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番外編その2 サフィル・アルベリーニの悔恨
14話
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そうして、必死に平静を装いながら過ごした学院生活は、遂に終わりを迎え。
ようやく全ての授業を終えたのだった。
あんなに真摯に学院生活を送られていた筈の殿下と、共に最後まで終える事が出来なかったのが、唯一の心残りだったけれど。
やる気の無かった私などより殿下の方が。
本当はきっちりとやり遂げたかった筈だろうに。
ジーノの話では、薬を欲して暴れ出したりなどはされていないそうだが、滅茶苦茶頼み込まれて、殿下至上主義のジーノにとっては、それが一番辛いようだった。
なんとか説得して、それでも無理な時は、仕方なく睡眠薬を使っている様だが。
ただ、殿下も判断力はまだ保てている様だったから、明日のパーティーは出るつもりでいて下さっていて。
それだけが救いだった。
殿下の事をジーノに任せっきりにしてしまっているから、私も早く帰らなければならないのだが。
……けれど。
最後に、もう一度。
もう一度だけ。
私がこの辛い学院生活を、それでもなんとか乗り切ってこられたのは、かの御方のお陰だから。
この日常の中の彼の姿を、一目だけでも。
そう思って。
私はシリル様の姿を探して。
人付き合いはお好きではなさそうだったけれど。
それでも真面目に通われていたんだ。
それなりにここでの思い出も作られた筈だろう。
専学科へ上がられる訳でもない様なので、彼にとっても、此処での生活はこれで最後となるのだ。
だからきっと。
最後に、少しくらい思い出に浸られる事も、ある筈だ。
思い当たるのは。
あの古びた噴水の方を見やったが、誰も居なくて。
……それなら、あそこかな。
そう思って、よくカイト様とお二人でお喋りに興じられる為に使われていた、あの空き教室の方へ、足が向いたが。
そしたら。
目の前から、当のシリル様が走って来られて。
あまりにビックリして、避ける事も間に合わずにぶつかってしまったら。
「すみませんっ」
そう言われて。
大丈夫かと私もお声をかけたかったけれど、わき目もふらず走り去ってしまわれたから。
なんだか必死な様子が気になってしまって。
振り返ると、茫然自失とした様子で、あの空き教室から出て来たのは、カイト様ではなくて……ユリウス王太子だった。
(…なんで?!)
私は訳が分からず混乱したが、直ぐ踵を返した。
すると、やっぱりいらっしゃった、あの古びた噴水の所に。
見つけられてホッとしたのも束の間。
「……うっ…うっ…うあぁぁぁっ————!」
聞こえて来たのは、泣き声で。
「…うぐっ……うあぁぁぁ…あぁぁぁっ」
シリル様の苦しそうに泣かれる様は。
傍の陰に隠れた私の耳にも響いて。
大好きな御方の、嘆き悲しまれる姿は。
何よりも私の心を抉って。
そして、直ぐに気が付いた。
さっきシリル様が出て来られたのと同じ空き教室から出て来られたのは、ユリウス王太子で。
そしてその王太子と前に会われた後、その後姿を何とも言えない表情でずっと見つめておられたあの姿。
(……シリル様、やっぱりユリウス殿下の事……)
お好き、だったんだな。
そしてきっと、その想いが……届かなかったんだ。
それで、こんなに。
人目を気にしなくていい、此処で、泣いておられるのか……。
(届かなかったけれど、それでも、シリル様は動かれたんだ。それで叶わなかっただけだったんだ。)
じゃあ、私は?
この2年間、ずっとシリル様を陰から見て来て。
あの方をお見かけ出来るか出来ないかで、一喜一憂して。
でも、身分だ何だと言い訳をして、結局何の行動も起こさなかった。
せめて顔見知りになる事すらも、しようとはしなかったのだ。
そんな自分が、シリル様の事を好きだなんて。
どの口が言えるだろう?
