全てを諦めた公爵令息の開き直り

key

文字の大きさ
上 下
202 / 369
番外編その2 サフィル・アルベリーニの悔恨

3話

しおりを挟む
そんな、呑気だが私にとっては大変な、学院生活を日々過ごしながら。
そして、学院が長期休暇に入ると、帰国する。

長い夏季休暇の際には、殿下は必ず帰省され、アデリートの第5王子ここに在り!と言わんばかりに、周囲に存在感を撒き散らして睨みを効かせて回るのだ。
貴族達のパーティーには可能な限り顔を出していたし、もちろん、王宮でのパーティーやお茶会にも、大体参加して。
話題には事欠かない。
エウリルス王国での学院生活の話や、エウリルスでの珍しい品々を手に、お土産はたっぷりあるから。

そうやってあちこちに顔を出す度に、ジーノはもちろんの事、私もお供しなければならないのが、面倒で仕方なかったが。
かと言って、のんびり実家に帰省…もまだしづらい。

騎士団に居る3兄上に顔を見せるくらいなら、兄の同僚達の目もあるので、まだなんとか可能だったが。
実家や母の居る領地の方へはまだ、近寄れない。

もう大丈夫なのかもしれないが、それでも。
周りからどういう疑念の目を向けられるか分からないから、油断が出来ない。
また何か事が起こった時に、ある事無い事言われるのだという事は、今のこの状況に至った原因の、あの事件当時の事を思い出しても、身に染みて分かったから。
いくらまだよく分かっていなかった子供だったとしても、それでも、その事は本当によく理解した。

家族揃ってゆっくり再会出来たのは、昨年の父上の葬儀の時のみだった。
病を患って…との事で、ベッドから出られなくなってからは早かったそうだ。
遠く離れたエウリルスの地に居た私は、危篤の父の知らせを受けて、直ぐに帰省を許してもらえたが、早馬を必死に飛ばしても、父の臨終には立ち会えなかった。

それでも。
また、醜い政争に巻き込まれた上での、憤死などではなく。
家族に見守られてベッドの上での、穏やかな死は。
きっと最期は、幸せに旅立てたのだろう。

父を失った悲しさよりも。
羨ましいと、思ってしまった自分は。
久しく会えた家族と、共に涙する事が出来なくて。
そんな自分に心底嫌気が差した。

厳しく突き放されたからではない。
家を、家族を守る為には、それが必要な事だったのだと、私だって分かっている。

けれど。
未だ不安定で覚束ない立場のロレンツォ殿下の側近として、差し出されて。
実に横暴に振舞って見せる殿下は、いつ誰から恨みを買ってもおかしくはない。
そんな殿下の側に居て、いつその足を引っ張られて、共倒れするかも分からない。
ましてや、今や妹ソフィアの婚約者なのだ。

絶対に、間違いは許されない。
どんな些細なしくじりが、命取りになるか分からないのだ。

父上の様に慎重でしっかりとした威厳が、自分にもあれば別だが。
そんなものはなく。

(きっと私は……貴方の様に穏やかに死ぬ事は出来ないのでしょうね……父上。)

でも、もうそんな恨み言すら、口にする事も許されないのだ。
せめて最期に一言、そう、悪態をついてでも、私の気持ちを聞いて欲しかったのに。

冷たくなった亡骸に向かって、家族や、長年父に仕えていた執事長や侍女達ですら、皆一様に涙し、すすり泣いていたけれど。
最後に駆けつけた自分一人だけが、ぼんやりとそんな感想しか抱けず。
ただ茫然と見やる事しか出来なかった。

……そんな、昨年暮れの慌ただしい帰国以来だったが。
学院の専学科へ進学後の夏季休暇で、私は初めて帰国しなかった。
どうせアルベリーニの屋敷や領地には戻れないし、父を亡くしてまだ1年も経っていなかったから、殿下の側仕えの為と言っても、あまり王宮内をうろつく事も憚られるし。
それを理由に殿下に帰国を丁重にお断りしたら、了承して下されたから。
私は、その夏はどれほど心置きなく羽を伸ばせた事か。

エウリルスの邸宅に留まると、この邸宅を切り盛りしてくれている家臣達も一部、一緒に留まらせてしまう事になり、折角の帰国を楽しみにしていただろうに迷惑をかけてしまう事になるので。
邸宅では過ごさず、安めの宿でのホテル生活をしていたから、本当にのんべんだらりと一夏を過ごした。

ただ、時折街の市場を覗いてみては、家族へ送る土産を見繕っていたが、例の公子様をお見かけする事は一度も無かった。
元々、外に出られる事はほとんど無いとは、伺っていたが。
結構頻繁に街中をうろついていた割に、ついぞお目にかかれなかったから。

(やっぱり、学院内でしか無理なんだなぁ…)

なんて、がっかりしたものだった。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

美形×平凡の子供の話

めちゅう
BL
 美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか? ────────────────── お読みくださりありがとうございます。 お楽しみいただけましたら幸いです。

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

【完結】悪役令息の役目は終わりました

谷絵 ちぐり
BL
悪役令息の役目は終わりました。 断罪された令息のその後のお話。 ※全四話+後日談

春を拒む【完結】

璃々丸
BL
 日本有数の財閥三男でΩの北條院環(ほうじょういん たまき)の目の前には見るからに可憐で儚げなΩの女子大生、桜雛子(さくら ひなこ)が座っていた。 「ケイト君を解放してあげてください!」  大きなおめめをうるうるさせながらそう訴えかけてきた。  ケイト君────諏訪恵都(すわ けいと)は環の婚約者であるαだった。  環とはひとまわり歳の差がある。この女はそんな環の負い目を突いてきたつもりだろうが、『こちとらお前等より人生経験それなりに積んどんねん────!』  そう簡単に譲って堪るか、と大人げない反撃を開始するのであった。  オメガバな設定ですが設定は緩めで独自設定があります、ご注意。 不定期更新になります。   

愛などもう求めない

白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。 「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」 「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」 目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。 本当に自分を愛してくれる人と生きたい。 ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。  ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。 最後まで読んでいただけると嬉しいです。

【完結】薄幸文官志望は嘘をつく

七咲陸
BL
サシャ=ジルヴァールは伯爵家の長男として産まれるが、紫の瞳のせいで両親に疎まれ、弟からも蔑まれる日々を送っていた。 忌々しい紫眼と言う両親に幼い頃からサシャに魔道具の眼鏡を強要する。認識阻害がかかったメガネをかけている間は、サシャの顔や瞳、髪色までまるで別人だった。 学園に入学しても、サシャはあらぬ噂をされてどこにも居場所がない毎日。そんな中でもサシャのことを好きだと言ってくれたクラークと言う茶色の瞳を持つ騎士学生に惹かれ、お付き合いをする事に。 しかし、クラークにキスをせがまれ恥ずかしくて逃げ出したサシャは、アーヴィン=イブリックという翠眼を持つ騎士学生にぶつかってしまい、メガネが外れてしまったーーー… 認識阻害魔道具メガネのせいで2人の騎士の間で別人を演じることになった文官学生の恋の話。 全17話 2/28 番外編を更新しました

処理中です...