全てを諦めた公爵令息の開き直り

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番外編その1 セドリック・ハーシェルの追憶

前編

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「あ、またこっち見てる。」
「え?……やっぱり見てないじゃないか。」
「や、ホントに今さっき見てたんですって。」
「もういいから。行くよ、セドリック。」

私はセドリック・ハーシェル、このエウリルス王国の王太子、ユリウス殿下の乳兄弟で、彼の護衛騎士を務めさせて頂いております。

今も、例の“麗しの君”の視線を察知し、主人に教えて差し上げたのですが。
反応が遅いんですよー。
私が言ったらもっと俊敏に反応して下さい、って申し上げているのに。

我が主ながら鈍感でいらっしゃるからぁ……。
あんな熱烈な視線に気付かないなんて。
全く。

我が主人、ユリウス王太子殿下は、金髪碧眼の眉目秀麗、才色兼備、んで性格もまぁ良いと来たもんで。
この高位貴族や大富豪の子息子女が通うエウリルス王立学院内でも、その人気は不動のもので、彼ら彼女らの憧れの視線を欲しいままにしていらっしゃる。
だから、初めは他の学院の生徒達同様、かの君もまた、ただ我が主人に見惚れていらっしゃるだけなのかな?と思っていた。
それに、他の生徒ほど、露骨に目をキラキラさせている事も、まぁ無かったし。

けれど……数ヶ月くらい前かなぁ?
ちょうど救世の巫子カイト様が降臨されて、しばらくしてからだろうか。
稀に視線を感じる様になり。
ふと覗き見ると。
例の麗しの君、シリル・クレイン公子の視線が、我が主人に向いている事があり。

それが、他の下級生達とは違って。
憧れだけでは片付けられない、何かもの言いたげな……憂いと苦悩を抱えている、ような。
そんな気がするのだ。

「……気のせいなんかじゃない気がするんだけどなぁ。」
「まだ言ってるの?」

まだ納得出来ない私は、なんとなしに呟くと。
先を歩いていた殿下が、足を止めてこちらに振り返り、呆れた声を上げられるから。

「だって、我がご主人様は、すぐに誰彼構わず誘惑なさるから。」

意識的だろうが無意識だろうが、すぐに人を虜にするから。
私は至って正直に申し上げたのに。

「人聞きの悪い言い方するんじゃないよ。……それに、前に公爵代理と一緒に王宮に参内してた折にお茶に誘ってみたけど、見事に振られたじゃないか。」

などと言って、私の言葉を否定されるが。
かのクレイン公子は、この学院に通われるまでほとんど公爵邸から出た事が無く、同じ年頃の令息令嬢との交流も殆どされておられなかったんだ。
一部ではお体が弱い様だ、とか、ご病気なのか、とか。
色々噂が飛び交っていた事もあったが。

学院に入学なされてからは、一日も休まず登校されている様だし。
……単に人と関わるのが苦手なのかな。
学院内でも、誰かと一緒に過ごされている様子を見た事も無かった。
時々、カイト様が喋りかけていらっしゃる様だが、カイト様曰く。

「ん~なかなかガードが堅いよぉ!クラスメイトとして、もうちょい仲良くなれたらいいんだけど。」

と仰っておられた。

……そんな、人付き合いが苦手でいらっしゃるきらいがある御方だ、クレイン公子様は。

殿下と一対一の対面のお茶会など、余程の度胸のある者か手馴れている者でないと、無理だろう。
貴方は只のお人じゃないのです、王太子殿下なのですよ。
それも、光り輝く王子様なのですから。
それを自覚してらっしゃいますか?

そう、思わずにはいられない。

けれど。

この前、カイト様と一緒に廊下で談笑していらっしゃるクレイン公子様をお見かけして。
今まで見た事の無い様な、随分打ち解けた気安い様子で戯れられていらっしゃって。
私は少し驚いたけれど、それ以上に。
隣の殿下は、更に目を見開かれていた。

あの、誰にでも平等にお優しいユリウス殿下が。
カイト様に声をお掛けになられた後、クレイン公子様の方を見やって。
とてもいつもの殿下とは思えない、射す様な視線を向けられていて。
隣に居た私ですら、少しゾッと寒気がしたのだった。

「……殿下。何であの時、公子にあんな冷たい目をされたんです?」

他の取り巻き達も帰った後、王宮への馬車の中で、殿下とようやく二人きりになれた私は、おもむろにそう尋ねてみたが。

「え?クレイン公子と会った時の事?」
「えぇ。……いつもの殿下と違って、ビックリしました。」
「……そうか。無意識だったな。……アレだよ。お前が何度もクレイン公子の事を口にするから、変に意識が向いちゃったんだよ、きっと。」

彼にも悪い事をしたかな?
と、呟いておられたけれど。
本当にそれだけだろうか?と疑問に思う。

ユリウス殿下が、太陽の様に明るく光り輝く君ならば。
クレイン公子様は、闇夜を静かに照らす月の光の様な。
そんな対照的な美しさがある。

お二人が並ばれたら、さぞお美しいのだろうが。
それはなかなか叶いそうに無いかな。

なんて、取り留めも無い事を考えた事もあったが。
懐かれてカイト様を弟の様に可愛がられる殿下を見守っていて、そんな事もすっかり忘れてしまっていた。
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