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第5章
177話 望み
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「お招きありがとうございます。ユリウス殿下。」
仮装パーティーから一週間後の休日。
僕は巫子達と共に、王太子に招かれて、また王宮のガゼボに来ていた。
「先日は本当にありがとうございました、殿下。おかげでとっても素敵なパーティーが出来ましたっ」
とても嬉しそうな弾んだ声で礼を言うカレンに、王太子も喜ばれて。
「いや、私の方こそ、とても楽しかったよ。あんなパーティーも面白いね。満足出来ましたか?」
「はい。とっても!」
子供の様に弾ける笑顔のカレンに、王太子は良かった。と笑っておられた。
出されたお茶で喉を潤していると、殿下はおもむろに口を開けた。
「今日来てもらったのは他でもない。……救世の巫子カイト、クレイン公子。君達の望みがまだだったね。その事について話したいから呼んだんだよ。でも、カイトの望みはもう聞いたんだ。だから、あとはクレイン公子、君だけだ。」
「え。カイトはもう決まったのか。」
「うん。だから、シリルの望みを聞いてもらわないとね。」
ニコッと笑うカイトに、僕は何とも言えない顔になって、視線を下ろした。
決まったんなら、僕にも教えてくれたっていいじゃないか。
何にも聞いてないぞ。
何となく悶々としていると、王太子の視線を感じ、顔を上げたら。
「シリル・クレイン公子。」
「はい。」
「君の望みも、そろそろ教えてくれないかな?」
穏やかな顔で問われて、僕は何を言うべきか…視線を彷徨わせる。
まだちゃんと考えていなかった。
何が無難で、且つ、巫子達もうるさく文句を言わず、納得してくれる答えになるかな?
余りに無難過ぎる回答をすると、絶対二人は口出ししてきそうだし。
「すみません…何が良いか、まだ……」
わざわざ呼んでもらいながら、まだ答えを出せず、申し訳なく断る僕に、殿下が。
「いいや。君の中で、もう答えは出ている筈だよ。」
確信をもって、そう言われる。
意図が解らず目を見張る僕に、王太子は柔和な笑みを向けて来られた。
「えっ……」
戸惑う僕の顔を見て、王太子はカイトの方をチラッと見てから、僕の方を見やった。
「……すまない。私がカイトから聞き出したんだ。だから、彼を責めないで欲しいんだけど……。シリル、君は自分ではなく…叔父のルーファス・クレイン公爵代理に正式に公爵位を継いで欲しいと望んでいる様だと聞いて。それは本当かな?」
「————っ!」
僕は驚いて席から立ち上がった。
そして、カイトの方を見やると。
カイトはバツの悪そうな顔をしていて。
…本当に話したのか。
「カイト…っ」
「………ごめんなさい。これはシリル一人の問題じゃないから、簡単に話しちゃいけないのは…分かっていたんだけど…。」
「クレイン公子。言わせてしまったのは私の方なんだ。カイトはね、君の幸せを願った望みを言ってくれたんだけど、その事にどうしても関わってしまうから。それで、公爵位継承の件で君が悩んでいるという事を知ったんだ。」
カイトを庇う様に王太子が弁明し、僕に赦しを求めて来る。
赦しも何も。
……知られてしまった。
どうすれば。
次に紡ぐべき言葉を見つけられずに口を噤む僕に、王太子は優しい眼差しで座す様に促して来て。
仕方なく座り直すと。
「君の気持ちを配慮せず聞き出してしまって、本当に悪かったと思っている。すまない。けれど、ただ単に爵位を継ぐ事が不安なだけなのか、本当に、叔父君に譲りたいと思っているのか、教えてくれないだろうか?そうしてくれれば、もう一人で悩まなくても、私の方からも力添えが出来るんだ。」
それを望みにしてくれても、構わない。
王太子はそう、言ってくれて。
「……でも、そんな事……殿下にご迷惑をおかけする訳にはいきません。それに、今までずっと支えてくれた…叔父と叔母の気持ちも踏みにじる事になって、しまいます。」
