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続編 開き直った公爵令息のやらかし
18話 新人だもの
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「ふわぁ…」
促されて入った部屋は、綺麗に整えられていて。
ベッドやソファーに薄水色の天蓋が付いていて、綺麗だった。
初めて入る店の室内を興味深げに見渡していると。
「部屋に入るのも初めてなのか?」
「…はい!先ずは表でお客様をご案内する事だけしか、まだ教わっていなかったので。こうしてきちんと目にするのは初めてで。」
「ククッ。本当にお前は初々しくて可愛いな。」
男爵は実に満足そうに喉の奥を鳴らして笑っている。
ディオニシオ・トレント男爵。
元はアデリート西部の地方、アレンツィの富豪ガスパロ商会の会計責任者で、主人のガスパロを裏切り、先代トレント男爵を陥れ、その地位と家を乗っ取った悪党で。
そして、なにより。
前世では、ベルティーナ様に死を覚悟させるまでに追い詰めた人物だ。
その所為で、ロレンツォ殿下は耐えかねて幻惑の虜にまで手を出してしまい、サフィルもまた……ずっと苦しみ続けた。
そんな元凶の男が……今、目の前に…居る、のだが。
見た目は中肉中背で、ちょっとお腹が出て来ている。
言ってしまえば何だが……ただの女好きのおっさんじゃないか。
僕の事、女のコと疑わず、ニヤニヤした目で見てくるし。
舐め回す様に見つめて来られて、気持ち悪い。
クレアさん、今度は是非指名して下さいね。なんて、よくお世辞でも言えたもんだよね。
大変なお仕事なんだな~。
僕は心の中で彼女を尊敬した。
「さぁ、部屋を見回すのはもう良いだろう?そろそろこっちに来い。」
「あ、すみません。」
部屋の大きなソファーに促されて、男爵はどっかりと腰を下ろして、隣に僕を座らせた。
……良かった。
股の間に座らされなくて。
昨日のサフィルみたいに、後ろからピッタリくっ付いて来られたら、完全に逃げ場が無くなるもんね。
それに、後ろから抱き付いて来られようもんなら、ぺったんこの胸に気付かれて、男だってバレちゃう。
………あ“。
そうだ。
お触りされたらバレちゃうじゃん!
マズい!非常にマズいぞ!
僕は、また心臓がドクドクと早鐘を打っているのを実感した。
「あ、あの。男爵様のお名前を教えて頂いても?」
取り敢えず、会話を。
無難な会話で場を繋ぐんだ。
僕はキョトンとした顔をして、素知らぬフリで彼に尋ねてみたら。
「…私はディオニシオ・トレント男爵だ。西部のアレンツィで交易を担当している。」
やっぱり、ですよねー。
もしかして、ターゲットとは別の、同姓の男爵とかかも……。
という可能性も、一応考えたが。
同姓同名で爵位までも同じ者が居るとは、考えづらいので。
やはり、元凶ご本人だった。
————仕方ない。
こうなれば、情報搾り取り作戦、決行するか。
「まぁ!アレンツィですか。私は行った事無いです。男爵様はアレンツィでどんな交易のお仕事されてらっしゃるんですか?」
「ん?まぁ、普段は港に入って来る物資の管理や新しい販路の開拓、珍しい品々を見つけに行って輸入にこぎつける事だ。」
「へぇ…!一言で交易のお仕事って言っても、色々あるんですね。」
「そうだな。国外にも何度も足を運んで、最近、特別に良いヤツを見つけて。流通販路も築けたんだ。これがその品さ。」
そう言って、男爵は懐から綺麗な光沢のある金属の欠片を取り出すと、僕の手にちょこんと置いた。
「……キラキラして綺麗ですね。」
「それよりも美しいお前が言うと、その鉱石の価値も何倍にも上がりそうだ。」
そう言って、僕の肩に腕を回した男爵は、銀色の髪を一房取って、うっとりとした目でキスをしている。
…あ、すみません。
それ、僕の地毛じゃなくて、ただの付け髪なんですよね。
でも、男爵はそんな事には気付いていないのか、自身の唇にその髪を付けたまま、僕の方に目線を寄越してくる。
うーん。
どういった反応をすればいいのでしょう?
