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第5章
183話 魔術師の望み
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「……壮大なネタバレを聞いた気分だっ」
「私も心が無い訳じゃない。悪かったとは思っている……私の実験に付き合わせて。」
「もうハートブレイクが過ぎたわよ!!最後は最高のエンディングに出来たから良かったけど!!」
ガッカリする俺と違い、夏恋はぷりぷりと怒ってみせた。
でも本当。
最後はあの結末に持っていけたから良かったものの。
最初の世界での結末は、俺も夏恋も、それは酷いものだったから。
「私の勝手で呼び出したのはすまなく思っているが、召喚した後の出来事には、私はほぼ干渉していない。だから、何があったのかレイラ達から聞いてはいるが、私が起こした訳では無いからな。」
其処はハッキリしてくれよ、とゼルヴィルツは言い訳の様に言っていて。
こんな何でも出来ちゃう魔術師でも、こんな俺達にわざわざ弁明するのかと思うと、少し可笑しかった。
「じゃあ、異世界人の俺達を呼び寄せて、貴方のやりたかった事って何?」
改めて俺が尋ねてみると。
魔術師は。
「……海斗、夏恋。元の世界に戻る前に、最後に……私に救済の術を施してくれないか?」
「貴方の望みは、それ?でも、救済の術は、元は貴方の力じゃ…」
「いいんだ。私だけでは無理な事でも、異世界人を介せば或いは。と思って。」
そう言って、偉大なる魔術師が、わざわざ俺達に頼んで来たから。
俺は夏恋と顔を見合わせ。
そして、短い祈りを捧げた。
貴方の所為で、大変な目にも合ったけど。
沢山の素敵な思い出も出来たから。
感謝も込めて、俺と夏恋は。
最後の救済を施した……。
しかし。
「……やっぱり、二人でも無理だったな。」
「駄目だったの?」
「あぁ。……でも、いいんだ。」
今までになく、心は込めた筈なのに。
俺達の救済は、この偉大な魔術師には効かなかったらしい。
「一体、どこを治したかったの?」
「怪我や病気ではない。……呪いの様なものだ。」
残念そうに笑うゼルヴィルツに、俺は眉を顰めた。
「フローレンシアでも、王太子の呪いは…俺達には解けなかった。それは貴方も知ってたんじゃないの?俺達に授けてくれたのは治癒のみでしょ?呪いは解けないじゃん。」
能力を授けた張本人が、それは出来ない事を誰よりも知っていたんじゃないの?
首を傾げる俺に、夏恋も疑問に感じて。
「呪いの様なものって、呪いとはまた違うの?」
尋ねる夏恋に、魔術師はフッと自嘲の様に笑みを零した。
「……ある者にとっては違う様に映るし、私にとっては呪いの様に感じるだけだ。フローレンシアの王子の様に、身体を蝕むモノではないが。……やはり、正規の手順でしか解けないものという意味では、呪いに近いのかもな。ヒブリスといったか……あの者の様にな。」
ヒブリスの様に、正攻法でないと解けない類の。
異世界人を介入させる方法は、チート技にもなりはしない。
チート級の魔術を扱える魔術師が、解けないモノを抱えている。
シリルは、もう廃れてしまった。と言っていたが。
それでも、まだこんな魔術が生きているこの世界は、とてつもない。
「出来ない事が分かった。それだけでも充分収穫だ。さ、もうそろそろ帰りなさい、元の世界へ。」
穏やかな笑みを浮かべたゼルヴィルツは、そう言うと、俺達から身を引いた。
「あ、あの!色々ありがとう!大変だったけど、楽しかった!」
「貴方の望みもいつか、叶うといいわね!」
離れていく彼に対して、俺と夏恋は、感謝とエールを送ると。
ゼルヴィルツは笑って見送ってくれた……。
遠くなっていく異世界人達を、見えなくなるまで見送って。
ホッと、息を吐く。
すると、魔術師の側に小さな光がフワリと寄って来た。
「……忘れてないよ。随分待たせたね。」
幼子を宥める様に優しい声で、その光に囁くと。
