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続編 開き直った公爵令息のやらかし
16話 体験入店
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「うぅ…ぐす…っ」
まだ少ししゃくり上げているテオの背中を撫でて宥めていると。
「……で、どうします?シリル様。色々経験を積みたいって事なら、接客しながらお店の中ウロウロするのも一つの手ですが、それすると、アルベリーニ卿達にバレてしまうだけですしねぇ。」
「そうですよね…。」
リアーヌさんが、考えてくれていると。
「あ、あの。何なら表で一緒に客引きします?新人は特によくやらされるんです。新人って分かる様に花飾りを付けて。だからお客側も分かり易いし。店内をうろついてたら、酔ったお客に当たった場合、『新人だから何も出来ません』って説明しても通らないから、危ないと思うんですよね。」
と、モニカさんが初心者でも出来そうな事を提案してくれた。
しかし、店主のリアーヌさんは渋い顔をする。
「えー。体験入店って事なら、それもアリかもしれないけど…。流石に上流貴族の御方に、そんな真似させられないわ。」
って、心配して下さるから、僕は。
「いえ!全然大丈夫です!むしろやらせて下さい!やってみたいです!」
と、身を乗り出して了承した。
そしたら、今度はテオが不安を口にする。
「でも、不特定多数の人間相手に声を掛けるの、危なくないですか?」
「なら、貴方はこの店のボーイに変装したら?そしたら傍に居てもおかしくないし、いざという時には駆けつけられるでしょ?」
「わー!ねぇ、テオ、お願いできる?」
リアーヌさんが良い案を出してくれて、僕は喜んだ。
そして、上目遣いでテオにお願いしたら。
「う…っシリル様……その目は反則です…」
「わーい!ねー、シリル様。私が一緒に付きますから、お客さん、じゃんじゃん呼び込んじゃいましょっ!」
「はい、モニカさん。どうぞよろしくお願いします!」
「こちらこそ!じゃ、僕ってだけ言わない様に気を付けて下さいね、“シビル”様。」
「分かりました!」
……こうして、僕の潜入捜査……もとい、娼館フルールの体験入店が決定したのだった。
開店と共に、二人の女性が先に表へ出て行って、各々立ち位置を決めてうろうろする。
僕もモニカさんに付いてもらい、一緒に店の前で客引きを始めてみたが。
まだ時間が早いのか、人もまばらでなかなかお客になりそうな人が見つからない。
今日はなかなか捕まんないな~と、モニカさんがぼやいていたところに、少し遠巻きにとぼとぼと歩いていた貧相な男を見つけた彼女は、行ってみるね!と言って、やる気満々な様子で駆け寄って行った。
しかし。
「ちょっと、そこのお兄さん!どう?寄ってかない?初めてならお安くしとくわよ~。」
「うるせぇっ!余計なお世話だっ」
腕を掴まれた男は、彼女の声掛けが癇に障ったのか、強引に腕を振りほどき、悪態をついて去って行った。
「キャッ」
掴んだ腕を振り払われたモニカさんは、地面に倒れ込んでしまって。
僕は急いで駆け寄った。
「あ、モニカさん、大丈夫ですか?!」
「う…大丈夫。失敗しちゃった。カッコ悪いトコ見せちゃったね。」
「そんな事無いです。…あ!手、擦りむいて血が出てるじゃないですかっ」
「ん?あ、だいじょぶだいじょぶ。こんなん舐めときゃ治るわよ。」
少しだが、倒れて地面に手を付いた際に、怪我してしまった様だ。
薄っすら血が滲んてしまっている。
心配する僕に、モニカさんはヘラッと笑って、その手を振るが。
「テオ!」
「はい。」
「モニカさんを店の休憩室へお連れして、傷の手当てをお願いして。」
僕の後ろで黒服の店員の姿をして一緒に待機してくれていたテオに言って、僕が彼女をお願いすると。
「シビル…様っ!こんなくらい大丈夫ですって。」
「いけませんよ。私にお手本を見せようと、無理をなされたのでしょう?体が資本のお仕事ですから、少しの傷も禁物です。さ、テオ、頼むよ。」
「…分かりました。すぐに戻りますから、じっとしていて下さいね。」
テオは僕にそう釘を刺して、モニカさんを店内へ連れて行った。
「……はぁ。意外と難しいんだな、客引きって。」
娼館って、もっとお酒に酔った客とかが寄って来るのかなって思ってたけど、まだ日が落ちて直ぐじゃ、この辺って人通りもまばらなんだな。
僕も無理してお客を掴まえようと引っ張ったら、さっきのモニカさんみたいに振り払われて、弾みで付け髪が外れでもしたら、一発アウトだ。
充分、気を付けないと。
僕は、髪に付けられた、この店の新人用の花飾りに触れて、ぼんやりと夕闇の空を眺めていたら。
「ほぅ。これはまた随分別嬪な子が入ったじゃないか。」
不意に声を掛けられた。
こっちからじゃなくて、向こうから声を掛けて来たんだから、応じても大丈夫だよな?
