全てを諦めた公爵令息の開き直り

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続編 開き直った公爵令息のやらかし

4話 謝罪と説明と

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「大変ご無沙汰しております。この度はお忙しい所、お時間を頂き、誠にありがとうございます。グレイス義母上にお願いして、お邪魔させて頂きました。どうしてもお会いして、お話したかったのです。」

キャッキャとはしゃぐ幼い子供達とは対照的に、固い口調と声音で話を切り出して来た僕に、彼らは目を丸めたが、取り敢えずソファーへと促され、皆各々腰かけたが……僕は。

「どうした、シリルも早く座って。」

当主のダリル・ベレスフォード伯爵自ら、お声を掛けて下さったが、僕はソファーには座らず、絨毯の上にだが、膝を付いて……頭を下げた。

「……この度はっ申し訳ございませんでした!全ては僕の身勝手な振る舞いの所為で、ベレスフォード家の皆様に、大変ご迷惑をおかけして……!それなのに、今頃になって……その、こんな。僕はっ」

……なんて、酷い事をしてしまったのだろう。

グレイス義母上のご家族なだけはある。
皆、とても良い雰囲気の方々ばかりだ。
それなのに、そんな素敵な方達を……僕は。

「頭を上げて、シリル。」

怒気も嫌気も何も感じられない、ただ穏やかな声音でそう告げられて。
気付けば僕の隣に蹲った義父上と義母上が、そっと僕を立たせてくれた。

「義父上、義母上…」
「シリル、そんな所に居てたら、ゆっくり話せないだろ。こっちへ来させてもらって話そう。」
「そうよ。話してあげて、シリル。」

優しく、促される。
……駄目だよ、義父上、義母上。
甘やかし過ぎだよ、僕の事。

僕は、目の当たりにして、思い知ったんだよ。
ほとほと自分の事しか考えてなかったんだなって。
こんなに温かな義母上の家族の事、どれほど蔑ろにしてしまったのだろうって。
なんで、こんなに素敵な人達にそんな仕打ちが出来たんだろう。
知らなかったから、忘れてたから、なんて許されないのに。

「ご、ごめんなさいっ!僕の我儘の所為で、迷惑かけてっ!僕、僕……自分勝手なのは、分かってたつもりだったんです。本当は、僕がクレイン公爵家を継いで、義父上と義母上はこの伯爵家へ戻る約束だったの、知っていた癖にっ!僕が、公爵位を継ぐ事を放棄しちゃったから、義父上と義母上に此処にお戻り頂く事が出来なくなってしまって、約束をやぶらせてしまった。王宮での仕事がお好きだった叔母様にも、辞めさせてしまう事になって……」

あぁ、どうして。
もっと、ちゃんとした言葉で誠心誠意、丁寧に謝罪を述べるつもりだったのに。
子供っぽい言い訳の様に言葉を並べ立てるだけで、まるでなっちゃいない。
ただ喚き立てる事しか出来ない自分に心底嫌気が差したが。

動かない僕に、グレイス義母上が執事に言って椅子を持って来させ、ルーファス義父上が僕の両肩を掴んで、ちょっと強引に座らせた。
無理矢理座らされた事で、嫌でも視線がぶつかったが、伯爵達はきょとんとした顔をしている。
何より、一番びっくりした顔をしていたのはアンドレア叔母様だった。

「何言ってるの?シリル。私、仕事辞めてないわよ?」
「……へ?でも、伯爵夫人に…なられるのですよね?」
「うん、まぁ…いずれはね。でも、見ての通り、お父様はまだまだ健在だし。ディオンだって、いくら元々伯爵家の令息だからって言っても次男で、領地経営の方法までは教わってないから当主の仕事はまだまだ勉強中だから、そんな直ぐには継げないわよー。」

きょとんとする僕に、事ここに至った経緯を話して下さった。

僕の希望で公爵位を手放す事になったとはいえ。
そもそも、そうなる様に事を進めて下さったのは、ユリウス王太子殿下だ。
まぁ、ユリウス殿下にその協力を願い出てくれたのは、カイトとカレンの二人だが。

だから、ユリウス殿下が責任を持って、穏便に事が運ぶ様、段取りをして下さったらしい。
ルーファス義父上らともじっくり話し合って、ベレスフォード伯爵に丁寧に説明して下さった。
最初は流石の伯爵もビックリされた様だが、伯爵もまた、巫子達の救済の恩恵を享受していたそうで。
調子の悪かった腰と膝もすっかり良くなり、まだ伯爵として頑張れるだろう?とユリウス殿下からニヤリと笑みを向けられたら、確かにそうですね、としか言えなかったそうだが。
奥方のヴァネッサ伯爵夫人も調子を良くしてもらえたし、領民達だけでなく領地の作物にも元気を与えてもらえ、随分喜ばれていたそうだから。

何より、僕がルーファス義父上達をクレイン公爵家から追い出してしまう事になるのが辛いらしい。
恋人が出来る以前から、ずっと幼い頃から、そう思い悩んでいたらしいよ。
そうだよね、家を継いだら、その内ルーファス達が家から居なくなってしまって。
あの広い屋敷と領地を、シリル独りで背負う事になるもんね。
最初から独りぼっちだったなら、耐えられるかもしれないけど。
あんなに大事にしてもらって、可愛い弟や妹も居て。
ずっと賑やかだったあそこに、独り取り残されるみたいで、寂しかったんじゃないかな。

……と、ユリウス殿下に諭された伯爵は、気付いたらしい。

娘のグレイスに、公爵家の次男が婿に来てくれるなんて、何と素晴らしい事だろう。
もちろん、ルーファス本人の人柄も穏やかで好ましかったが、それ以上にその地位は魅力的過ぎた。
でもまさか、あのシルヴェスター・クレイン公爵が、夫人共々早々に旅立たれてしまうなんて、全く思いもしなかった。
それも、幼い子供を残して。
だから、その子が大人になり、無事クレイン家を継いでくれるまでは、クレイン家に戻ってもらうのも、仕方がないと了承した。
自分達の思惑ばかりに囚われて、残されたシリルの事をちゃんと考えてやれていなかったのだ、と。

「……会いに来てくれないのは、当たり前ですよね。あの子からしたら、私はあの子の大事な家族を早く戻せと急かしているだけの存在なんですから。」
「いや、ただ外に出るのが嫌だっただけみたいだよ。両親が馬車の事故で亡くなったから、怖くて極力遠出をしたくなかったんじゃないかな。」
「そうですかね……。」
「うん。学院への通学以外じゃ、どうしても王宮へ参内しないといけない時以外、まっったく外へ出なかったそうだしね。」
「え?外出したがらないとは聞いていましたが、そこまでだったんですか?」

年頃の子が、外界への興味を全く向けないなんて。
自分があの子ぐらいの年頃なら、度々街に出向いては、買い物したり、演劇を観に行ったりして、色々遊びに行ったぞ。と伯爵は信じられない思いだったそうだが。

「うーん、詳しい事は私もよく聞いてはいないけど、なんか命を狙われたりもして、大変だったんだって。でも、巫子達やロレンツォ達と協力して、無事解決出来たらしいよ。」

ロレンツォにそれはもう、自慢をされまくったからさ。と、ユリウス殿下は苦笑しておられたそうだ。
ロレンツォ殿下、僕を側近にって、ユリウス殿下に納得させる為にちょっとだけ話したって言ってたけど、何処まで話したんだろう?
……絶対、尾ひれ付けて話してるぞ、ソレ。
その頃アデリートでくしゃみをしているであろう殿下を想像しながら、僕は伯爵の話を聞いていた。
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