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番外編その2 サフィル・アルベリーニの悔恨
4話
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そんな気楽な夏季休暇を終え、殿下達が戻って来られたが。
「おかえりなさい。向こうはどうでしたか?ソフィアも、元気にしてました?」
なるべく明るい声で尋ねる私に、殿下もジーノも家臣達も、皆一様に表情を曇らせて。
「……何かあったんですか?」
「ソフィアは元気だ。花嫁修業の為に、義母君と居た領地から、王都の屋敷の方へ戻ったそうだ。子爵夫人に付いて、学んでいると言っていた。」
「そうでしたか。」
「あぁ。ソフィアは……義父君の事、まだ残念がってはいたが……以前の笑顔を見せてくれて。けど……母上が…」
そう言い淀むと、殿下はぐっと言葉に詰まってしまわれ。
代わりに口を開いたのは執事のコルネリオで。
「第4側妃様は…夏前より体調を崩されて、横になられる事が増えたそうで……」
「そう……心配ですね…」
「今年の夏は特に暑かったから、こたえていらっしゃる様で…」
との事だった。
「……これから涼しくなって、良くなられるといいんだが…」
と、殿下も側妃様の具合を気にしておられた。
それからすぐ、学院生活が再開となり。
また難しい勉強の日々にうんざりだったが。
でも、良い発見もあった。
かの御方だ。
クレイン公子様のお姿をまた拝見出来る様になったのだが。
彼は時折、昼休憩になると、速足で廊下を通り過ぎて行かれる事があって。
急いで何処へいかれるのかな?と興味が湧いて、彼の行く先を見やっていると。
学院の多くの生徒が利用している食堂でも、明るく開けた中庭でもなく。
北側の手入れがあまりされておらず木々が鬱蒼と生い茂り、その中にポツリとある古びた噴水跡に、腰を下ろされて。
手にしておられた袋に手を突っ込み、片手で掴んだサンドイッチやパンを満面の笑みをして頬張っておられた。
(わぁ……。あんなお顔もされるんだ…)
稀に運よく目にする彼は、常にどこか愁いを帯びた表情で、どこか寂し気にも見えたから。
誰かご友人と一緒に談笑されている姿も、お見受けした事が無く。
でも、そんな普段の姿とはまるで違った、なんだか楽し気なご様子が。
とても新鮮だった。
その後もお昼になって、こっそり覗いてみると。
やっぱり例の古い噴水で、お一人なのにも関わらず、楽しそうに昼食をとられていたから。
きっとあの場所が、彼のお気に入りの場所なんだろうな。
それを知れたのが、何よりの僥倖だった。
そして、放課後には勉強の他に、体調を崩されがちな側妃様の為に、エウリルスの滋養によいとされる薬草や食べ物なんかを捜し歩いてお送りする事が、お決まりの日課となっていった。
そうして。
側妃様のご様子が少し心配ではあったけれども。
日々学業に勤しみながら、辛く感じる事があっても、お昼になればあの噴水に目を向けると。
麗しくもお可愛らしい公子様の姿を拝見出来るから。
それを励みに頑張る事が出来た。
「おかえりなさい。向こうはどうでしたか?ソフィアも、元気にしてました?」
なるべく明るい声で尋ねる私に、殿下もジーノも家臣達も、皆一様に表情を曇らせて。
「……何かあったんですか?」
「ソフィアは元気だ。花嫁修業の為に、義母君と居た領地から、王都の屋敷の方へ戻ったそうだ。子爵夫人に付いて、学んでいると言っていた。」
「そうでしたか。」
「あぁ。ソフィアは……義父君の事、まだ残念がってはいたが……以前の笑顔を見せてくれて。けど……母上が…」
そう言い淀むと、殿下はぐっと言葉に詰まってしまわれ。
代わりに口を開いたのは執事のコルネリオで。
「第4側妃様は…夏前より体調を崩されて、横になられる事が増えたそうで……」
「そう……心配ですね…」
「今年の夏は特に暑かったから、こたえていらっしゃる様で…」
との事だった。
「……これから涼しくなって、良くなられるといいんだが…」
と、殿下も側妃様の具合を気にしておられた。
それからすぐ、学院生活が再開となり。
また難しい勉強の日々にうんざりだったが。
でも、良い発見もあった。
かの御方だ。
クレイン公子様のお姿をまた拝見出来る様になったのだが。
彼は時折、昼休憩になると、速足で廊下を通り過ぎて行かれる事があって。
急いで何処へいかれるのかな?と興味が湧いて、彼の行く先を見やっていると。
学院の多くの生徒が利用している食堂でも、明るく開けた中庭でもなく。
北側の手入れがあまりされておらず木々が鬱蒼と生い茂り、その中にポツリとある古びた噴水跡に、腰を下ろされて。
手にしておられた袋に手を突っ込み、片手で掴んだサンドイッチやパンを満面の笑みをして頬張っておられた。
(わぁ……。あんなお顔もされるんだ…)
稀に運よく目にする彼は、常にどこか愁いを帯びた表情で、どこか寂し気にも見えたから。
誰かご友人と一緒に談笑されている姿も、お見受けした事が無く。
でも、そんな普段の姿とはまるで違った、なんだか楽し気なご様子が。
とても新鮮だった。
その後もお昼になって、こっそり覗いてみると。
やっぱり例の古い噴水で、お一人なのにも関わらず、楽しそうに昼食をとられていたから。
きっとあの場所が、彼のお気に入りの場所なんだろうな。
それを知れたのが、何よりの僥倖だった。
そして、放課後には勉強の他に、体調を崩されがちな側妃様の為に、エウリルスの滋養によいとされる薬草や食べ物なんかを捜し歩いてお送りする事が、お決まりの日課となっていった。
そうして。
側妃様のご様子が少し心配ではあったけれども。
日々学業に勤しみながら、辛く感じる事があっても、お昼になればあの噴水に目を向けると。
麗しくもお可愛らしい公子様の姿を拝見出来るから。
それを励みに頑張る事が出来た。
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