全てを諦めた公爵令息の開き直り

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番外編その2 サフィル・アルベリーニの悔恨

24話

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「……そんな。じゃあ、あの時……サフィルは既に…」
「ええ。貴方の最期を見届ける覚悟も無かった私は。」

貴方よりも一足早く、己の手で絶命する道を選んだ。

「最後まで身勝手でしたよね。」
「……」
「それまで苦しかった事も辛かった事も、貴方の存在があったから……励まされたし、慰められました。けれど、貴方を自ら手放す事になって、急に何もかも全てが色褪せてしまって。貴方はご家族を守る為に、自らを犠牲にされたというのに、私は何処までも自分の為だけに。」

今思い返しても、恥ずべき限りだ。
もう本当にあの時は、それしか考えられなかった。

「自分勝手だったのは、同じだよ……僕も。本当はもっと良い方法があったかもしれなかったけど、あの時はあんな風にしか言えなかったし、考えられなかった。……ごめんね、辛い事を思い出させてしまって。」

甘える様に、慰めてくれる様に。
私の肩に己の頭を預け、輝く銀色の髪をふわりと摺り寄せて来られるシリルは。
その深い海の様に美しい、藍色の瞳を潤ませておられて。

「いいえ。こちらこそ、こんな辛気臭い話を聞いて下さって、ありがとうございます。ただ、これでちょっとは分かって下さいました?貴方のお陰で、私がどれだけ救われていたのかを。」
「そ、そうなのかな。」
「そうですよ。私はもう、貴方無しには生きれません。なので、もっと自信を持って、もっと我儘を言って下さって良いんですよ。私に出来る限りの事なら、貴方にして差し上げたいんです。今こうして一緒に居られるだけで、奇跡なんじゃないかって思えるくらい幸せを貰っているので。」

あんな酷い前世であったのに、今世は。
ずっと焦がれていた、愛おしくてたまらない貴方が、私の元に来てくれて。
私は、何が出来るのだろう?

「幸せを貰ってるのは、僕も同じ。でも、そうだね。それなら、ちょっと甘えちゃおうかな。」

シリルはそう言うと、私の両腕を掴んで、ご自身を包み込む様にして肩から胸へと持っていった。

「抱きしめてよ。こういう穏やかな触れ合い方も好きなんだ。」
「そんなの、甘える内に入りませんよ。」

あまりに可愛いおねだりに、私はフッと笑みを零すが。

「そんな事ない!サフィルってば、すぐ事に及ぼうとするんだもん!」
「……お嫌でしたか?」
「う“…っや、そんな事ないけど、いっつも僕ばっかり翻弄されっぱなしになっちゃうし…」

拗ねた声音で呟かれるが、摺り寄せられる素肌が心地良い。

「翻弄されてばかりなのは、私の方ですよ。」
「えぇ?!嘘だぁ~」

私にその身を預け、ゆったりと凭れ掛かっておられたシリルは、振り返って訝し気に私の顔を見られるが。
目が合うと、ふわりと笑みを零された。

「ふふ、それじゃ、お互い様って事かな。」

楽し気に笑ったシリルは、横を向いて、私の胸に頬擦りされる。
普段の涼やかな表情とは異なって、案外、彼はこうした接触がお好きだと知った。
重なり合った激しい接合の際に見せる、濡れた瞳も強く欲情を煽られるが、そうかと思えば、こんなあどけなさの残る素顔もまた、庇護欲を掻き立てられる。
けれど、そのあどけなさの中に混じる色気に、無性に欲に火を点けられそうになり。
つい、そうした意図を持って、彼の胸に触れようとしたら。

「こら、今日はそうじゃないって言ったでしょ。」

そう言って、悪さをしようとした手を掴まれてしまった。

「うーん、これは結構生殺しだなぁ…」
「もー。ちょっとだけだから。もうちょっとだけ……こうさせて…」

うわ言の様に呟かれると、私の胸の中で丸くなっておられたシリルは、そのまますぅすぅと寝息を立てて眠られてしまった。
此処のところ続いていた学園での試験期間をようやく終えられて、ホッとしておられたから、思った以上にお疲れだったのだろう。
それなのに、私の愉快ではない過去の長話に付き合わせてしまって、申し訳ない事をした。

彼をそっとベッドに横にならせると、彼の頭の下に自分の腕を忍ばせて、勝手に腕枕を楽しんだ。
すやすやと眠られる彼の息遣いが己の腕をくすぐって、少しこそばゆいが心地良い。

この彼の寝顔も、薄く色付く唇も、その全ては……私のものだ。
そして、私の全ては貴方へと捧げる。

今度こそは掴めたこの手を、もう二度と離しはしない。

「愛しています……シリル。」
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