全てを諦めた公爵令息の開き直り

key

文字の大きさ
上 下
159 / 369
第4章

159話 兄妹

しおりを挟む
強すぎる光に晒されて、僕はただ真っ白な空間の中に居た。
辺り一面ただ白いだけの所で、それ以外何も目に映らない。
僕は自分の身体も朧気だったが、徐々に形を成していって、自分の手を目が認識出来る様になった。

そして、ゆっくりと自分の体が元の形を成すと実感出来た時、ようやく此処が元居た場所ではない事が分かった。
でも、それ以外何も分からない。
ただ心許なく揺蕩うだけで。
どうすればいいのか、分からない。

戸惑うばかりで居る僕に、背中から抱き付く何かを感じた。

「お兄様!」

僕の耳元で元気一杯に呼ぶ声に、僕は心底びっくりして後ろを見ると。
其処には僕と同じ髪の色をした子がくっ付いていて。

パッとその子が僕の背に埋めた顔を上げると。
そこには、僕と同じ瞳の色の、僕とよく似た顔をした。
けれども、僕よりもずっと意思の強そうな少女の顔だった。

「まさか……シルヴィア…?」
「えぇ、そうよ。やっと会えたわ。ずっと待ってたの、シリル兄様っ」

そう言って勝ち気な顔を涙ぐませ、シルヴィアは再度僕の背に顔を埋めた。

「ちょっと待って、ちゃんと顔を見せて。」
「…うん。」

背中にくっつかれたままで、ちゃんと見えない僕は、彼女の腕から解放されると、今度は正面から向き合った。

「……本当に、シルヴィアだ…!シルヴィア、シルヴィアッ」
「シリル兄様っ」

折角懐かしくも美しい彼女の顔を見られたのに、僕は感極まって、彼女をギュッと抱きしめた。
彼女も僕を抱きしめ返してくれる。
現実とは思えない、こんな何も無い空間なのに、彼女の温もりは確かに本物だと感じられて。

「あぁ……ごめんね、シルヴィア…。何もしてあげられなくて……。それどころか、僕、君と兄妹だって事も、ずっと忘れていて……」
「ううん、違うの。お兄様は何も悪くないわ。私の所為なの。私の我儘の所為で、お兄様を苦しめてしまった。ずっと謝りたかったの。だから……ずっと待ってたのよ。」

彼女は涙を滲ませながら、そう言って僕の頬にそっと触れた。

「ヒブリスに会ったのよね?」
「え?ヴァルトシュタイン侯爵?……うん。彼に会って、全て聞いたよ。」
「私も死ぬ前に彼に会って、全部聞いたの。だから言ってやったわ。『アンタの思い通りになんてしてやらないわ!アンタに奪われるくらいなら死んでやるっ』ってね。だって、あの人、私が全部悪いみたいな事言うんだもの。それに、あんな手の込んだ嫌がらせをして仲を引き裂くなんて…。私はただユリウス殿下が好きなだけだったのに。」

むぅとむくれる彼女は、僕の知る完璧な公爵令嬢とはまた違った、素のままの幼い少女そのものだった。

「でも、その後あの湖に飛び込んで、気付いたら此処に居たの。それで、全て知ったわ。本当は私に双子のお兄様が居た事。そのお兄様が、自分の代わりに私を生かそうとしてくれて……私はそれを知らずにいた事を。」

しゅんと目を伏せた彼女は、ゆっくりと話してくれた。

そして、僕の後ろを指して、つられて僕は振り返ると。
其処には、在りし日の記憶が、掠れた像となって映し出されていった……。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

春を拒む【完結】

璃々丸
BL
 日本有数の財閥三男でΩの北條院環(ほうじょういん たまき)の目の前には見るからに可憐で儚げなΩの女子大生、桜雛子(さくら ひなこ)が座っていた。 「ケイト君を解放してあげてください!」  大きなおめめをうるうるさせながらそう訴えかけてきた。  ケイト君────諏訪恵都(すわ けいと)は環の婚約者であるαだった。  環とはひとまわり歳の差がある。この女はそんな環の負い目を突いてきたつもりだろうが、『こちとらお前等より人生経験それなりに積んどんねん────!』  そう簡単に譲って堪るか、と大人げない反撃を開始するのであった。  オメガバな設定ですが設定は緩めで独自設定があります、ご注意。 不定期更新になります。   

美形×平凡の子供の話

めちゅう
BL
 美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか? ────────────────── お読みくださりありがとうございます。 お楽しみいただけましたら幸いです。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

それ以上近づかないでください。

ぽぽ
BL
「誰がお前のことなんか好きになると思うの?」 地味で冴えない小鳥遊凪は、ある日、憧れの人である蓮見馨に不意に告白をしてしまい、2人は付き合うことになった。 まるで夢のような時間――しかし、その恋はある出来事をきっかけに儚くも終わりを迎える。 転校を機に、馨のことを全てを忘れようと決意した凪。もう二度と彼と会うことはないはずだった。 ところが、あることがきっかけで馨と再会することになる。 「本当に可愛い。」 「凪、俺以外のやつと話していいんだっけ?」 かつてとはまるで別人のような馨の様子に戸惑う凪。 「お願いだから、僕にもう近づかないで」

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

本当に悪役なんですか?

メカラウロ子
BL
気づいたら乙女ゲームのモブに転生していた主人公は悪役の取り巻きとしてモブらしからぬ行動を取ってしまう。 状況が掴めないまま戸惑う主人公に、悪役令息のアルフレッドが意外な行動を取ってきて… ムーンライトノベルズ にも掲載中です。

愛などもう求めない

白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。 「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」 「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」 目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。 本当に自分を愛してくれる人と生きたい。 ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。  ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。 最後まで読んでいただけると嬉しいです。

【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」  洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。 子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。  人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。 「僕ね、セティのこと大好きだよ」   【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印) 【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ 【完結】2021/9/13 ※2020/11/01  エブリスタ BLカテゴリー6位 ※2021/09/09  エブリスタ、BLカテゴリー2位

処理中です...