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第5章
168話 愛おしい
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「あの時はどうかしていた、なんて……ただの言い訳に過ぎません。でも、私は失いたくなかった。ただ……生きて欲しかった。自ら進んで、死を選んで欲しくなかったんです。それくらいなら、例え一生、恨まれても……構わない。私に復讐する為でも何でもいいから、生きる道を選んで欲しかったんです。貴方の気持ちを、知りもしないで……」
悔やんでも悔やみきれない、前世の過ちを。
隠さず話してくれた彼に。
僕はもう、全てが愛おしくなって。
ベッドから身を乗り出すと、彼にギュッと抱き付いた。
「僕も貴方が好きなんですっ!きっと、あの時からずっと…!確かにあれは辛かった。優しく触れられた後、冷たく乱暴にされて。貴方を拒んでしまったから、もう、貴方に見限られたんだと思って、受けた行為より、そっちの方が辛かった……。でも、自分の事を犠牲にしてでも、僕に生きて欲しいと言って、涙してくれて……。あんなにも強く想ってくれて、ありがとう。ごめんなさい、前世では共に行けなくて。でも、今世は……今世こそは、乗り越えて、やっと此処まで来れたんです。だから、その僕の側に、貴方に居て欲しい。」
僕の言葉にピクリと身じろぐサフィルに、僕は更に強く抱きしめた。
「もう、謝罪なんて聞きたくない!あの時の傷も痛みも、今はそれすら糧にしたいんだ。思い出してくれたのなら。もう、後悔よりも、共に先を歩みたい。あの時果たせなかった願いを、今度こそは叶えたいんだ。お願いだ、サフィル……」
僕は祈る様に、サフィルにそう囁くと、僕の腕の中で、彼はコクリと頷いてくれた。
それが、何物にも代えがたく嬉しくて……。
僕は腕の力を緩め、彼の顔を見やる。
まだ目に涙を浮かべていた彼は、それでも泣きそうな顔をしながら笑ってくれて。
僕もまた、きっと同じ様な顔で笑った。
「ありがとう……。やっと掴めた、貴方の手を。」
僕はそう言って、膝の上で固く握られたままの彼の手をそっと掴んだ。
驚いて、込めていた力が抜けた彼の手を、僕はゆっくりと自身の額に摺り寄せた。
……あぁ、ようやくまた、触れる事が出来た。
愛おしい、貴方に。
触れたい。触れて欲しい。
もっと。
ねだる様に見つめてしまった僕は、涙色に濡れていた彼の表情が、朱に染まるのを目にし。
そして、今度は彼の方から抱きしめてきて。
「あぁ、シリル様!好きです。愛しています。離しません、今度こそっ」
強く強く抱きしめられて。
彼の腕の中で、僕は込み上げる喜びを感極まって涙で溢れさせ。
彼に縋りつきながら、僕はこくこくと頷いた。
僕だって、今度こそは掴めたこの手を、絶対に離さない。
そう、心に誓って。
サフィルにも、この想いが伝わる様に。
僕は彼の唇に自身の唇を重ね、優しく触れるキスをした。
そうして微笑む僕に、今度は彼の方からキスをされ。
僕は喜んで受け入れた、が。
「ふ?…ふっ…んんっ」
彼は、僕の触れる様なキスなどとは違い。
重なる唇の隙間から、舌が差し込まれて。
驚いて口を開きかけてしまったら。
彼の舌が僕の舌も絡め取って吸い上げられる。
そうかと思えば歯列をなぞられ、上顎を舐められると、ゾクリと震えた。
あ、この感覚は。
マズいっ!
