183 / 364
第5章
183話 魔術師の望み
しおりを挟む
「……壮大なネタバレを聞いた気分だっ」
「私も心が無い訳じゃない。悪かったとは思っている……私の実験に付き合わせて。」
「もうハートブレイクが過ぎたわよ!!最後は最高のエンディングに出来たから良かったけど!!」
ガッカリする俺と違い、夏恋はぷりぷりと怒ってみせた。
でも本当。
最後はあの結末に持っていけたから良かったものの。
最初の世界での結末は、俺も夏恋も、それは酷いものだったから。
「私の勝手で呼び出したのはすまなく思っているが、召喚した後の出来事には、私はほぼ干渉していない。だから、何があったのかレイラ達から聞いてはいるが、私が起こした訳では無いからな。」
其処はハッキリしてくれよ、とゼルヴィルツは言い訳の様に言っていて。
こんな何でも出来ちゃう魔術師でも、こんな俺達にわざわざ弁明するのかと思うと、少し可笑しかった。
「じゃあ、異世界人の俺達を呼び寄せて、貴方のやりたかった事って何?」
改めて俺が尋ねてみると。
魔術師は。
「……海斗、夏恋。元の世界に戻る前に、最後に……私に救済の術を施してくれないか?」
「貴方の望みは、それ?でも、救済の術は、元は貴方の力じゃ…」
「いいんだ。私だけでは無理な事でも、異世界人を介せば或いは。と思って。」
そう言って、偉大なる魔術師が、わざわざ俺達に頼んで来たから。
俺は夏恋と顔を見合わせ。
そして、短い祈りを捧げた。
貴方の所為で、大変な目にも合ったけど。
沢山の素敵な思い出も出来たから。
感謝も込めて、俺と夏恋は。
最後の救済を施した……。
しかし。
「……やっぱり、二人でも無理だったな。」
「駄目だったの?」
「あぁ。……でも、いいんだ。」
今までになく、心は込めた筈なのに。
俺達の救済は、この偉大な魔術師には効かなかったらしい。
「一体、どこを治したかったの?」
「怪我や病気ではない。……呪いの様なものだ。」
残念そうに笑うゼルヴィルツに、俺は眉を顰めた。
「フローレンシアでも、王太子の呪いは…俺達には解けなかった。それは貴方も知ってたんじゃないの?俺達に授けてくれたのは治癒のみでしょ?呪いは解けないじゃん。」
能力を授けた張本人が、それは出来ない事を誰よりも知っていたんじゃないの?
首を傾げる俺に、夏恋も疑問に感じて。
「呪いの様なものって、呪いとはまた違うの?」
尋ねる夏恋に、魔術師はフッと自嘲の様に笑みを零した。
「……ある者にとっては違う様に映るし、私にとっては呪いの様に感じるだけだ。フローレンシアの王子の様に、身体を蝕むモノではないが。……やはり、正規の手順でしか解けないものという意味では、呪いに近いのかもな。ヒブリスといったか……あの者の様にな。」
ヒブリスの様に、正攻法でないと解けない類の。
異世界人を介入させる方法は、チート技にもなりはしない。
チート級の魔術を扱える魔術師が、解けないモノを抱えている。
シリルは、もう廃れてしまった。と言っていたが。
それでも、まだこんな魔術が生きているこの世界は、とてつもない。
「出来ない事が分かった。それだけでも充分収穫だ。さ、もうそろそろ帰りなさい、元の世界へ。」
穏やかな笑みを浮かべたゼルヴィルツは、そう言うと、俺達から身を引いた。
「あ、あの!色々ありがとう!大変だったけど、楽しかった!」
「貴方の望みもいつか、叶うといいわね!」
離れていく彼に対して、俺と夏恋は、感謝とエールを送ると。
ゼルヴィルツは笑って見送ってくれた……。
遠くなっていく異世界人達を、見えなくなるまで見送って。
ホッと、息を吐く。
すると、魔術師の側に小さな光がフワリと寄って来た。
「……忘れてないよ。随分待たせたね。」
幼子を宥める様に優しい声で、その光に囁くと。
光はチカチカと反応する様に光った。
「さ、君も行っておいで。……幸多からん事を。」
「私も心が無い訳じゃない。悪かったとは思っている……私の実験に付き合わせて。」
「もうハートブレイクが過ぎたわよ!!最後は最高のエンディングに出来たから良かったけど!!」
ガッカリする俺と違い、夏恋はぷりぷりと怒ってみせた。
でも本当。
最後はあの結末に持っていけたから良かったものの。
最初の世界での結末は、俺も夏恋も、それは酷いものだったから。
「私の勝手で呼び出したのはすまなく思っているが、召喚した後の出来事には、私はほぼ干渉していない。だから、何があったのかレイラ達から聞いてはいるが、私が起こした訳では無いからな。」
其処はハッキリしてくれよ、とゼルヴィルツは言い訳の様に言っていて。
こんな何でも出来ちゃう魔術師でも、こんな俺達にわざわざ弁明するのかと思うと、少し可笑しかった。
「じゃあ、異世界人の俺達を呼び寄せて、貴方のやりたかった事って何?」
改めて俺が尋ねてみると。
魔術師は。
「……海斗、夏恋。元の世界に戻る前に、最後に……私に救済の術を施してくれないか?」
「貴方の望みは、それ?でも、救済の術は、元は貴方の力じゃ…」
「いいんだ。私だけでは無理な事でも、異世界人を介せば或いは。と思って。」
そう言って、偉大なる魔術師が、わざわざ俺達に頼んで来たから。
俺は夏恋と顔を見合わせ。
そして、短い祈りを捧げた。
貴方の所為で、大変な目にも合ったけど。
沢山の素敵な思い出も出来たから。
感謝も込めて、俺と夏恋は。
最後の救済を施した……。
しかし。
「……やっぱり、二人でも無理だったな。」
「駄目だったの?」
「あぁ。……でも、いいんだ。」
今までになく、心は込めた筈なのに。
俺達の救済は、この偉大な魔術師には効かなかったらしい。
「一体、どこを治したかったの?」
「怪我や病気ではない。……呪いの様なものだ。」
残念そうに笑うゼルヴィルツに、俺は眉を顰めた。
「フローレンシアでも、王太子の呪いは…俺達には解けなかった。それは貴方も知ってたんじゃないの?俺達に授けてくれたのは治癒のみでしょ?呪いは解けないじゃん。」
能力を授けた張本人が、それは出来ない事を誰よりも知っていたんじゃないの?
首を傾げる俺に、夏恋も疑問に感じて。
「呪いの様なものって、呪いとはまた違うの?」
尋ねる夏恋に、魔術師はフッと自嘲の様に笑みを零した。
「……ある者にとっては違う様に映るし、私にとっては呪いの様に感じるだけだ。フローレンシアの王子の様に、身体を蝕むモノではないが。……やはり、正規の手順でしか解けないものという意味では、呪いに近いのかもな。ヒブリスといったか……あの者の様にな。」
ヒブリスの様に、正攻法でないと解けない類の。
異世界人を介入させる方法は、チート技にもなりはしない。
チート級の魔術を扱える魔術師が、解けないモノを抱えている。
シリルは、もう廃れてしまった。と言っていたが。
それでも、まだこんな魔術が生きているこの世界は、とてつもない。
「出来ない事が分かった。それだけでも充分収穫だ。さ、もうそろそろ帰りなさい、元の世界へ。」
穏やかな笑みを浮かべたゼルヴィルツは、そう言うと、俺達から身を引いた。
「あ、あの!色々ありがとう!大変だったけど、楽しかった!」
「貴方の望みもいつか、叶うといいわね!」
離れていく彼に対して、俺と夏恋は、感謝とエールを送ると。
ゼルヴィルツは笑って見送ってくれた……。
遠くなっていく異世界人達を、見えなくなるまで見送って。
ホッと、息を吐く。
すると、魔術師の側に小さな光がフワリと寄って来た。
「……忘れてないよ。随分待たせたね。」
幼子を宥める様に優しい声で、その光に囁くと。
光はチカチカと反応する様に光った。
「さ、君も行っておいで。……幸多からん事を。」
58
お気に入りに追加
1,620
あなたにおすすめの小説

