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第5章

174話 夢見心地

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「大丈夫でしたか?姫様。」

だ、抱きしめられている……。
と思ったら、耳元でそっと囁かれて。

ちょ、近い近い!
全然大丈夫じゃないって!
いくら無礼講とはいえ、皆の目があるだろう!

真っ赤になって彼の腕から逃れ、顔を上げる僕に、彼はニッコリと微笑みかけて来て。
そして、一歩下がり、片膝を付いて、手を伸ばされる。

「最後に一曲、私とどうか踊って頂けますか?」

うっ。
そんな格好をつけて言われると。
誘う仕草は気障(キザ)なのに、不安げに乞い願う様に見上げて来るその目は……反則だと思う。

「……は、はいぃ。」

恐る恐る手を取ると。
いつぞやの様に、ニッと笑みを向けられ。
ついその様に見惚れている内に、腰に手を回される。
ドキッと心臓が跳ねたが、彼のアメジストの瞳に囚われて、目が離せない。

最後の曲が始まり、僕らは踊り出した。
サフィルもまた、殊の外上手に僕をリードしてくれるが、やけに体を密着されて。
……まるで、皆に見せつける様に踊らされて。

こんな、シルヴィアの足元にも及ばない、まがい物の令嬢の格好までさせられているというのに。
本当なら、笑いものになってもおかしくないのに。
彼はこんな僕をちっとも嗤う事無く、ただ愛おしい者をみる目で僕を抱き、一緒に踊ってくれるから。
僕はただただ彼だけを見つめて、胸が高鳴っていた。

「カイト!」
「あ、カレン。」
「……シリル、本当に嬉しそうね。そっかぁ、シリルはサフィルの事……」
「うん。シリルが幸せなら、アイツでも応援するべきなのかなぁ~。」

僕がサフィルに夢中になって、ふわふわした心地で踊っていた間。
カレンとカイトは、そんな僕らに感嘆の溜息をついていたのだった。
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