全てを諦めた公爵令息の開き直り

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第5章

178話 僕の本心

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「僕の、本心……ですか。」
「そう。」

揺れる僕の瞳を捉えて、王太子の澄んだ空色の瞳が、優しく…でも力強く。
促してくれている様で。

………僕は。

「僕はっ……叔父様にクレイン家を継いで欲しい。叔父様達をお、追い出す様な事……したく、ないんです。」
「…うん。」
「叔父様も…叔母様も……大人になったら僕を正式に公爵として継がせる為に、婿養子で入った筈の叔母様のご実家の伯爵家を…叔母様のお父様に戻って頂いて、クレイン家に帰って来てくれました。僕が、きちんと継げる様に…と。」
「そうだったね。」

そう、僕はその事を重々知っていたし、周囲も周知の事実だった。
だから、甘やかされているのを知りながら、その状況を利用した。
本当はもっと公爵令息として、いずれ社交界で活躍出来る様に、子供の内から様々な会に出て、人脈も作らないといけなかったのに。

僕は、自分の運命を何となく感じていたから。
そんな事に何の意味も価値も感じられず。
いや、それどころか、外に出るのが怖かった。
何が命取りになるか、まるで分らなかったから。

漠然とした恐怖と不安が、あって。
ただ、ひっそりと生き延びる事しか、頭に無くて。
でもその事で、公爵令息としてのすべき努力を怠ってしまった。

そんな自分に、どうして継げるだろう?
そんな資格も、覚悟も、無いのに。

死なない程度に生きられるなら、どんな身分でも境遇でも構わない。
例え、能無しと誹りを受けても。
それよりも、今まで立派にクレイン家を守ってくれていた、叔父様にこそ、引き継いで頂きたいのだ。
叔父様が父と共に育った家を、僕の代で潰えさせる訳には…いかないから。

……僕は、思いの丈を明かした。

「シリル……そんなに思い詰めていたなんて。」

ぽとりと零された言葉に、僕はびっくりして振り返る。
すると、そこには叔父の…ルーファスが立っていた。

「お、叔父様っ」
「……すまない、シリル。私がこの場を頼んだんだ、ユリウス殿下に。」
「……え?!叔父様が?」

言われて僕は、王太子の方を見やったら。
王太子は申し訳なさそうな顔をしながらも、説明をくれて。

「重ねてすまない。でも、こうでもしないと…君はずっと自分の気持ちを殺して、この先過ごす事を選びそうだと言われたから。それに、アイツの要請に応じるかどうかも、君の気持ちを確かめない事には、どうにも出来なかったから。」

そう言って、苦笑なされて。
アイツ……って?
僕が目を丸めていると、王太子の背後から溌剌とした声が響いた。

「よーし!これで決まりだ!そーだろ、ユリウス!」

そう言って、出て来たのは、ロレンツォ殿下で。
彼は、一人嬉しそうな顔で、あろうことかユリウス殿下の首に片腕を回して、もう片方の腕を振り上げている。
その様はもう、王子様というより、悪ガキの其れにしか見えない。
自身の首に腕を回された王太子は、心底迷惑そうな顔で、その回された腕をほどいていた。

「…はぁ。お前の勝手には本当に振り回されるよ、全く!」
「そー堅い事言うなよ!ずっと救世の巫子達を独り占めしてた癖に。一人の臣下のささやかな望みくらい聞いてやれって。」

悪戯っぽい笑みを浮かべながら、ロレンツォ殿下はユリウス王太子に気安く話していて。
びっくりする僕に、殿下はニヤッと悪い笑みを見せて来た。

「仮装パーティーの時に言っただろ?俺の家来になれって。でも、近い将来クレインの公爵位を継ぐつもりなら、それは出来ない。だが、その気が無いなら…来れるだろう?」

アデリートに、共に。
そう、仰って。

「……全く。それじゃあちゃんとした説明にならないだろう、ロレン。シリル、すまないね…驚かせてばかりで。実は、あの仮装パーティーの後、ロレンツォから打診されたんだよ、君を自分の側近に欲しいってね。私は、クレイン家の事情ももちろん知っていたから、初めは断ったんだけど……。君が本当は実家を叔父君に継がせたい事と、共にアデリートに行けたら、とサフィルに話していた事を教えられて。それで、カイトからもその話を聞いて……クレイン公爵代理に相談したんだ。」

そう言って、王太子は僕の後ろに立ったままの叔父の方を見やった。

「シリル……。お前は昔から自分の事よりも私達の事を…常に気にかけてくれていたのは、知っていたつもりだった。でも、まさか…あんな風に思っていたなんて、思いもしなかった。兄さんも義姉さんも…お前を本当に可愛がっていたから、絶対にお前を立派に育てて、兄さんの跡を継がせなければって……思っていたんだが……」
「……知ってます。だから、僕を疎むどころか、もの凄く大事にして下さった事。なので言い出せなかった。でも、叔父様。大事に想っているのは僕も同じなんですっ!今まで、あんなに大切にしてくれた叔父様を、家族を。あの家から追い出さなければならないなんて、僕には出来ません。…何度も思いました、僕さえ居なければ良かったのにって。でも、それを口にする事は、今まで大切にして下さった叔父様達への裏切りにしかならない。だから、どうすればいいのか、ずっと悩んでいたんです。」
「シリル……」

目に涙を溢れさせて俯く僕に、叔父は優しく抱きしめてくれた。
怒ってないの?呆れてない?
ずっと不安で仕方なかったのに、抱きしめられて。
それが叔父の答えだと知った。
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