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番外編その2 サフィル・アルベリーニの悔恨
20話 ※
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「?!」
シリル様は驚いて目を見開かれるが、私は構わず続けてしまった。
この異常な状況下で、私も明らかにおかしくなっていた。
こんなの、いけない事だと分かっている。
無抵抗で拒絶も出来よう筈がない、この状況で……彼の唇を奪うなど。
けれど。
どうしても、止められなくて。
どうしても、彼を振り向かせたい。
こっちを、向いて。
私を見て欲しい。
きっと、お前など眼中にも無い、と言われるだろうが……だからこそ。
どうにか私を意識して、欲しくて。
私は何処までも身勝手なキスをした。
想像以上に彼の唇は柔らかくて。
何よりも気持ち良い。
ずっと啄んでいたいくらい、心地良過ぎた。
それでもそっと離したら。
名残惜しくて…つい、チュッとリップ音をたててしまって。
「っ……!」
そうして、再び彼を見やると。
大きく目を見開かれた後、カッとその頬を朱に染められた。
やっと、自分を意識してもらえた気がして。
それがとても嬉しいのに。
胸に当たる大きな手枷によって、最悪な現実に引き戻されるのだ。
シリル様は怒るでも怯えるでもなく、ただただ驚かれていて。
その様子が何処までも無垢で純粋だった。
それさえも愛おしい。
愛おしい彼を、ただ優しく抱きしめたい。
それだけなのに。
私は自分の心の赴くままに、恐れ多くも彼の頭にフワリと触れて、そっと抱きしめた。
「……お願いします。どうか、私達と共に来て下さい。我々の手を取って下されば、貴方をきっとお救い出来る筈です。死に急いだりしないで。私は貴方に生きて欲しい。」
ただそれだけを願っているのです。
縋る想いで彼に乞うが、彼は。
「……そんなの死んでも願い下げだ。正式な手続きも踏めないなんて、死ぬより恐ろしい目に遭いそうだからなっ」
ギリッと奥歯を噛み締めて、強い憎悪を滲ませながら……シリル様は、拒絶なされる。
……彼の言い分はもっともだ。
急に現れた異国の者達に、投げ飛ばされて、なじられて、好き勝手に…唇を奪われて。
それで、どうして応じる事が出来るだろう?
この反応は、当然過ぎる結果だ。
でも、それでも……万に一つにでも応じてくれたなら。
たとえ失意に折れて、仕方なくでも、受け入れて下さったなら。
きっと助け出せる事が出来る筈なのに。
このままじゃ、救えない。
ただ、貴方に生きて欲しい、だけなのに。
どうすればいいんだろう。
誰よりも深い失意と悲しみの中にあられる筈のシリル様を差し置いて。
私は、彼に面と向かって拒絶されたという事実が、たまらなく悲しくて、己の心を抉られた。
……あぁ。
私の想いは伝わらない。
やっと視線を交わらせる事が出来ても、返って来るのは、苦々しい表情だけ。
もう、無理なのだな。
あの穏やかな笑みのほんの一部でいいから、自分にも与えて欲しかった。
そんな淡い期待も、全て打ち砕かれてしまった。
もう、どうでもいいや。
そんな諦めしか、思い浮かばなくて。
今までずっと焦がれた想いも、慕う気持ちも、その全てを葬り去る。
ただ、頑なな彼の気を変える為だけに。
………それなら、いっそ。
ささやかな期待も希望も、全て棄てて。
私はただの獣と成り果てた。
「…っ」
誰よりも大切にしたかった筈の、愛おしい人。
その御方を、何よりも無残な方法で穢すのだ、己の手で。
身を竦められるが構う事も無く。
自暴自棄になった様に、彼の衣服を乱雑に剥いでいく。
その事に抵抗すらなさらない彼に、何の遠慮も配慮もせずに。
そうして暴いた彼の肌は、首筋は。
うっとりと見惚れてしまう、美しさで。
白磁の様な肌とは、まさにこの様な肌なのだろう。
何の穢れも無い、透き通る様なこの白い肌に。