光はチカチカと反応する様に光った。
「さ、君も行っておいで。……幸多からん事を。」
「私も心が無い訳じゃない。悪かったとは思っている……私の実験に付き合わせて。」
「もうハートブレイクが過ぎたわよ!!最後は最高のエンディングに出来たから良かったけど!!」
ガッカリする俺と違い、夏恋はぷりぷりと怒ってみせた。
でも本当。
最後はあの結末に持っていけたから良かったものの。
最初の世界での結末は、俺も夏恋も、それは酷いものだったから。
「私の勝手で呼び出したのはすまなく思っているが、召喚した後の出来事には、私はほぼ干渉していない。だから、何があったのかレイラ達から聞いてはいるが、私が起こした訳では無いからな。」
其処はハッキリしてくれよ、とゼルヴィルツは言い訳の様に言っていて。
こんな何でも出来ちゃう魔術師でも、こんな俺達にわざわざ弁明するのかと思うと、少し可笑しかった。
「じゃあ、異世界人の俺達を呼び寄せて、貴方のやりたかった事って何?」
改めて俺が尋ねてみると。
魔術師は。
「……海斗、夏恋。元の世界に戻る前に、最後に……私に救済の術を施してくれないか?」
「貴方の望みは、それ?でも、救済の術は、元は貴方の力じゃ…」
「いいんだ。私だけでは無理な事でも、異世界人を介せば或いは。と思って。」
そう言って、偉大なる魔術師が、わざわざ俺達に頼んで来たから。
俺は夏恋と顔を見合わせ。
そして、短い祈りを捧げた。
貴方の所為で、大変な目にも合ったけど。
沢山の素敵な思い出も出来たから。
感謝も込めて、俺と夏恋は。
最後の救済を施した……。
しかし。
「……やっぱり、二人でも無理だったな。」
「駄目だったの?」
「あぁ。……でも、いいんだ。」
今までになく、心は込めた筈なのに。
俺達の救済は、この偉大な魔術師には効かなかったらしい。
「一体、どこを治したかったの?」
「怪我や病気ではない。……呪いの様なものだ。」
残念そうに笑うゼルヴィルツに、俺は眉を顰めた。
「フローレンシアでも、王太子の呪いは…俺達には解けなかった。それは貴方も知ってたんじゃないの?俺達に授けてくれたのは治癒のみでしょ?呪いは解けないじゃん。」
能力を授けた張本人が、それは出来ない事を誰よりも知っていたんじゃないの?
首を傾げる俺に、夏恋も疑問に感じて。
「呪いの様なものって、呪いとはまた違うの?」
尋ねる夏恋に、魔術師はフッと自嘲の様に笑みを零した。
「……ある者にとっては違う様に映るし、私にとっては呪いの様に感じるだけだ。フローレンシアの王子の様に、身体を蝕むモノではないが。……やはり、正規の手順でしか解けないものという意味では、呪いに近いのかもな。ヒブリスといったか……あの者の様にな。」
ヒブリスの様に、正攻法でないと解けない類の。
異世界人を介入させる方法は、チート技にもなりはしない。
チート級の魔術を扱える魔術師が、解けないモノを抱えている。
シリルは、もう廃れてしまった。と言っていたが。
それでも、まだこんな魔術が生きているこの世界は、とてつもない。
「出来ない事が分かった。それだけでも充分収穫だ。さ、もうそろそろ帰りなさい、元の世界へ。」
穏やかな笑みを浮かべたゼルヴィルツは、そう言うと、俺達から身を引いた。
「あ、あの!色々ありがとう!大変だったけど、楽しかった!」
「貴方の望みもいつか、叶うといいわね!」
離れていく彼に対して、俺と夏恋は、感謝とエールを送ると。
ゼルヴィルツは笑って見送ってくれた……。
遠くなっていく異世界人達を、見えなくなるまで見送って。
ホッと、息を吐く。
すると、魔術師の側に小さな光がフワリと寄って来た。
「……忘れてないよ。随分待たせたね。」
幼子を宥める様に優しい声で、その光に囁くと。
光はチカチカと反応する様に光った。
「さ、君も行っておいで。……幸多からん事を。」
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