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第5章

173話 悪戯好き

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皆、それぞれ思い思いにダンスを楽しんでいたが。
その中でも一際目立って輝いていた僕らは。
周囲からうっとりとした視線を向けられていた事に、気付きもしなかった。

やっと終わって、王太子に礼をし、彼から解放されてホッとしていると。
何故か次々とダンスを誘われる羽目になった。
……何でだ。

中でも驚いたのは。
シルヴィア時代に一方的にライバル視されていた、今は王太子の婚約者である侯爵令嬢のクリスティーナ嬢が男装しており、キラキラした目でダンスを誘われた事だ。
前世ではまさかこんな事するなんて、想像もつかなかったのに。
男装した令嬢は、今だけはしがらみを忘れ、本当に楽しそうに笑っていた。

「ありがとうございました!」

弾ける笑顔でそう言われ、クリスティーナ嬢は離れていき。
僕は一度休憩しようと、茶菓子が置いてある隅のテーブルの方へ移動した。
テオが直ぐに側に寄って来て。

「素敵でした、シリル様のダンス。」
「いや、もう本当に疲れた……。」

1ヶ月程あったとはいえ此処まで準備し、パーティーを開催するとは。
僕は、悪戯好きな妖精の様に、それぞれの輪に次々と入って行ってはお喋りを楽しむカレンを、遠くから見やった。
そうして、椅子に座り一息ついていると。

「ハッハッハッ!こりゃあ、とびっきりの美人さんだぁ!頂いて行こう!」

そう、ふざけた事を言って来ては、ノリノリで背後からレプリカの短剣を僕の喉元に突き付けてきたのは、すっかり型に嵌まって海賊の姿を楽しんでいたカイトで。

「……コレ、そんなに楽しいか。」
「うん。滅茶苦茶楽しい!」
「ハハ……巫子サマがご満足なら何より。」

ニシシッと悪戯っぽい笑みを浮かべて後ろから抱き付いて来たカイトに、僕は囚われのお姫様の様に扱われながら、やれやれと冷めた態度で溜息をつく。

お遊びとはいえ、こんな悪ふざけが許されるのは救世の巫子だからだぞ、全く。
内心呆れる僕だったが。

不意に前から手をひかれる。
驚いて振り向くと、そこに居たのはサフィルで。

彼は、残念な女装をさせられている僕などとは違い。
王子様の様な煌びやかな衣装を身に纏い、それに全然負けない態度で優美に微笑んでいた。
……って、よく見たら。
胸に付けているブローチは、アデリートの王族や高位貴族のみが着用を許されている紋章が刻まれていて。
その事に、僕はあんぐりと開いた口が塞がらなかったが。

彼のかなり後ろから、こちらを見ていたロレンツォ殿下と目が合うと。
殿下は左手に持った豪華な扇で口元を隠し、子供っぽい笑みを目元に浮かべて、右手を突き出してグッと親指を立てていた。
…貴方様のを貸したんですか。

サフィルの行動にカイトもびっくりした様で、直ぐに僕を解放してくれたが。
呆気に取られている内に、僕はサフィルの腕の中に収まっていたのだった。
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