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続編 開き直った公爵令息のやらかし
24話 後悔先に立たず
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「シリル、答えて下さい。」
「………。」
「シリルッ!」
「…っ」
今まで見た事も無い様な鋭い視線を、サフィルから向けられて。
怖くてとても目を合わせられない。
僕は、より俯いて縮こまった。
「テオ、君はシリルの傍に居たんだろ?教えてくれ。」
僕を問い詰めても埒が明かないと理解したサフィルは、今度は僕の従者のテオに尋ねたが。
「……それが、ずっと一緒だった訳では無くて…」
「あ、あの!私の所為なんです。」
言い淀むテオに対して、扉前に立つモニカさんが身を乗り出して口を開いた。
「シリル様が体験入店をご希望だったのですが、いきなり店内をうろついてしまっては、お客から店の女の子と思われて、場合によっては危険かと思ったので、うちでは新人がよくやる店の前での客引きをしようと、一緒に表でやってたんです。でも…私がヘマをしてしまって。お客を掴まえようとしたら突き飛ばされちゃって、で、手をちょっと擦り剝いちゃいまして。そしたら、シリル様が心配して下さって、テオ様を付けて下さったんです……。それで…」
「モニカさんをこの休憩室へお連れして、幸い軽い傷でしたので、簡単に処置をし……すぐにシリル様の元へ戻ろうとしたんですが……既にお客に捕まってしまわれてらっしゃって。客からも退出を言われてしまい、シリル様がその…必要な時は呼ぶから、と仰ったので、しばらく部屋のすぐ外で待機してました。それで、声が聞こえて、すぐ飛び込もうとしたところ、その客の連れに捕まってしまって。仕方なく、連れの者と一緒に入室し、シリル様の退室が叶いました。」
モニカさんに続いて、テオも殿下達に経緯を説明していた。
「あっぶないなぁ…。でも、何事も無かったみたいで良かったよ~。まさか、そんな事になってたなんて…」
びっくりしたぁ~。と苦笑するカイトの言葉に、テオが反論した。
「何事も無くなんて無いですよ!……殿下!俺、アイツを始末しないと気が収まらないんですが!あんの野郎…シリル様にっ」
「わー!もう、ごめん!ごめんなさい!!僕が悪かったから!」
マズい!
激昂しているテオをこのままにしておくと、ある事ある事全部喋り尽くされそうだ。
それまでとは打って変わって、僕はバッと身を乗り出すと、僕の後ろに立って喋っていたテオを遮る様に声を上げた。
そうしたら。
「…っ!シリル、もう帰りましょう。続きは部屋で聞かせて下さい。」
「え“…っ」
「すみませんが殿下、先に二人で帰らせて頂きます。……巫子様方、シルヴィア様。せっかくまたこちらの世界へお越し下さったのに、申し訳ありませんが先に失礼させて頂きます。いいですよね、殿下。」
「あ?あぁ……」
ゾッとする様な鋭い眼光で視線をサフィルから向けられたロレンツォ殿下は、彼の無言の圧力に気圧されて、呆気に取られて頷いていた。
すると。
「やっ!自分で歩くから、降ろしてっ」
逃げる事を許さないと言う様に、僕はまた昨日みたいにサフィルにお姫様抱っこで抱え上げられた。
二人だけの時でも勘弁願いたいのに、ましてや、テオや殿下達だけでなく、巫子達や……シルヴィアの前でされるなんて。
僕は嫌がって、彼の腕の中で暴れてみたが。
ガッチリと抱えられたまま、僕の顔を覗き込んで来たサフィルに。
「ダメです。」
ニッコリと極上の笑みを向けられて。
けれど、その表情の奥にある凄まじい怒りが見え隠れして。
「…ひゃい。」
僕は、そんな情けない声しか出なかった。
「え、ちょ、ちょっとぉ!せっかくお兄様に会えたのに、勝手に連れてくなーっ!」
「そーだよぉ!せっかくシリルといっぱい遊ぼうと思ったのにぃ!」
僕を抱えてその場から出て行くサフィルの背中に、シルヴィアとカイトが不満を投げかけていたが、彼の耳には全く届いていないかの様だった。
店を出たら降ろしてもらえたものの。
彼は何も言葉を発せず、無言のまま手を引かれて真っ暗になった道を歩き、気付いたら馬車に乗せられていたが、サフィルが何処でどうやってそれを拾っていたのか……記憶に無い。
馬車を降りたら、また同じ様に抱えられて。
帰りを心配してくれていたダリア嬢が、ベルティーナ様と共に僕達を迎え入れてくれた様だったが、覚えていない。
