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続編 開き直った公爵令息のやらかし

2話 相談

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リチャードが言っていたアン叔母様とは、グレイス義母上の妹、アンドレア伯爵令嬢の事で、早めに婚姻したグレイス義母上と違い、アンドレア叔母様は十代前半で王宮に宮女見習いとして入城し、今ではかなり経験を積んだ優秀な女官になっておられた。

長女のグレイス義母上とは違い、次女の自分は政略結婚なんてしたくない!ないだろう!と高を括ったアンドレア叔母様は、自分で恋人を見つけるのと、ある程度自力で生きる道を見つけようと、自身の将来をさっさと速断し、王宮に入ったらしい。
が、恋人探しよりも仕事に生きがいを見つけてしまった叔母様は、実家からの結婚の圧力も撥ね退け、バリバリ働いていたそうだ。
……第1王女マリアンヌ様の侍女の一人として。

本来なら僕がクレイン公爵の地位を継いだ暁には、ルーファス義父上は元のグレイス義母上の実家であるベレスフォード伯爵家へと戻り、義父上はいずれベレスフォード伯爵位を継がれる筈だった。
しかし、実家を継ぐべき筈の僕が、公爵位の継承を事実上放棄してしまった為に、クレイン公爵家を継いで下さった義父上は、ベレスフォード家へと戻るという約束を果たせなくなってしまったのだ。
このままでは、男児が居らず、継ぐ者の居ないベレスフォード家は潰えてしまう。
なので、当初の予定を諦め、まだ未婚だったアンドレア叔母様に結婚をさせ、相手を婿養子として迎え、その者にベレスフォードを継いでもらう運びとなったのだそうだ。

……そうなんだ。
全ては僕の身勝手さが招いた事だったのに。
仕事に生きがいを見つけて、第1王女侍女として一生懸命働いていたアンドレア叔母様に、一番嫌がっていた政略結婚を押し付けてしまったのだ。

(自分の所為で、義父上や義母上にも迷惑をかけてしまったけど、一番迷惑をかけてしまったなぁ……アンドレア叔母様に。)

自分は自身の恋情にかまけて責任を放棄したのに、自分の生きがいの為に今まで一生懸命働いて来た叔母様に、一番嫌な役目を背負わせてしまった。
けれど、今更元には戻せない。
もう婚姻も済ませてしまわれたのだ。

……どうしよう。
グレイス義母上のご実家の事は、僕も心残りがあった筈だった。
ルーファス義父上に正式に公爵家を継いでもらうに当たり、問題の一つでもあった訳だし。
けれど、サフィルへの想いで頭がいっぱいになってしまっていた僕は、ユリウス王太子殿下から優しく促されて、つい、もう頭から飛んでしまっていた。

だから、今回の帰郷は……ただの帰省に終わらせてはならない。
ベレスフォード家に、何より……アンドレア叔母様に、謝罪しないと。
許してもらえなくても。
………会って、下さるだろうか……。

久々の領地での滞在で、皆温かく歓迎してくれて。
家族も、前と何ら変わりなく、優しく接してくれているのに。
僕は自分でも気付かない内に、段々と表情が曇ってしまっていた。

そうしたら、義母上から声を掛けられて、お部屋へと呼ばれたのだった。

「失礼します。」
「いらっしゃい、シリル。さ、掛けて。」

ソファーへと促されて、おずおずと腰を下ろすと、向かい側に義母上も腰を下ろされた。

「ふふ、本当に素敵なお土産を沢山、ありがとう。あちらの小物はより色が鮮やかで素敵ね。」
「良かったです。義母上のお気に召して。エウリルスの繊細な細工も良いですが、ちょっと毛色の違う物があっても面白いかと思って。」
「えぇ。贈ってくれた品を見るだけで、アデリートの開放的な空と海辺の風景画を彷彿とさせるわ。」

好みに合うか心配だったが、なかなか気軽に外国へ行く事は叶わない事もあり、殊の外喜んでくれて、僕もホッとした。
そうしてしばらく雑談に花を咲かせていたが、義母上が。

「それでね、貴方を呼んだのは聞きたい事があったからなの。」
「……え?」
「折角戻って来たのに、此処の所……元気が無かった様に見えて。どうしたの?……もしかして、もう恋人が恋しくなったの?」

ふふっと悪戯っぽく笑う義母上は、とてもお茶目だ。

「……サフィルの事、確かに恋しいです。アデリートではずっと一緒だったので、こんなに長く離れるのは久しぶりで……。でも、だからこそ、僕にはしなければならない事があるのに気付いて。————グレイス義母上。」
「?」
「僕がクレイン公爵位を手放した事で、義母上のご実家の…ベレスフォード家に多大なご迷惑をお掛けしてしまった事を、僕は目の前の事に夢中で……すっかり失念してしまっていました。おじい様とおばあ様は勿論の事、何よりアンドレア叔母様に。」
「あぁ、その事で表情が暗かったのね。」

僕の言葉に、やっと義母上は合点がいったという顔をして。
心配する僕とは対照的に、軽く笑みを見せた。

「ふふっ、やっぱりシリルのそういう所、変わらないわね。心配しなくても大丈夫よ。ユリウス殿下がルーファスやお父様達と話を付けて下さったから。そういうお約束だったのでしょう?」
「ユリウス殿下が?」
「えぇ。貴方の希望を叶える為に、殿下が提案して下さったのよね?ただ貴方を私達の養子にして、ルーファスを公爵位に就けるだけじゃ足りない事くらい、殿下はご存知よ。だから、貴方を無事アデリートへと見送ってから、私の実家の方の事もキチンと対応して下さったのよ。」

ユリウス殿下が……。
ちゃんと、先々の事まで考えて動いて下さっていたんだ…。

「だから、アデリートに戻る前に、一度殿下にお礼を言いに行きなさいね。」
「はい、必ず。……ですが、その前に……ベレスフォードの方々に、謝りに行きたいんです。僕の所為で、沢山迷惑をかけてしまったから…」
「それを言うならシリル、私達もよ。貴方を公爵位に継がせる事が正しい事だと思い込んで、貴方を随分と悩ませてしまっていたわね。世間的にはそれが正しくても、貴方個人の気持ちを見ているつもりで見ていなかったから。」
「そんな事ありませんっ!あんなに大事にして頂いて、僕には過ぎた幸福でしたのに、ずっと家に閉じこもってばかりで、随分心配をかけていたのは……知っていたのですが、変える事が出来なくて。それなのに、急にその、好きな人が出来たから…とか、アデリートに行きたいとか。意味が分からないですよね。」
「でも、外が嫌いだった貴方が、学院には殆ど毎日通っていたものね。それに、貴方は巫子様達が屋敷に来てから目に見えて明るくなった。出会いは人を変えるのね。それは貴方だけではないのよ。」

また穏やかに笑みを浮かべる義母上は。
本当に優しく僕を見守ってくれている。

「でも、そうね。一度会いに行った方がいいかも。お父様もシリルとは随分会ってないから、会いたがっている筈よ。」
「きっと、怒っておられるでしょうね。」

最悪、殴られる様な事も覚悟しないといけないかもしれない。
僕が深刻な顔をしても、義母上の表情は変わらない。

「心配しなくてもいいのに。でも、ずっと気にするくらいなら、やっぱり会っておいた方がいいわ。貴方の気持ちを話してあげて、貴方の口から。大丈夫、私も一緒に行くから。」

前に言ったでしょ?
『私でも何か力になれる事が有れば言ってちょうだいね。』って。
とても心配する僕に対して、義母上が今こそその時よね、と言って、協力を買って出て下さったのだった。
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