全てを諦めた公爵令息の開き直り

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第5章

182話 ネタバレ

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俺もカレンも前回は、気付いたらいつの間にか家のベッドの中にいて。
さっきまで居たあの世界の出来事は、長い夢だったのかな?と、寝ぼけ眼で思ったのが、第一印象だった。

けれど、今回は。

「何?ここ…」
「一面真っ白なんだけど。まさか、あの世とかじゃないよね?!」
「ちょ、ちょっとやめなさいよ!縁起でもないっ」

横から怒る姉の夏恋は、でも不安なのか、僕の腕を強く掴んで身を硬くした。

俺は正面だけでなく、背後や上下も見回したが、やっぱり辺り一面ただの白色で。
そこに俺達二人だけが心許なく漂っていて。
どうすればいいのか分からず戸惑っていると、背後から声が聞こえた。

「お疲れ様。どうだった?今回の結末は。」

そう、問われて。
俺達はびっくりして振り返ると、其処に居たのは……灰色の髪にエメラルド色の瞳の青年だった。

「貴方、誰?」
「私は魔術師ゼルヴィルツ=ラザワイズ。お前達をこの世界へ呼び寄せた張本人だ。」

この紹介は三度目だがな。
そう、一言付け加えて。

「じゃあ、貴方が私達をあの双生の世界に召喚して、私達に救済の力を授けて下さったの?」

目を丸めて、驚きながらも好奇心を隠し切れずに尋ねる夏恋に、ゼルヴィルツは苦笑する。

「あぁ。だが、救済の力を直接そなた達に授けた訳ではない。リンクを繋いでおいただけだ。」
「リンク?」
「そう。魔力を持たない者に直接魔力を吹き込むと、体の負担が強すぎて、場合によっては命にすら関わるからな。私の都合で呼び寄せたのだ。そんな事にはならない様に配慮はしたんだ。そなた達が救済の力を使うタイミングで、大体半径数十メートルの空間を治癒する様、私が毎回魔術で力を送っていた。」
「そうだったんだ。」

へぇ~と呟く俺に対して、夏恋はちょっぴりがっかりしていた。

「なぁんだ。魔術を使えてた訳じゃなかったんだ。」
「毎回、反応が有れば一定量を半ば自動的に送っていたんだが、一回救済対象が百人規模くらいの時があっただろう。あの時は私も他の事をしながら送りかけたら、自動装填じゃ間に合わなくて、慌てて手動に切り替えたぞ。」

無茶しただろう?と、軽く睨まれる。
あ、あれだ。
アデリートでやった時のヤツだ。

「あはは……そんな仕組みとは知らず、ごめんなさい。」
「だから、あの後反動でしばらく動けなかったんだ。」
「まぁ、そういう事だ。」

でも、他の攻撃系の魔術にしてしまうと、誰かに狙われて攻撃をされる場面にも遭遇しかねないから。
だから、能力は治癒のみに限定した。
比較的平和な国だが、何が起こるかは分からないし、自分も常時見てはいられないし。
治癒の能力ならば、最悪、もし命の危険に遭ったとしても、まず回復出来る様にしておいたから。

ゼルヴィルツは、そう淡々と語った。

「はいはーい!質問っ」
「……何だ。」
「私達、あの世界は……元の世界での“双生の巫女と巫子 ~あなたが紡ぐその世界~”ってゲームの世界そっくりだったんだけど、どういう事なんですか?」

自分達は、この魔術師の都合で連れて来られたが、そんな凄い事が出来ちゃう大魔術師サマなのに、案外律儀に考えて対応してくれていた様だ。
だからか。
夏恋は、幾分気安い口調でゼルヴィルツに尋ねてみると。

「……あぁ。お前達異世界人を、こちらの世界に召喚する事も実験の一つだったが、他の実験の一つに、どの程度の力で何処まで私の洗脳効果が有効か、確認するために…」
「洗脳?!そんな事まで出来るの?!」
「あぁ。この世界での古くからの救世の巫女、もしくは巫子の言い伝えは、今回の実験に際して、私があの周辺地域にばら撒いた話だ。そなた達を召喚するにあたり、何の下地も前情報も無いと、最初で躓いて行き倒れかねないからな。」

そう言われ、俺はカレンと、この3度目の世界での最初、シリルの家の前で門番に止められて苦労した事を思い返した。
それを思うと、確かにこんな異世界に何の伝手も前情報も無く放り込まれれば、確実に終わる。
この魔術師が、事前に言い伝えとして話を流布しておいてくれたから、スタートはすんなり事が運べたのか。

「そして、召喚する異世界人……そなた達も、この世界の事を何も知らないまま連れて来れば、恐らく混乱しただろう。本当は私が説明するべきなのだが、私の存在をあまり言いふらさないで欲しかったからな。」
「……誰かから、隠れてるの?」
「……いいや。探しているヤツはいるが…な。」

少し伏目がちに嗤う魔術師は、その気さくさとは別に、仄暗い闇を抱えているのか。
自分達には話せない何かがあるのだと、思わせた。

「……だから、前情報としてある程度知れる様に、ゲームという媒体を使って浅く広くばら撒いたんだ。」
「え“…。貴方が、あのゲーム作ったの?!」
「ハハ…まさか。お前達の世界の、仕事が行き詰っていたゲーム制作のシナリオライターの脳内に直接見せたんだ、この世界を。」
「あ!あれ?『……聞こえますか……今、貴方の脳内に語りかけています。……この世界を参考にしたゲームを作るのです…作るのです…』みたいな?!」
「そう、それ。」

……凄いな、この魔術師。
俺達を召喚する為に、俺達の世界の事もだいぶ知ってる感じじゃね?
感心するような、うすら寒い様な。

ちょっと凄すぎて引いてる俺と違い、夏恋はなるほど!と頷いていた。

「だから、世界観はそのままなのに、ゲームの事件や出来事が全然違ったのね?!」
「そう。それはそなた達の動き次第で、どう進むか分からないし。とにかく、この世界の舞台さえ伝われば良かったから。」
「でも、あのゲームはそれなりに沢山の人がプレイしてた筈だよ。なのに、俺らが選ばれた理由は?それに、夏恋はともかく…俺はゲームの存在は知ってたけど、プレイはした事無かったし……」

夏恋は自分の質問に対する答えが分かって納得していたが。
俺は、自分が選ばれた理由が分からず、魔術師に問うと。

「……あぁ。あのゲーム、学院生活をメインにしていたから、そのくらいの年代で、あと、ゲームも主人公を双子設定にしてたから、男女の双子のお前達にした。」
「理由それだけ?!」
「製作者が全年齢対象にした所為かは知らんが、プレイ経験者の多くが低年齢で、小中学生を召喚するのはどうかと思ったし。高校生なら、異世界でもまぁ生き残れるかなって。」

丁寧に、というより、シレッと答えるこの魔術師は。
いい根性してる。

「それに、監視役にレイラとミストラルも付けて置いたし。」
「あの二人、監視役だったの?!」
「あぁ。だから、極力お前達のする事には介入しない様に言っておいたんだ。」

……知らなかった。
あの麗しいという言葉がピッタリの美貌のレイラと、クールビューティーとは彼女の事かと思わせるミストラルの二人が、このゼルヴィルツという魔術師から派遣された、監視役だったなんて。
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