己を刻み付けてしまいたい。
そんな欲望に駆られて。
「い“っ!!」
むしゃぶりつく様にして、彼の細い首筋に噛みつく。
まさかこんな乱暴に噛みつかれるとは思っておられなかったであろうシリル様は、予想外の痛みに苦し気に呻いてしまわれるが。
その苦痛に歪められた表情すら、なんとも艶めかしい。
そして、その滑らかな肌からそっと離れると、その首筋には、その白い肌と対比して、自分が付けた歯の跡だけが赤くくっきりと色付いていて。
これは自分が付けたものだ。
恐らくこの無垢な彼に、こんな跡を刻み付けたのは、私だけだろう。
その事実が、なんとも言葉にし難い高揚感と満足感を、私に与えてくれて。
けれど、滲ませられた涙を目にして、ほんの少しだけ我に返る。
もっとその艶やかな顔を見たい様な、泣いて欲しくは無い様な。
相反する気持ちが混在したまま、私は彼の涙をペロッと舐め取った。
「えっ……?……って、うぁっ!」
そして、傷付けてしまったその首筋を、あやす様に舐めていく。
ぴちゃぴちゃと、わざと音を立てて執拗に舐め上げていくと。
「ふ……んぁっ」
顔を背けてしまわれ、鼻にかかった甲高い声を上げられる。
その彼の色気に、ゾクリと戦慄した。
もっと、彼の乱れる姿が見たくなって。
私は己の湧き上がる欲望のままに、彼の滑らかな肌を舐め回してゆく。
また涙目になられていたが、さっきとは違う色気を帯びた朱の色を目にし。
そんな彼と目が合うと、私は嬉しさと欲がないまぜになり、ニッと笑みを浮かべた。
そうしたら、彼はその頬を更にカッと朱の色を濃くされる。
そして、それまで多少の身じろぎはされながらも、ずっと無抵抗でされるがままになされていたのに。
急に焦りを滲ませた声を上げられて。
「あ、アルベリーニ卿っ!も、それ以上はっ」
また泣いてしまわれそうなお顔をされるが、私は。
初めて直接名を呼ばれた事が、どうしようもなく嬉しくて。
でも、どうせなら。
シリル様は驚いて目を見開かれるが、私は構わず続けてしまった。
この異常な状況下で、私も明らかにおかしくなっていた。
こんなの、いけない事だと分かっている。
無抵抗で拒絶も出来よう筈がない、この状況で……彼の唇を奪うなど。
けれど。
どうしても、止められなくて。
どうしても、彼を振り向かせたい。
こっちを、向いて。
私を見て欲しい。
きっと、お前など眼中にも無い、と言われるだろうが……だからこそ。
どうにか私を意識して、欲しくて。
私は何処までも身勝手なキスをした。
想像以上に彼の唇は柔らかくて。
何よりも気持ち良い。
ずっと啄んでいたいくらい、心地良過ぎた。
それでもそっと離したら。
名残惜しくて…つい、チュッとリップ音をたててしまって。
「っ……!」
そうして、再び彼を見やると。
大きく目を見開かれた後、カッとその頬を朱に染められた。
やっと、自分を意識してもらえた気がして。
それがとても嬉しいのに。
胸に当たる大きな手枷によって、最悪な現実に引き戻されるのだ。
シリル様は怒るでも怯えるでもなく、ただただ驚かれていて。
その様子が何処までも無垢で純粋だった。
それさえも愛おしい。
愛おしい彼を、ただ優しく抱きしめたい。
それだけなのに。
私は自分の心の赴くままに、恐れ多くも彼の頭にフワリと触れて、そっと抱きしめた。
「……お願いします。どうか、私達と共に来て下さい。我々の手を取って下されば、貴方をきっとお救い出来る筈です。死に急いだりしないで。私は貴方に生きて欲しい。」
ただそれだけを願っているのです。
縋る想いで彼に乞うが、彼は。
「……そんなの死んでも願い下げだ。正式な手続きも踏めないなんて、死ぬより恐ろしい目に遭いそうだからなっ」
ギリッと奥歯を噛み締めて、強い憎悪を滲ませながら……シリル様は、拒絶なされる。
……彼の言い分はもっともだ。
急に現れた異国の者達に、投げ飛ばされて、なじられて、好き勝手に…唇を奪われて。
それで、どうして応じる事が出来るだろう?