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。


性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)


実はαだった俺、逃げることにした。
るるらら
BL
俺はアルディウス。とある貴族の生まれだが今は冒険者として悠々自適に暮らす26歳!
実は俺には秘密があって、前世の記憶があるんだ。日本という島国で暮らす一般人(サラリーマン)だったよな。事故で死んでしまったけど、今は転生して自由気ままに生きている。
一人で生きるようになって数十年。過去の人間達とはすっかり縁も切れてこのまま独身を貫いて生きていくんだろうなと思っていた矢先、事件が起きたんだ!
前世持ち特級Sランク冒険者(α)とヤンデレストーカー化した幼馴染(α→Ω)の追いかけっ子ラブ?ストーリー。
!注意!
初のオメガバース作品。
ゆるゆる設定です。運命の番はおとぎ話のようなもので主人公が暮らす時代には存在しないとされています。
バースが突然変異した設定ですので、無理だと思われたらスッとページを閉じましょう。
!ごめんなさい!
幼馴染だった王子様の嘆き3 の前に
復活した俺に不穏な影1 を更新してしまいました!申し訳ありません。新たに更新しましたので確認してみてください!
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい
翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。
それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん?
「え、俺何か、犬になってない?」
豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。
※どんどん年齢は上がっていきます。
※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる