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続編 開き直った公爵令息のやらかし
1話 夏休みの約束
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「がはぁ~疲れたぁぁー」
帰宅早々、着替える事もせずにベッドに飛び乗った。
ふかふかで心地が良い。
しばらくそうしていると、本当に瞼が重くなってきたが。
「シリル様!休まれるのは着替えてからになさって下さい、手伝いますからっ」
「……はぁい。」
従者のテオに促されて、僕は渋々ベッドから体を起こした。
半分意識が飛んでいたが、慣れた手付きで着ていた服を脱がされて、比較的楽な部屋着を着させられる。
終わった頃には、僕は完全に眠りこけていた。
ようやく目覚めて気付いたのは、ふと傍に気配を感じたからだった。
「……?」
「おかえりなさい、シリル。」
「……あれ?サフィル。」
目を開けると眼前に、サフィルの顔があり。
って、近いよ。
ニコニコしながら見つめて来る彼に、僕は今更ながらに頬を朱に染めた。
「い、いつから見てたの?」
「ざっと30分くらい前からですかね。」
「え“っ……ちょっと、そんな前から?!見てないで起こしてよ。」
「だって気持ちよさそうに眠っておられたから、起こしたら悪いかなと思って。」
と、サフィルは朗らかに笑うが。
ずっと寝顔を眺められてたなんて、恥ずかしいんだが。
「それにテオにも釘を刺されたんですよ。あんまり貴方に無理をさせるなって。」
「う“……」
は、恥ずかし過ぎる……。
テオの言っている意味を理解してしまって、僕は顔を真っ赤にして俯いた。
「それに、馬車での長旅でお疲れだったでしょう。すみませんでした、お迎えに上がれなくて。」
サフィルに優しい眼差しで見つめられて、愛おしむ手付きで髪を撫でられて。
僕はフッと笑みを零した。
————…サフィル達と共に、彼らの母国であるこのアデリート王国に来てから直ぐに。
僕は王都ヴェネトリア学園へと編入し、慌ただしい日々を過ごしていた。
1年の短期コースだから、その分スケジュールも過密でなかなかに大変だが、それでも大好きな人と共に居られて、頼れる従者も常に側で付き添ってもらえているし、安心できる充実した日々を送っていた。
先月は前期試験をなんとか無事乗り越え、そのまま夏の長期休暇に入った。
此処へ来る前に叔父様……いや、義父となってくれたルーファス・クレイン公爵との約束もあり、約半年ぶりに故郷のエウリルスへ帰った。
2年ぶりに領地で過ごし、久々の邂逅に、ルーファス義父上やグレイス義母上、リチャードやシャーロットだけでなく、領地を守ってくれている者達も皆、実に温かく迎え入れてくれて。
自分の勝手の所為で、どんなにか驚かせ呆れさせただろうに、僕の元気な姿を目にして、皆ただただ安心して喜んでくれたから、どれほど有難かった事だろう。
ただ、僕との再会を喜んでくれたシャーロットは、僕の腕をガッチリ掴みながら、領地まで送ってくれたサフィルに対して、キッと睨み付けていたのが……ちょっと申し訳なかった。
リチャード曰く、シャーロットの中でサフィルは、『大好きなシリル兄さまを勝手に連れて行っちゃった悪い人!』になってしまっているらしい。
……違うんだよ、ロティー。なんて口にしようものなら。
「でもシリル兄さまはロティーの事、好きって言ってくれた!」
「もちろん。大好きだよ、ロティー。」
「ほら!それなのに、前の夏はロティーを置いて巫子のお兄ちゃん達と一緒にアデリートに連れて行っちゃって、ここで一緒に遊べなかったし。この前はやっと学校行くの終わって、またいっぱい遊んでくれると思ったのに……。またロティーから兄さまを取ってっちゃった!」
「えっと…今、アデリートの学校に通ってるんだよ。」
「なんで?学校は2年で終わりじゃなかったの?ロティー、兄さまと結婚するの。」
なんて、とんでもない事を言いだすシャーロットに、僕は全くもって驚きを隠せなかった。
「え”……っ」
思わず言葉に詰まる僕を見て、シャーロットはグスッと泣きそうな顔を見せて。
「兄さま…嫌なの?ロティーの事、大好きって言ってくれたのに?」
「そ、そうじゃないよ、ロティー。あのね、兄妹では結婚は出来ないんだよ。」
「どうして?」
「どうしてって…それは……」
……何て説明すればいいんだろう。
と、僕がたじたじになっていると。
「あ!ロティーってばまた言ってるの?駄目だよ、あんまりそんな事ばっかり言ってちゃ。お家の中でならともかく、お外では言っちゃ駄目だからね。」
と、後ろから助け舟を出してくれたのは、駆け寄って来たリチャードだった。
「リック兄さま、どぉして?」
「また始まった~ロティーのどうしてーって。あのね、結婚はお互いのお家同士が家族になる、大切な事なんだよ。それに、何人とも結婚なんて出来ないからね。家族とも無理。」
「どうして?」
「だって、もう家族だもん。」
「うーん、そっかぁ…。」
分かったのか分かってないのか。
しゅんと項垂れるシャーロットを横目に、リチャードが僕にこっそり耳打ちしてくれた。
「ちょっと前に、アン叔母様の結婚式で僕とロティーがフラワーボーイとフラワーガールやったんですけど……。それがよっぽど楽しかったのか、ロティーの奴、最近ちょっといいなと思った人にすぐに結婚結婚言うんです。ロティーの中で流行ってるみたい。」
苦笑しながら教えてくれるリチャードは、以前の彼よりほんの少し大人びて見えて。
あと、この様子だとこの子も言われたんだな。
少し離れただけで、シャーロットがあんな事を口にする様になっていたなんて。