「あ、今日初めてこのフルールに入らせて頂きました、シビルと申します。」
「ふーん。少し低めだが、声も可愛いな。」
「…ありがとうございます。」
喜んでいいのか、どうなのか。
僕の事、褒めてくれるんだけど、ここからどうすればいいんだろう?
取り敢えずニッコリと微笑んで、戸惑った空気を醸し出しておいた。
新人なんだもん、分かんないよー。
「ふ。本当に初めてみたいだな。」
「はい。一緒に付いて下さっていた先輩が、今ちょっと離れておりまして…。あ、あの。至らぬ限りで申し訳ないのですが……ご案内いたしましょうか?」
必死で作り笑いをしていたら、目の前の男はクツクツと笑い出した。
「ククッ……やっぱり初物はいいな。シビル、今日はお前にしよう。中を案内してくれ。」
「はい。……って、あの。」
わーい、本日初来店1名様~♪
なんて、喜んでられないぞ。
お前にしようって、どういう事?!
ちょっと、ちゃんと分かってる?
新人用の飾りも付けてるじゃないか。
明らかに手馴れていそうな目の前のこの客は、しかし、分かり易く提示されている筈の、この店のルールを知らないのだろうか?
戸惑う僕の傍まで顔を寄せ、その男は僕の耳元で囁いた。
「……心配せずとも、新人に無茶はしないさ。お酌くらいなら出来るだろう?」
と。
ま、それくらいなら、いっか。
折角だもんな、何事も経験だ。
「では、ご案内いたします。どうぞこちらへ。」
そう言って、僕は眼前の客を案内した。
緊張で心臓の鼓動が嫌にうるさいが、僕に付いて来るその客の方は涼しい顔をしている。
……いや、めちゃくちゃ見られてるな、頭の先から足の先まで。
値踏みされてる。
おずおずと店に入ると、入り口で受付をしていた少女は、僕の顔を見て、おそらくその新人用の花飾りを見て、一瞬怪訝な顔をしたが。
すぐに接客を始めた。
「まぁ、男爵様。今日もおいで下さって嬉しいですわ。」
「クレアは今日は受付担当か。」
「はい。そうなんです。今度来られた時は、是非ご指名下さいね。……でも、男爵様。ご存じでしょうが、その子はまだ新人の様です。私も今初めて顔を見たくらいなので、まだ貴方様のお相手をさせて頂く程には満足に対応できないかと…」
クレアと呼ばれた小柄な女性は、お客を気遣う体を取りながら、僕の方にチラチラと視線を向けて来る。
もしかして、心配してくれているのだろうか。
モニカさんだけじゃなくて、ここの人達は皆優しいな~。なんて、僕は内心感動していたら。
僕の後ろからお客の男爵様が。
「お前如きに言われなくても、そのくらいは分かっている。」
非常に冷たい声音で、威圧する様に言って来て。
「も、申し訳ございません…。」
「……ふん。さ、行こうシビル。私はここの常連なんだ。私が色々教えてあげよう。」
そう言って僕の肩を掴むと、ぐいっと引き寄せられた。
ガッチリ肩を掴まれて、拒む事など到底出来ない。
ただ、僕を心配してくれたクレアさんの方を顔だけ振り返り、ペコリと軽く会釈をしておいた。
すると、僕の方を不安げに見つめていたクレアさんは、ハッと我に返り、僕らの背中に大きめの声で謝罪を再度口にした。
「トレント男爵様、本当に申し訳ございませんでしたっ!」
……と。
まだ少ししゃくり上げているテオの背中を撫でて宥めていると。
「……で、どうします?シリル様。色々経験を積みたいって事なら、接客しながらお店の中ウロウロするのも一つの手ですが、それすると、アルベリーニ卿達にバレてしまうだけですしねぇ。」
「そうですよね…。」
リアーヌさんが、考えてくれていると。
「あ、あの。何なら表で一緒に客引きします?新人は特によくやらされるんです。新人って分かる様に花飾りを付けて。だからお客側も分かり易いし。店内をうろついてたら、酔ったお客に当たった場合、『新人だから何も出来ません』って説明しても通らないから、危ないと思うんですよね。」
