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番外編その2 サフィル・アルベリーニの悔恨

6話

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悪い事というのは続くもので。
まずは、クレイン公子様の事だった。

お昼になっても、あの古びた噴水に彼が来なくなったのだ。
私の唯一の楽しみで癒しだったのに。
その事に残念がっていると。

本当にたまたまだった。
休憩時間以外であまり見かける事が少ない、普通科の学生と、移動教室の関係ですれ違う事があって。
友人と談笑しながら、目が合うと軽く会釈をして来る彼らを横目に、私はつい公子様を目で追っていて。
横では殿下が相変わらず…と呆れていたが、私はふらふらと探していると。
廊下の奥で、かの御方をようやく見つけられて。
やった!と浮かれてしまったのも束の間。

ユリウス王太子とすれ違って軽く挨拶を交わした後、クレイン公子様は。
去ってゆくかの王太子の背中を……見つめておられて。
その視線は、まるで。

(……いや、まさか。)

そうだ。
そんな筈は無い。
本当にそうなら、もっと嬉しそうな表情をする筈じゃないか。

でも、彼は。
辛そうな、苦し気な表情で、ずっと……見ていて。

そんな彼の姿を、私は目が離せなかった。

久しぶりに目にする事が出来たというのに。
彼のあんな視線、表情は……見たく、なかった。

違うよな、そんな筈無い。
私は抱いてしまった疑念を払拭する為に、ただひたすら論文の作成作業に打ち込んだ。

そうして、心此処に在らずなのに、黙々と机に座って作業に没頭する事、数日後。
その知らせは届いた。

速達で届けられた手紙に、何か嫌な予感を感じて。
殿下が恐る恐る開いて読まれるのを、固唾を飲んで見守っていた、私達は。

「————母上が、毒を飲んで倒れた。」

そう、口にされて。
虚ろな目で、力なく、その手から手紙が滑り落ちて。

「…………は?」

殿下の呟きに、訳が分からず。
私は落とされた手紙を拾い上げ、僭越ではあるものの、その内容に目を走らせた。

そこに書かれていたのは。

此処の所、体調が回復してきた事もあり、男爵……側妃様の父君で殿下の祖父君である、チェスティ男爵のお墓参りに行かれたべルティーナ様は。
以前、粛清された筈の旧第2王子派閥の残党や、当時どちらにも属せなかった弱小派閥の一部も加わり、いつの間にか地下で反王太子派に膨れ上がっていた者達らの接触を受け、脅されたらしい。

それまでも、たまに嫌がらせの様な手紙を寄越された事があったらしいが、それはロレンツォ殿下が対応なされている。
夏季休暇の度に貴族共への睨みを効かせていたのも、この件もあったからだ。
だが、留学の為、拠点をエウリルスへ移してしまっていた我々は、手紙の差出人を洗い出す余裕が無かった為、その件はヴァレンティーノ王太子殿下にご相談し、お任せしていた。
だから、王太子殿下の方で厳正に対処下さっていると、話には聞いていたが。

だからなのかは分からないが。
追い詰められた反王太子派が、数少ないベルティーナ様の外出を狙って、強行したのだろう。
だが、側妃様には我が長兄のアデリート子爵や王太子殿下の方からも護衛を付けてもらっていたので、直ぐに助けられ、その時の側妃様は事なきを得たそうだ。

しかし。
王宮へ帰った後……その事を報告され、瞬く間に王宮中に知れ渡り。
被害に遭った筈の側妃様は、反王太子派と繋がっているのかと詰問されてしまわれて……。
もちろん、反論なされたそうだが、貴族共に実家が元第2王子派閥で粛清を受けた過去の因縁を付けられ。
王太子殿下や王妃様も庇っては下さったものの……完全には疑念を払拭出来ないまま。
話の流れは留学中のロレンツォ殿下の話にまで及び。

このままでは、自分だけでなく、殿下の立場までお悪くなる危機に直面してしまったベルティーナ側妃様は。
その日の夜に。
自室にて服毒なされた……との事だった。

幸い、発見が早かった為、一命は取り留められたそうだが。
ようやく、外出も可能になってこられたベルティーナ様だったのに。
以前よりも更にお悪い状態になられ、ベッドから起き上がるのも難しい状態らしい。
妹のソフィアがお側を離れず、侍女達と共に日々看病に当たっている、との事だった……。
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