たったの半年なのに、物凄く時が経つのを早く感じたものだった。
帰宅早々、着替える事もせずにベッドに飛び乗った。
ふかふかで心地が良い。
しばらくそうしていると、本当に瞼が重くなってきたが。
「シリル様!休まれるのは着替えてからになさって下さい、手伝いますからっ」
「……はぁい。」
従者のテオに促されて、僕は渋々ベッドから体を起こした。
半分意識が飛んでいたが、慣れた手付きで着ていた服を脱がされて、比較的楽な部屋着を着させられる。
終わった頃には、僕は完全に眠りこけていた。
ようやく目覚めて気付いたのは、ふと傍に気配を感じたからだった。
「……?」
「おかえりなさい、シリル。」
「……あれ?サフィル。」
目を開けると眼前に、サフィルの顔があり。
って、近いよ。
ニコニコしながら見つめて来る彼に、僕は今更ながらに頬を朱に染めた。
「い、いつから見てたの?」
「ざっと30分くらい前からですかね。」
「え“っ……ちょっと、そんな前から?!見てないで起こしてよ。」
「だって気持ちよさそうに眠っておられたから、起こしたら悪いかなと思って。」
と、サフィルは朗らかに笑うが。
ずっと寝顔を眺められてたなんて、恥ずかしいんだが。
「それにテオにも釘を刺されたんですよ。あんまり貴方に無理をさせるなって。」
「う“……」
は、恥ずかし過ぎる……。
テオの言っている意味を理解してしまって、僕は顔を真っ赤にして俯いた。
「それに、馬車での長旅でお疲れだったでしょう。すみませんでした、お迎えに上がれなくて。」
サフィルに優しい眼差しで見つめられて、愛おしむ手付きで髪を撫でられて。
僕はフッと笑みを零した。
————…サフィル達と共に、彼らの母国であるこのアデリート王国に来てから直ぐに。
僕は王都ヴェネトリア学園へと編入し、慌ただしい日々を過ごしていた。
1年の短期コースだから、その分スケジュールも過密でなかなかに大変だが、それでも大好きな人と共に居られて、頼れる従者も常に側で付き添ってもらえているし、安心できる充実した日々を送っていた。
先月は前期試験をなんとか無事乗り越え、そのまま夏の長期休暇に入った。
此処へ来る前に叔父様……いや、義父となってくれたルーファス・クレイン公爵との約束もあり、約半年ぶりに故郷のエウリルスへ帰った。
2年ぶりに領地で過ごし、久々の邂逅に、ルーファス義父上やグレイス義母上、リチャードやシャーロットだけでなく、領地を守ってくれている者達も皆、実に温かく迎え入れてくれて。
自分の勝手の所為で、どんなにか驚かせ呆れさせただろうに、僕の元気な姿を目にして、皆ただただ安心して喜んでくれたから、どれほど有難かった事だろう。
ただ、僕との再会を喜んでくれたシャーロットは、僕の腕をガッチリ掴みながら、領地まで送ってくれたサフィルに対して、キッと睨み付けていたのが……ちょっと申し訳なかった。
リチャード曰く、シャーロットの中でサフィルは、『大好きなシリル兄さまを勝手に連れて行っちゃった悪い人!』になってしまっているらしい。
……違うんだよ、ロティー。なんて口にしようものなら。
「でもシリル兄さまはロティーの事、好きって言ってくれた!」
「もちろん。大好きだよ、ロティー。」
「ほら!それなのに、前の夏はロティーを置いて巫子のお兄ちゃん達と一緒にアデリートに連れて行っちゃって、ここで一緒に遊べなかったし。この前はやっと学校行くの終わって、またいっぱい遊んでくれると思ったのに……。またロティーから兄さまを取ってっちゃった!」
「えっと…今、アデリートの学校に通ってるんだよ。」
「なんで?学校は2年で終わりじゃなかったの?ロティー、兄さまと結婚するの。」
なんて、とんでもない事を言いだすシャーロットに、僕は全くもって驚きを隠せなかった。
「え”……っ」
思わず言葉に詰まる僕を見て、シャーロットはグスッと泣きそうな顔を見せて。
「兄さま…嫌なの?ロティーの事、大好きって言ってくれたのに?」
「そ、そうじゃないよ、ロティー。あのね、兄妹では結婚は出来ないんだよ。」
「どうして?」
「どうしてって…それは……」
……何て説明すればいいんだろう。
と、僕がたじたじになっていると。
「あ!ロティーってばまた言ってるの?駄目だよ、あんまりそんな事ばっかり言ってちゃ。お家の中でならともかく、お外では言っちゃ駄目だからね。」
と、後ろから助け舟を出してくれたのは、駆け寄って来たリチャードだった。
「リック兄さま、どぉして?」
「また始まった~ロティーのどうしてーって。あのね、結婚はお互いのお家同士が家族になる、大切な事なんだよ。それに、何人とも結婚なんて出来ないからね。家族とも無理。」
「どうして?」
「だって、もう家族だもん。」
「うーん、そっかぁ…。」
分かったのか分かってないのか。
しゅんと項垂れるシャーロットを横目に、リチャードが僕にこっそり耳打ちしてくれた。
「ちょっと前に、アン叔母様の結婚式で僕とロティーがフラワーボーイとフラワーガールやったんですけど……。それがよっぽど楽しかったのか、ロティーの奴、最近ちょっといいなと思った人にすぐに結婚結婚言うんです。ロティーの中で流行ってるみたい。」
苦笑しながら教えてくれるリチャードは、以前の彼よりほんの少し大人びて見えて。
あと、この様子だとこの子も言われたんだな。
少し離れただけで、シャーロットがあんな事を口にする様になっていたなんて。
たったの半年なのに、物凄く時が経つのを早く感じたものだった。
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