と、モニカさんが初心者でも出来そうな事を提案してくれた。
しかし、店主のリアーヌさんは渋い顔をする。
「えー。体験入店って事なら、それもアリかもしれないけど…。流石に上流貴族の御方に、そんな真似させられないわ。」
って、心配して下さるから、僕は。
「いえ!全然大丈夫です!むしろやらせて下さい!やってみたいです!」
と、身を乗り出して了承した。
そしたら、今度はテオが不安を口にする。
「でも、不特定多数の人間相手に声を掛けるの、危なくないですか?」
「なら、貴方はこの店のボーイに変装したら?そしたら傍に居てもおかしくないし、いざという時には駆けつけられるでしょ?」
「わー!ねぇ、テオ、お願いできる?」
リアーヌさんが良い案を出してくれて、僕は喜んだ。
そして、上目遣いでテオにお願いしたら。
「う…っシリル様……その目は反則です…」
「わーい!ねー、シリル様。私が一緒に付きますから、お客さん、じゃんじゃん呼び込んじゃいましょっ!」
「はい、モニカさん。どうぞよろしくお願いします!」
「こちらこそ!じゃ、僕ってだけ言わない様に気を付けて下さいね、“シビル”様。」
「分かりました!」
……こうして、僕の潜入捜査……もとい、娼館フルールの体験入店が決定したのだった。
開店と共に、二人の女性が先に表へ出て行って、各々立ち位置を決めてうろうろする。
僕もモニカさんに付いてもらい、一緒に店の前で客引きを始めてみたが。
まだ時間が早いのか、人もまばらでなかなかお客になりそうな人が見つからない。
今日はなかなか捕まんないな~と、モニカさんがぼやいていたところに、少し遠巻きにとぼとぼと歩いていた貧相な男を見つけた彼女は、行ってみるね!と言って、やる気満々な様子で駆け寄って行った。
しかし。
「ちょっと、そこのお兄さん!どう?寄ってかない?初めてならお安くしとくわよ~。」
「うるせぇっ!余計なお世話だっ」
腕を掴まれた男は、彼女の声掛けが癇に障ったのか、強引に腕を振りほどき、悪態をついて去って行った。
「キャッ」
掴んだ腕を振り払われたモニカさんは、地面に倒れ込んでしまって。
僕は急いで駆け寄った。
「あ、モニカさん、大丈夫ですか?!」
「う…大丈夫。失敗しちゃった。カッコ悪いトコ見せちゃったね。」
「そんな事無いです。…あ!手、擦りむいて血が出てるじゃないですかっ」
「ん?あ、だいじょぶだいじょぶ。こんなん舐めときゃ治るわよ。」
少しだが、倒れて地面に手を付いた際に、怪我してしまった様だ。
薄っすら血が滲んてしまっている。
心配する僕に、モニカさんはヘラッと笑って、その手を振るが。
「テオ!」
「はい。」
「モニカさんを店の休憩室へお連れして、傷の手当てをお願いして。」
僕の後ろで黒服の店員の姿をして一緒に待機してくれていたテオに言って、僕が彼女をお願いすると。
「シビル…様っ!こんなくらい大丈夫ですって。」
「いけませんよ。私にお手本を見せようと、無理をなされたのでしょう?体が資本のお仕事ですから、少しの傷も禁物です。さ、テオ、頼むよ。」
「…分かりました。すぐに戻りますから、じっとしていて下さいね。」
テオは僕にそう釘を刺して、モニカさんを店内へ連れて行った。
「……はぁ。意外と難しいんだな、客引きって。」
娼館って、もっとお酒に酔った客とかが寄って来るのかなって思ってたけど、まだ日が落ちて直ぐじゃ、この辺って人通りもまばらなんだな。
僕も無理してお客を掴まえようと引っ張ったら、さっきのモニカさんみたいに振り払われて、弾みで付け髪が外れでもしたら、一発アウトだ。
充分、気を付けないと。
僕は、髪に付けられた、この店の新人用の花飾りに触れて、ぼんやりと夕闇の空を眺めていたら。
「ほぅ。これはまた随分別嬪な子が入ったじゃないか。」
不意に声を掛けられた。
こっちからじゃなくて、向こうから声を掛けて来たんだから、応じても大丈夫だよな?