またあの得体の知れないゾクゾクする感じが、這い上がって来る。
されるがままになって、息も出来ずにクラクラし出した時。
ようやく彼から解放されたが。
その唇が離れる際に伝う唾液の感覚にすら、ゾクッと感じずにはいられなくて。
初めてされた激しいキスに、僕は頭の芯までぼうっとなった。
彼はと言えば、またあの熱に浮かされた様な目で僕を見つめて来る。
まだまだ足りない、といった様子で再び僕を喰らい尽くそうとして来て。
求められるのは、正直…滅茶苦茶嬉しい。
嬉しいんだが。
もう少し加減して欲しい…かな。
「ちょ、ちょっと待って!」
「……すみません、全快されてないのに。でも、嬉しくて。」
「僕も。同じ気持ちで嬉しい。でも、今日はこれで勘弁して……」
沸騰しかかっている頭をサフィルの肩口に埋めて、僕は降参を願い出た。
どうして彼は、こんなにも僕を翻弄するのが上手いんだ。
キスがこんなに激しいものだったなんて、初めて知った……。
僕が拙いのは認めるから、今はちょっと、この甘い余韻に浸らせて欲しい。
乱れた息をゆっくりと整えると。
「ごめんね、止めちゃって。早く良くなるようにするよ。だから、サフィルもこれからは僕の事、“シリル”って呼んで欲しいな。」
「え、ですが……」
「少しずつでも、二人きりの時だけでもいいから、そう呼んで欲しい。そしたら、もっと気持ちが近付ける気がするんだ。」
甘える僕のお願いに、サフィルは頷いてくれた。
「…わかった、シリル。」
「嬉しいよ、サフィル。」
僕は微笑んで、またサフィルに抱き付いた。
悔やんでも悔やみきれない、前世の過ちを。
隠さず話してくれた彼に。
僕はもう、全てが愛おしくなって。
ベッドから身を乗り出すと、彼にギュッと抱き付いた。
「僕も貴方が好きなんですっ!きっと、あの時からずっと…!確かにあれは辛かった。優しく触れられた後、冷たく乱暴にされて。貴方を拒んでしまったから、もう、貴方に見限られたんだと思って、受けた行為より、そっちの方が辛かった……。でも、自分の事を犠牲にしてでも、僕に生きて欲しいと言って、涙してくれて……。あんなにも強く想ってくれて、ありがとう。ごめんなさい、前世では共に行けなくて。でも、今世は……今世こそは、乗り越えて、やっと此処まで来れたんです。だから、その僕の側に、貴方に居て欲しい。」
僕の言葉にピクリと身じろぐサフィルに、僕は更に強く抱きしめた。
「もう、謝罪なんて聞きたくない!あの時の傷も痛みも、今はそれすら糧にしたいんだ。思い出してくれたのなら。もう、後悔よりも、共に先を歩みたい。あの時果たせなかった願いを、今度こそは叶えたいんだ。お願いだ、サフィル……」
僕は祈る様に、サフィルにそう囁くと、僕の腕の中で、彼はコクリと頷いてくれた。
それが、何物にも代えがたく嬉しくて……。
僕は腕の力を緩め、彼の顔を見やる。
まだ目に涙を浮かべていた彼は、それでも泣きそうな顔をしながら笑ってくれて。
僕もまた、きっと同じ様な顔で笑った。
「ありがとう……。やっと掴めた、貴方の手を。」
僕はそう言って、膝の上で固く握られたままの彼の手をそっと掴んだ。
驚いて、込めていた力が抜けた彼の手を、僕はゆっくりと自身の額に摺り寄せた。
……あぁ、ようやくまた、触れる事が出来た。
愛おしい、貴方に。
触れたい。触れて欲しい。
もっと。
ねだる様に見つめてしまった僕は、涙色に濡れていた彼の表情が、朱に染まるのを目にし。
そして、今度は彼の方から抱きしめてきて。
「あぁ、シリル様!好きです。愛しています。離しません、今度こそっ」
強く強く抱きしめられて。
彼の腕の中で、僕は込み上げる喜びを感極まって涙で溢れさせ。
彼に縋りつきながら、僕はこくこくと頷いた。
僕だって、今度こそは掴めたこの手を、絶対に離さない。
そう、心に誓って。
サフィルにも、この想いが伝わる様に。
僕は彼の唇に自身の唇を重ね、優しく触れるキスをした。
そうして微笑む僕に、今度は彼の方からキスをされ。
僕は喜んで受け入れた、が。
「ふ?…ふっ…んんっ」
彼は、僕の触れる様なキスなどとは違い。
重なる唇の隙間から、舌が差し込まれて。
驚いて口を開きかけてしまったら。
彼の舌が僕の舌も絡め取って吸い上げられる。
そうかと思えば歯列をなぞられ、上顎を舐められると、ゾクリと震えた。
あ、この感覚は。
マズいっ!
またあの得体の知れないゾクゾクする感じが、這い上がって来る。
されるがままになって、息も出来ずにクラクラし出した時。
ようやく彼から解放されたが。
その唇が離れる際に伝う唾液の感覚にすら、ゾクッと感じずにはいられなくて。
初めてされた激しいキスに、僕は頭の芯までぼうっとなった。
彼はと言えば、またあの熱に浮かされた様な目で僕を見つめて来る。
まだまだ足りない、といった様子で再び僕を喰らい尽くそうとして来て。
求められるのは、正直…滅茶苦茶嬉しい。
嬉しいんだが。
もう少し加減して欲しい…かな。
「ちょ、ちょっと待って!」
「……すみません、全快されてないのに。でも、嬉しくて。」
「僕も。同じ気持ちで嬉しい。でも、今日はこれで勘弁して……」
沸騰しかかっている頭をサフィルの肩口に埋めて、僕は降参を願い出た。
どうして彼は、こんなにも僕を翻弄するのが上手いんだ。
キスがこんなに激しいものだったなんて、初めて知った……。
僕が拙いのは認めるから、今はちょっと、この甘い余韻に浸らせて欲しい。
乱れた息をゆっくりと整えると。
「ごめんね、止めちゃって。早く良くなるようにするよ。だから、サフィルもこれからは僕の事、“シリル”って呼んで欲しいな。」
「え、ですが……」
「少しずつでも、二人きりの時だけでもいいから、そう呼んで欲しい。そしたら、もっと気持ちが近付ける気がするんだ。」
甘える僕のお願いに、サフィルは頷いてくれた。
「…わかった、シリル。」
「嬉しいよ、サフィル。」
僕は微笑んで、またサフィルに抱き付いた。
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