(言える訳が無い。あんなに、大事に想っていた筈なのに。結局何も出来なかった。)
そんな私に、彼を好きになる資格なんて、ある訳が無い。
(……は、ははっ。何だったんだろう、私の想いって。)
分からない。
分からなくなってしまった。
ただ、一つ言える事は。
「……もう、完全に諦めがついた。」
ただ、それだけだった。
ようやく全ての授業を終えたのだった。
あんなに真摯に学院生活を送られていた筈の殿下と、共に最後まで終える事が出来なかったのが、唯一の心残りだったけれど。
やる気の無かった私などより殿下の方が。
本当はきっちりとやり遂げたかった筈だろうに。
ジーノの話では、薬を欲して暴れ出したりなどはされていないそうだが、滅茶苦茶頼み込まれて、殿下至上主義のジーノにとっては、それが一番辛いようだった。
なんとか説得して、それでも無理な時は、仕方なく睡眠薬を使っている様だが。
ただ、殿下も判断力はまだ保てている様だったから、明日のパーティーは出るつもりでいて下さっていて。
それだけが救いだった。
殿下の事をジーノに任せっきりにしてしまっているから、私も早く帰らなければならないのだが。
……けれど。
最後に、もう一度。
もう一度だけ。
私がこの辛い学院生活を、それでもなんとか乗り切ってこられたのは、かの御方のお陰だから。
この日常の中の彼の姿を、一目だけでも。
そう思って。
私はシリル様の姿を探して。
人付き合いはお好きではなさそうだったけれど。
それでも真面目に通われていたんだ。
それなりにここでの思い出も作られた筈だろう。
専学科へ上がられる訳でもない様なので、彼にとっても、此処での生活はこれで最後となるのだ。
だからきっと。
最後に、少しくらい思い出に浸られる事も、ある筈だ。
思い当たるのは。
あの古びた噴水の方を見やったが、誰も居なくて。
……それなら、あそこかな。
そう思って、よくカイト様とお二人でお喋りに興じられる為に使われていた、あの空き教室の方へ、足が向いたが。
そしたら。
目の前から、当のシリル様が走って来られて。
あまりにビックリして、避ける事も間に合わずにぶつかってしまったら。
「すみませんっ」
そう言われて。
大丈夫かと私もお声をかけたかったけれど、わき目もふらず走り去ってしまわれたから。
なんだか必死な様子が気になってしまって。
振り返ると、茫然自失とした様子で、あの空き教室から出て来たのは、カイト様ではなくて……ユリウス王太子だった。
(…なんで?!)
私は訳が分からず混乱したが、直ぐ踵を返した。
すると、やっぱりいらっしゃった、あの古びた噴水の所に。
見つけられてホッとしたのも束の間。
「……うっ…うっ…うあぁぁぁっ————!」
聞こえて来たのは、泣き声で。
「…うぐっ……うあぁぁぁ…あぁぁぁっ」
シリル様の苦しそうに泣かれる様は。
傍の陰に隠れた私の耳にも響いて。
大好きな御方の、嘆き悲しまれる姿は。
何よりも私の心を抉って。
そして、直ぐに気が付いた。
さっきシリル様が出て来られたのと同じ空き教室から出て来られたのは、ユリウス王太子で。
そしてその王太子と前に会われた後、その後姿を何とも言えない表情でずっと見つめておられたあの姿。
(……シリル様、やっぱりユリウス殿下の事……)
お好き、だったんだな。
そしてきっと、その想いが……届かなかったんだ。
それで、こんなに。
人目を気にしなくていい、此処で、泣いておられるのか……。
(届かなかったけれど、それでも、シリル様は動かれたんだ。それで叶わなかっただけだったんだ。)
じゃあ、私は?
この2年間、ずっとシリル様を陰から見て来て。
あの方をお見かけ出来るか出来ないかで、一喜一憂して。
でも、身分だ何だと言い訳をして、結局何の行動も起こさなかった。
せめて顔見知りになる事すらも、しようとはしなかったのだ。
そんな自分が、シリル様の事を好きだなんて。
どの口が言えるだろう?
(言える訳が無い。あんなに、大事に想っていた筈なのに。結局何も出来なかった。)
そんな私に、彼を好きになる資格なんて、ある訳が無い。
(……は、ははっ。何だったんだろう、私の想いって。)
分からない。
分からなくなってしまった。
ただ、一つ言える事は。
「……もう、完全に諦めがついた。」
ただ、それだけだった。
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