この反応は、当然過ぎる結果だ。
でも、それでも……万に一つにでも応じてくれたなら。
たとえ失意に折れて、仕方なくでも、受け入れて下さったなら。
きっと助け出せる事が出来る筈なのに。
このままじゃ、救えない。
ただ、貴方に生きて欲しい、だけなのに。
どうすればいいんだろう。
誰よりも深い失意と悲しみの中にあられる筈のシリル様を差し置いて。
私は、彼に面と向かって拒絶されたという事実が、たまらなく悲しくて、己の心を抉られた。
……あぁ。
私の想いは伝わらない。
やっと視線を交わらせる事が出来ても、返って来るのは、苦々しい表情だけ。
もう、無理なのだな。
あの穏やかな笑みのほんの一部でいいから、自分にも与えて欲しかった。
そんな淡い期待も、全て打ち砕かれてしまった。
もう、どうでもいいや。
そんな諦めしか、思い浮かばなくて。
今までずっと焦がれた想いも、慕う気持ちも、その全てを葬り去る。
ただ、頑なな彼の気を変える為だけに。
………それなら、いっそ。
ささやかな期待も希望も、全て棄てて。
私はただの獣と成り果てた。
「…っ」
誰よりも大切にしたかった筈の、愛おしい人。
その御方を、何よりも無残な方法で穢すのだ、己の手で。
身を竦められるが構う事も無く。
自暴自棄になった様に、彼の衣服を乱雑に剥いでいく。
その事に抵抗すらなさらない彼に、何の遠慮も配慮もせずに。
そうして暴いた彼の肌は、首筋は。
うっとりと見惚れてしまう、美しさで。
白磁の様な肌とは、まさにこの様な肌なのだろう。
何の穢れも無い、透き通る様なこの白い肌に。
己を刻み付けてしまいたい。
そんな欲望に駆られて。
「い“っ!!」
むしゃぶりつく様にして、彼の細い首筋に噛みつく。
まさかこんな乱暴に噛みつかれるとは思っておられなかったであろうシリル様は、予想外の痛みに苦し気に呻いてしまわれるが。
その苦痛に歪められた表情すら、なんとも艶めかしい。
そして、その滑らかな肌からそっと離れると、その首筋には、その白い肌と対比して、自分が付けた歯の跡だけが赤くくっきりと色付いていて。
これは自分が付けたものだ。
恐らくこの無垢な彼に、こんな跡を刻み付けたのは、私だけだろう。
その事実が、なんとも言葉にし難い高揚感と満足感を、私に与えてくれて。
けれど、滲ませられた涙を目にして、ほんの少しだけ我に返る。
もっとその艶やかな顔を見たい様な、泣いて欲しくは無い様な。
相反する気持ちが混在したまま、私は彼の涙をペロッと舐め取った。
「えっ……?……って、うぁっ!」
そして、傷付けてしまったその首筋を、あやす様に舐めていく。
ぴちゃぴちゃと、わざと音を立てて執拗に舐め上げていくと。
「ふ……んぁっ」
顔を背けてしまわれ、鼻にかかった甲高い声を上げられる。
その彼の色気に、ゾクリと戦慄した。
もっと、彼の乱れる姿が見たくなって。
私は己の湧き上がる欲望のままに、彼の滑らかな肌を舐め回してゆく。
また涙目になられていたが、さっきとは違う色気を帯びた朱の色を目にし。
そんな彼と目が合うと、私は嬉しさと欲がないまぜになり、ニッと笑みを浮かべた。
そうしたら、彼はその頬を更にカッと朱の色を濃くされる。
そして、それまで多少の身じろぎはされながらも、ずっと無抵抗でされるがままになされていたのに。
急に焦りを滲ませた声を上げられて。
「あ、アルベリーニ卿っ!も、それ以上はっ」
また泣いてしまわれそうなお顔をされるが、私は。
初めて直接名を呼ばれた事が、どうしようもなく嬉しくて。
でも、どうせなら。
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