「そう、かもしれないね。でも、君の正直な気持ちを、まず教えてくれないか。私や公爵代理夫妻らの事は、一先ず…置いておいて。————君の本心を。」
仮装パーティーから一週間後の休日。
僕は巫子達と共に、王太子に招かれて、また王宮のガゼボに来ていた。
「先日は本当にありがとうございました、殿下。おかげでとっても素敵なパーティーが出来ましたっ」
とても嬉しそうな弾んだ声で礼を言うカレンに、王太子も喜ばれて。
「いや、私の方こそ、とても楽しかったよ。あんなパーティーも面白いね。満足出来ましたか?」
「はい。とっても!」
子供の様に弾ける笑顔のカレンに、王太子は良かった。と笑っておられた。
出されたお茶で喉を潤していると、殿下はおもむろに口を開けた。
「今日来てもらったのは他でもない。……救世の巫子カイト、クレイン公子。君達の望みがまだだったね。その事について話したいから呼んだんだよ。でも、カイトの望みはもう聞いたんだ。だから、あとはクレイン公子、君だけだ。」
「え。カイトはもう決まったのか。」
「うん。だから、シリルの望みを聞いてもらわないとね。」
ニコッと笑うカイトに、僕は何とも言えない顔になって、視線を下ろした。
決まったんなら、僕にも教えてくれたっていいじゃないか。
何にも聞いてないぞ。
何となく悶々としていると、王太子の視線を感じ、顔を上げたら。
「シリル・クレイン公子。」
「はい。」
「君の望みも、そろそろ教えてくれないかな?」
穏やかな顔で問われて、僕は何を言うべきか…視線を彷徨わせる。
まだちゃんと考えていなかった。
何が無難で、且つ、巫子達もうるさく文句を言わず、納得してくれる答えになるかな?
余りに無難過ぎる回答をすると、絶対二人は口出ししてきそうだし。
「すみません…何が良いか、まだ……」
わざわざ呼んでもらいながら、まだ答えを出せず、申し訳なく断る僕に、殿下が。
「いいや。君の中で、もう答えは出ている筈だよ。」
確信をもって、そう言われる。
意図が解らず目を見張る僕に、王太子は柔和な笑みを向けて来られた。
「えっ……」
戸惑う僕の顔を見て、王太子はカイトの方をチラッと見てから、僕の方を見やった。
「……すまない。私がカイトから聞き出したんだ。だから、彼を責めないで欲しいんだけど……。シリル、君は自分ではなく…叔父のルーファス・クレイン公爵代理に正式に公爵位を継いで欲しいと望んでいる様だと聞いて。それは本当かな?」
「————っ!」
僕は驚いて席から立ち上がった。
そして、カイトの方を見やると。
カイトはバツの悪そうな顔をしていて。
…本当に話したのか。
「カイト…っ」
「………ごめんなさい。これはシリル一人の問題じゃないから、簡単に話しちゃいけないのは…分かっていたんだけど…。」
「クレイン公子。言わせてしまったのは私の方なんだ。カイトはね、君の幸せを願った望みを言ってくれたんだけど、その事にどうしても関わってしまうから。それで、公爵位継承の件で君が悩んでいるという事を知ったんだ。」
カイトを庇う様に王太子が弁明し、僕に赦しを求めて来る。
赦しも何も。
……知られてしまった。
どうすれば。
次に紡ぐべき言葉を見つけられずに口を噤む僕に、王太子は優しい眼差しで座す様に促して来て。
仕方なく座り直すと。
「君の気持ちを配慮せず聞き出してしまって、本当に悪かったと思っている。すまない。けれど、ただ単に爵位を継ぐ事が不安なだけなのか、本当に、叔父君に譲りたいと思っているのか、教えてくれないだろうか?そうしてくれれば、もう一人で悩まなくても、私の方からも力添えが出来るんだ。」
それを望みにしてくれても、構わない。
王太子はそう、言ってくれて。
「……でも、そんな事……殿下にご迷惑をおかけする訳にはいきません。それに、今までずっと支えてくれた…叔父と叔母の気持ちも踏みにじる事になって、しまいます。」
「そう、かもしれないね。でも、君の正直な気持ちを、まず教えてくれないか。私や公爵代理夫妻らの事は、一先ず…置いておいて。————君の本心を。」
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