「あ、今日初めてこのフルールに入らせて頂きました、シビルと申します。」
「ふーん。少し低めだが、声も可愛いな。」
「…ありがとうございます。」
喜んでいいのか、どうなのか。
僕の事、褒めてくれるんだけど、ここからどうすればいいんだろう?
取り敢えずニッコリと微笑んで、戸惑った空気を醸し出しておいた。
新人なんだもん、分かんないよー。
「ふ。本当に初めてみたいだな。」
「はい。一緒に付いて下さっていた先輩が、今ちょっと離れておりまして…。あ、あの。至らぬ限りで申し訳ないのですが……ご案内いたしましょうか?」
必死で作り笑いをしていたら、目の前の男はクツクツと笑い出した。
「ククッ……やっぱり初物はいいな。シビル、今日はお前にしよう。中を案内してくれ。」
「はい。……って、あの。」
わーい、本日初来店1名様~♪
なんて、喜んでられないぞ。
お前にしようって、どういう事?!
ちょっと、ちゃんと分かってる?
新人用の飾りも付けてるじゃないか。
明らかに手馴れていそうな目の前のこの客は、しかし、分かり易く提示されている筈の、この店のルールを知らないのだろうか?
戸惑う僕の傍まで顔を寄せ、その男は僕の耳元で囁いた。
「……心配せずとも、新人に無茶はしないさ。お酌くらいなら出来るだろう?」
と。
ま、それくらいなら、いっか。
折角だもんな、何事も経験だ。
「では、ご案内いたします。どうぞこちらへ。」
そう言って、僕は眼前の客を案内した。
緊張で心臓の鼓動が嫌にうるさいが、僕に付いて来るその客の方は涼しい顔をしている。
……いや、めちゃくちゃ見られてるな、頭の先から足の先まで。
値踏みされてる。
おずおずと店に入ると、入り口で受付をしていた少女は、僕の顔を見て、おそらくその新人用の花飾りを見て、一瞬怪訝な顔をしたが。
すぐに接客を始めた。
「まぁ、男爵様。今日もおいで下さって嬉しいですわ。」
「クレアは今日は受付担当か。」
「はい。そうなんです。今度来られた時は、是非ご指名下さいね。……でも、男爵様。ご存じでしょうが、その子はまだ新人の様です。私も今初めて顔を見たくらいなので、まだ貴方様のお相手をさせて頂く程には満足に対応できないかと…」
クレアと呼ばれた小柄な女性は、お客を気遣う体を取りながら、僕の方にチラチラと視線を向けて来る。
もしかして、心配してくれているのだろうか。
モニカさんだけじゃなくて、ここの人達は皆優しいな~。なんて、僕は内心感動していたら。
僕の後ろからお客の男爵様が。
「お前如きに言われなくても、そのくらいは分かっている。」
非常に冷たい声音で、威圧する様に言って来て。
「も、申し訳ございません…。」
「……ふん。さ、行こうシビル。私はここの常連なんだ。私が色々教えてあげよう。」
そう言って僕の肩を掴むと、ぐいっと引き寄せられた。
ガッチリ肩を掴まれて、拒む事など到底出来ない。
ただ、僕を心配してくれたクレアさんの方を顔だけ振り返り、ペコリと軽く会釈をしておいた。
すると、僕の方を不安げに見つめていたクレアさんは、ハッと我に返り、僕らの背中に大きめの声で謝罪を再度口にした。
「トレント男爵様、本当に申し訳ございませんでしたっ!」
……と。
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