ただただ生きた心地がしなかった。
そして、ようやく気付いた時には、部屋のベッドの上に降ろされたところだった。
「………。」
「シリルッ!」
「…っ」
今まで見た事も無い様な鋭い視線を、サフィルから向けられて。
怖くてとても目を合わせられない。
僕は、より俯いて縮こまった。
「テオ、君はシリルの傍に居たんだろ?教えてくれ。」
僕を問い詰めても埒が明かないと理解したサフィルは、今度は僕の従者のテオに尋ねたが。
「……それが、ずっと一緒だった訳では無くて…」
「あ、あの!私の所為なんです。」
言い淀むテオに対して、扉前に立つモニカさんが身を乗り出して口を開いた。
「シリル様が体験入店をご希望だったのですが、いきなり店内をうろついてしまっては、お客から店の女の子と思われて、場合によっては危険かと思ったので、うちでは新人がよくやる店の前での客引きをしようと、一緒に表でやってたんです。でも…私がヘマをしてしまって。お客を掴まえようとしたら突き飛ばされちゃって、で、手をちょっと擦り剝いちゃいまして。そしたら、シリル様が心配して下さって、テオ様を付けて下さったんです……。それで…」
「モニカさんをこの休憩室へお連れして、幸い軽い傷でしたので、簡単に処置をし……すぐにシリル様の元へ戻ろうとしたんですが……既にお客に捕まってしまわれてらっしゃって。客からも退出を言われてしまい、シリル様がその…必要な時は呼ぶから、と仰ったので、しばらく部屋のすぐ外で待機してました。それで、声が聞こえて、すぐ飛び込もうとしたところ、その客の連れに捕まってしまって。仕方なく、連れの者と一緒に入室し、シリル様の退室が叶いました。」
モニカさんに続いて、テオも殿下達に経緯を説明していた。
「あっぶないなぁ…。でも、何事も無かったみたいで良かったよ~。まさか、そんな事になってたなんて…」
びっくりしたぁ~。と苦笑するカイトの言葉に、テオが反論した。
「何事も無くなんて無いですよ!……殿下!俺、アイツを始末しないと気が収まらないんですが!あんの野郎…シリル様にっ」
「わー!もう、ごめん!ごめんなさい!!僕が悪かったから!」
マズい!
激昂しているテオをこのままにしておくと、ある事ある事全部喋り尽くされそうだ。
それまでとは打って変わって、僕はバッと身を乗り出すと、僕の後ろに立って喋っていたテオを遮る様に声を上げた。
そうしたら。
「…っ!シリル、もう帰りましょう。続きは部屋で聞かせて下さい。」
「え“…っ」
「すみませんが殿下、先に二人で帰らせて頂きます。……巫子様方、シルヴィア様。せっかくまたこちらの世界へお越し下さったのに、申し訳ありませんが先に失礼させて頂きます。いいですよね、殿下。」
「あ?あぁ……」
ゾッとする様な鋭い眼光で視線をサフィルから向けられたロレンツォ殿下は、彼の無言の圧力に気圧されて、呆気に取られて頷いていた。
すると。
「やっ!自分で歩くから、降ろしてっ」
逃げる事を許さないと言う様に、僕はまた昨日みたいにサフィルにお姫様抱っこで抱え上げられた。
二人だけの時でも勘弁願いたいのに、ましてや、テオや殿下達だけでなく、巫子達や……シルヴィアの前でされるなんて。
僕は嫌がって、彼の腕の中で暴れてみたが。
ガッチリと抱えられたまま、僕の顔を覗き込んで来たサフィルに。
「ダメです。」
ニッコリと極上の笑みを向けられて。
けれど、その表情の奥にある凄まじい怒りが見え隠れして。
「…ひゃい。」
僕は、そんな情けない声しか出なかった。
「え、ちょ、ちょっとぉ!せっかくお兄様に会えたのに、勝手に連れてくなーっ!」
「そーだよぉ!せっかくシリルといっぱい遊ぼうと思ったのにぃ!」
僕を抱えてその場から出て行くサフィルの背中に、シルヴィアとカイトが不満を投げかけていたが、彼の耳には全く届いていないかの様だった。
店を出たら降ろしてもらえたものの。
彼は何も言葉を発せず、無言のまま手を引かれて真っ暗になった道を歩き、気付いたら馬車に乗せられていたが、サフィルが何処でどうやってそれを拾っていたのか……記憶に無い。
馬車を降りたら、また同じ様に抱えられて。
帰りを心配してくれていたダリア嬢が、ベルティーナ様と共に僕達を迎え入れてくれた様だったが、覚えていない。
ただただ生きた心地がしなかった。
そして、ようやく気付いた時には、部屋のベッドの上に降ろされたところだった。
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