取り敢えず、困った様に笑って誤魔化した。
仕方ないよね、新人だもん。
促されて入った部屋は、綺麗に整えられていて。
ベッドやソファーに薄水色の天蓋が付いていて、綺麗だった。
初めて入る店の室内を興味深げに見渡していると。
「部屋に入るのも初めてなのか?」
「…はい!先ずは表でお客様をご案内する事だけしか、まだ教わっていなかったので。こうしてきちんと目にするのは初めてで。」
「ククッ。本当にお前は初々しくて可愛いな。」
男爵は実に満足そうに喉の奥を鳴らして笑っている。
ディオニシオ・トレント男爵。
元はアデリート西部の地方、アレンツィの富豪ガスパロ商会の会計責任者で、主人のガスパロを裏切り、先代トレント男爵を陥れ、その地位と家を乗っ取った悪党で。
そして、なにより。
前世では、ベルティーナ様に死を覚悟させるまでに追い詰めた人物だ。
その所為で、ロレンツォ殿下は耐えかねて幻惑の虜にまで手を出してしまい、サフィルもまた……ずっと苦しみ続けた。
そんな元凶の男が……今、目の前に…居る、のだが。
見た目は中肉中背で、ちょっとお腹が出て来ている。
言ってしまえば何だが……ただの女好きのおっさんじゃないか。
僕の事、女のコと疑わず、ニヤニヤした目で見てくるし。
舐め回す様に見つめて来られて、気持ち悪い。
クレアさん、今度は是非指名して下さいね。なんて、よくお世辞でも言えたもんだよね。
大変なお仕事なんだな~。
僕は心の中で彼女を尊敬した。
「さぁ、部屋を見回すのはもう良いだろう?そろそろこっちに来い。」
「あ、すみません。」
部屋の大きなソファーに促されて、男爵はどっかりと腰を下ろして、隣に僕を座らせた。
……良かった。
股の間に座らされなくて。
昨日のサフィルみたいに、後ろからピッタリくっ付いて来られたら、完全に逃げ場が無くなるもんね。
それに、後ろから抱き付いて来られようもんなら、ぺったんこの胸に気付かれて、男だってバレちゃう。
………あ“。
そうだ。
お触りされたらバレちゃうじゃん!
マズい!非常にマズいぞ!
僕は、また心臓がドクドクと早鐘を打っているのを実感した。
「あ、あの。男爵様のお名前を教えて頂いても?」
取り敢えず、会話を。
無難な会話で場を繋ぐんだ。
僕はキョトンとした顔をして、素知らぬフリで彼に尋ねてみたら。
「…私はディオニシオ・トレント男爵だ。西部のアレンツィで交易を担当している。」
やっぱり、ですよねー。
もしかして、ターゲットとは別の、同姓の男爵とかかも……。
という可能性も、一応考えたが。
同姓同名で爵位までも同じ者が居るとは、考えづらいので。
やはり、元凶ご本人だった。
————仕方ない。
こうなれば、情報搾り取り作戦、決行するか。
「まぁ!アレンツィですか。私は行った事無いです。男爵様はアレンツィでどんな交易のお仕事されてらっしゃるんですか?」
「ん?まぁ、普段は港に入って来る物資の管理や新しい販路の開拓、珍しい品々を見つけに行って輸入にこぎつける事だ。」
「へぇ…!一言で交易のお仕事って言っても、色々あるんですね。」
「そうだな。国外にも何度も足を運んで、最近、特別に良いヤツを見つけて。流通販路も築けたんだ。これがその品さ。」
そう言って、男爵は懐から綺麗な光沢のある金属の欠片を取り出すと、僕の手にちょこんと置いた。
「……キラキラして綺麗ですね。」
「それよりも美しいお前が言うと、その鉱石の価値も何倍にも上がりそうだ。」
そう言って、僕の肩に腕を回した男爵は、銀色の髪を一房取って、うっとりとした目でキスをしている。
…あ、すみません。
それ、僕の地毛じゃなくて、ただの付け髪なんですよね。
でも、男爵はそんな事には気付いていないのか、自身の唇にその髪を付けたまま、僕の方に目線を寄越してくる。
うーん。
どういった反応をすればいいのでしょう?
取り敢えず、困った様に笑って誤魔化した。
仕方ないよね、新人だもん。
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