうってだけでっ」
余裕が無いだけの、醜い独占欲から出て来てしまった、うわ言でしかない。
こんなものは。
サフィルは、自分で口にしてしまった事を、同じ己の口で否定する。
それなのに。
「…と、閉じ込めたって、縛り付けたって…限界を超えて気を失ってしまっても無理矢理してくれたって…何だっていい。好きにしてくれて、構わない……僕の事。」
「シリル!」
「あ、貴方の気の済むまで、好きにしてくれて…いいから。お願い、嫌いにならないでっ!まだ見限らないで…僕の事…。まだ何も出来て無いのにっ」
震える声で、必死に言葉を紡いだ。
ただの気休めでもなければ、嘯いているつもりもない。
……失いたくないんだ。
自分の愚かな失態の所為で、これ以上、彼に失望されたくない。
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