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番外編その2 サフィル・アルベリーニの悔恨
1話
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初めてその姿を目にした時、ただただ美しいと思った————…。
やんちゃで横暴な第5王子の従者にされてから、早3年の月日が流れて。
でも、本国に居た時と異なり、このエウリルス王国へ留学に来てから。
私の主人であるロレンツォ殿下は、殊の外穏やかな学院生活を送られていた。
まだ幼さの残っていた筈だった顔は、みるみる内に大人びてしまわれたが。
その中身は初めて引き合わされた頃のまま、ただのやんちゃな少年のままだった。
「はー、また入学式って…。だっるぅー。」
この学院で二度目となる入学式に、早速悪態を口にされている。
「専学科は式だけですから、いいじゃないですか。」
殿下のすぐ後ろから、私はそう囁いたが。
「式も要らねーだろ。どうせ十人程度しか居ねーのに。」
それも、先月まで共に学んでいた同級生だ。
全員ではなく、12人にまで減ったが。
エウリルス王立学院。
エウリルス王国の貴族令息・令嬢、大富豪の為の学府で。
2年の普通科を終えた後、大体の生徒は卒業し、そのまま嫡子の男子は爵位を継ぐ為にそれぞれの実家で実務を学び、次男以下は国や地方の役職の空きを待って職に就いたり。
女子は王宮で催されるデビュタントにて大人の女性として認められ、後にそれぞれ嫁いでいく事が殆どだ。
しかし、一部の成績優秀者やより専門分野を学びたい者の為には、普通科を修了した後、専学科への進学の道を与えられている。
我々は先月、無事普通科を終え、そのまま専学科へと進学したのだ。
勉強内容もより専門性を増していくが、通う学び舎は変わらない。
だから、今、先に学院長から迎えられている、今年度の普通科の新入生達と違って、我々専学科の生徒にとっては、在校生と気分はあまり変わらない。
2年前にはあんなに新鮮で緊張した、目の前で行われている光景も、今となってはただただ面白みのない儀式に過ぎない。
殿下にあんな事を言いながらも、自分もつまらないなと思いながら、ただ何となく今年の新入生がこの会場に順に入場して来るのを眺めていたが。
ふと一人の少年が入場して来るのを目にし、私は思わず目を見張って。
「……綺麗だ。」
思わず口に出していた。
「んあ~?あー、クレイン公子か。へー?お前、あんなのが好みなん?」
私の言葉を耳にした殿下が、何か面白いものでも見つけたのかと、私の肩を掴んで、後ろから覗き込む様に私の視線の先を追っては、そう仰って。
「公子……クレイン公爵家のご令息ですか。」
「あぁ。亡くなったクレイン公爵夫妻の忘れ形見だとよ。……へぇ、今まで全然表に出て来なかった超が付く程の箱入りが、ようやく俗世へお出ましってか。」
ハッ!と、殿下は面白く無さそうに鼻で嗤ったが。
そんな殿下の反応も気に留めないくらい、私は彼が気になって仕方なかった。
これからの学院生活に期待と緊張で胸を高鳴らせている新入生の中で、唯一、不安と心許なさで陰鬱な表情を隠さないで居たから。
何がそんなに心配なのだろう?
伏し目がちでいるあの高貴なご令息は、その身分以上に近寄りがたい、他の人を寄せ付けない雰囲気を醸し出していた…。
やんちゃで横暴な第5王子の従者にされてから、早3年の月日が流れて。
でも、本国に居た時と異なり、このエウリルス王国へ留学に来てから。
私の主人であるロレンツォ殿下は、殊の外穏やかな学院生活を送られていた。
まだ幼さの残っていた筈だった顔は、みるみる内に大人びてしまわれたが。
その中身は初めて引き合わされた頃のまま、ただのやんちゃな少年のままだった。
「はー、また入学式って…。だっるぅー。」
この学院で二度目となる入学式に、早速悪態を口にされている。
「専学科は式だけですから、いいじゃないですか。」
殿下のすぐ後ろから、私はそう囁いたが。
「式も要らねーだろ。どうせ十人程度しか居ねーのに。」
それも、先月まで共に学んでいた同級生だ。
全員ではなく、12人にまで減ったが。
エウリルス王立学院。
エウリルス王国の貴族令息・令嬢、大富豪の為の学府で。
2年の普通科を終えた後、大体の生徒は卒業し、そのまま嫡子の男子は爵位を継ぐ為にそれぞれの実家で実務を学び、次男以下は国や地方の役職の空きを待って職に就いたり。
女子は王宮で催されるデビュタントにて大人の女性として認められ、後にそれぞれ嫁いでいく事が殆どだ。
しかし、一部の成績優秀者やより専門分野を学びたい者の為には、普通科を修了した後、専学科への進学の道を与えられている。
我々は先月、無事普通科を終え、そのまま専学科へと進学したのだ。
勉強内容もより専門性を増していくが、通う学び舎は変わらない。
だから、今、先に学院長から迎えられている、今年度の普通科の新入生達と違って、我々専学科の生徒にとっては、在校生と気分はあまり変わらない。
2年前にはあんなに新鮮で緊張した、目の前で行われている光景も、今となってはただただ面白みのない儀式に過ぎない。
殿下にあんな事を言いながらも、自分もつまらないなと思いながら、ただ何となく今年の新入生がこの会場に順に入場して来るのを眺めていたが。
ふと一人の少年が入場して来るのを目にし、私は思わず目を見張って。
「……綺麗だ。」
思わず口に出していた。
「んあ~?あー、クレイン公子か。へー?お前、あんなのが好みなん?」
私の言葉を耳にした殿下が、何か面白いものでも見つけたのかと、私の肩を掴んで、後ろから覗き込む様に私の視線の先を追っては、そう仰って。
「公子……クレイン公爵家のご令息ですか。」
「あぁ。亡くなったクレイン公爵夫妻の忘れ形見だとよ。……へぇ、今まで全然表に出て来なかった超が付く程の箱入りが、ようやく俗世へお出ましってか。」
ハッ!と、殿下は面白く無さそうに鼻で嗤ったが。
そんな殿下の反応も気に留めないくらい、私は彼が気になって仕方なかった。
これからの学院生活に期待と緊張で胸を高鳴らせている新入生の中で、唯一、不安と心許なさで陰鬱な表情を隠さないで居たから。
何がそんなに心配なのだろう?
伏し目がちでいるあの高貴なご令息は、その身分以上に近寄りがたい、他の人を寄せ付けない雰囲気を醸し出していた…。
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