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第4章
159話 兄妹
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強すぎる光に晒されて、僕はただ真っ白な空間の中に居た。
辺り一面ただ白いだけの所で、それ以外何も目に映らない。
僕は自分の身体も朧気だったが、徐々に形を成していって、自分の手を目が認識出来る様になった。
そして、ゆっくりと自分の体が元の形を成すと実感出来た時、ようやく此処が元居た場所ではない事が分かった。
でも、それ以外何も分からない。
ただ心許なく揺蕩うだけで。
どうすればいいのか、分からない。
戸惑うばかりで居る僕に、背中から抱き付く何かを感じた。
「お兄様!」
僕の耳元で元気一杯に呼ぶ声に、僕は心底びっくりして後ろを見ると。
其処には僕と同じ髪の色をした子がくっ付いていて。
パッとその子が僕の背に埋めた顔を上げると。
そこには、僕と同じ瞳の色の、僕とよく似た顔をした。
けれども、僕よりもずっと意思の強そうな少女の顔だった。
「まさか……シルヴィア…?」
「えぇ、そうよ。やっと会えたわ。ずっと待ってたの、シリル兄様っ」
そう言って勝ち気な顔を涙ぐませ、シルヴィアは再度僕の背に顔を埋めた。
「ちょっと待って、ちゃんと顔を見せて。」
「…うん。」
背中にくっつかれたままで、ちゃんと見えない僕は、彼女の腕から解放されると、今度は正面から向き合った。
「……本当に、シルヴィアだ…!シルヴィア、シルヴィアッ」
「シリル兄様っ」
折角懐かしくも美しい彼女の顔を見られたのに、僕は感極まって、彼女をギュッと抱きしめた。
彼女も僕を抱きしめ返してくれる。
現実とは思えない、こんな何も無い空間なのに、彼女の温もりは確かに本物だと感じられて。
「あぁ……ごめんね、シルヴィア…。何もしてあげられなくて……。それどころか、僕、君と兄妹だって事も、ずっと忘れていて……」
「ううん、違うの。お兄様は何も悪くないわ。私の所為なの。私の我儘の所為で、お兄様を苦しめてしまった。ずっと謝りたかったの。だから……ずっと待ってたのよ。」
彼女は涙を滲ませながら、そう言って僕の頬にそっと触れた。
「ヒブリスに会ったのよね?」
「え?ヴァルトシュタイン侯爵?……うん。彼に会って、全て聞いたよ。」
「私も死ぬ前に彼に会って、全部聞いたの。だから言ってやったわ。『アンタの思い通りになんてしてやらないわ!アンタに奪われるくらいなら死んでやるっ』ってね。だって、あの人、私が全部悪いみたいな事言うんだもの。それに、あんな手の込んだ嫌がらせをして仲を引き裂くなんて…。私はただユリウス殿下が好きなだけだったのに。」
むぅとむくれる彼女は、僕の知る完璧な公爵令嬢とはまた違った、素のままの幼い少女そのものだった。
「でも、その後あの湖に飛び込んで、気付いたら此処に居たの。それで、全て知ったわ。本当は私に双子のお兄様が居た事。そのお兄様が、自分の代わりに私を生かそうとしてくれて……私はそれを知らずにいた事を。」
しゅんと目を伏せた彼女は、ゆっくりと話してくれた。
そして、僕の後ろを指して、つられて僕は振り返ると。
其処には、在りし日の記憶が、掠れた像となって映し出されていった……。
辺り一面ただ白いだけの所で、それ以外何も目に映らない。
僕は自分の身体も朧気だったが、徐々に形を成していって、自分の手を目が認識出来る様になった。
そして、ゆっくりと自分の体が元の形を成すと実感出来た時、ようやく此処が元居た場所ではない事が分かった。
でも、それ以外何も分からない。
ただ心許なく揺蕩うだけで。
どうすればいいのか、分からない。
戸惑うばかりで居る僕に、背中から抱き付く何かを感じた。
「お兄様!」
僕の耳元で元気一杯に呼ぶ声に、僕は心底びっくりして後ろを見ると。
其処には僕と同じ髪の色をした子がくっ付いていて。
パッとその子が僕の背に埋めた顔を上げると。
そこには、僕と同じ瞳の色の、僕とよく似た顔をした。
けれども、僕よりもずっと意思の強そうな少女の顔だった。
「まさか……シルヴィア…?」
「えぇ、そうよ。やっと会えたわ。ずっと待ってたの、シリル兄様っ」
そう言って勝ち気な顔を涙ぐませ、シルヴィアは再度僕の背に顔を埋めた。
「ちょっと待って、ちゃんと顔を見せて。」
「…うん。」
背中にくっつかれたままで、ちゃんと見えない僕は、彼女の腕から解放されると、今度は正面から向き合った。
「……本当に、シルヴィアだ…!シルヴィア、シルヴィアッ」
「シリル兄様っ」
折角懐かしくも美しい彼女の顔を見られたのに、僕は感極まって、彼女をギュッと抱きしめた。
彼女も僕を抱きしめ返してくれる。
現実とは思えない、こんな何も無い空間なのに、彼女の温もりは確かに本物だと感じられて。
「あぁ……ごめんね、シルヴィア…。何もしてあげられなくて……。それどころか、僕、君と兄妹だって事も、ずっと忘れていて……」
「ううん、違うの。お兄様は何も悪くないわ。私の所為なの。私の我儘の所為で、お兄様を苦しめてしまった。ずっと謝りたかったの。だから……ずっと待ってたのよ。」
彼女は涙を滲ませながら、そう言って僕の頬にそっと触れた。
「ヒブリスに会ったのよね?」
「え?ヴァルトシュタイン侯爵?……うん。彼に会って、全て聞いたよ。」
「私も死ぬ前に彼に会って、全部聞いたの。だから言ってやったわ。『アンタの思い通りになんてしてやらないわ!アンタに奪われるくらいなら死んでやるっ』ってね。だって、あの人、私が全部悪いみたいな事言うんだもの。それに、あんな手の込んだ嫌がらせをして仲を引き裂くなんて…。私はただユリウス殿下が好きなだけだったのに。」
むぅとむくれる彼女は、僕の知る完璧な公爵令嬢とはまた違った、素のままの幼い少女そのものだった。
「でも、その後あの湖に飛び込んで、気付いたら此処に居たの。それで、全て知ったわ。本当は私に双子のお兄様が居た事。そのお兄様が、自分の代わりに私を生かそうとしてくれて……私はそれを知らずにいた事を。」
しゅんと目を伏せた彼女は、ゆっくりと話してくれた。
そして、僕の後ろを指して、つられて僕は振り返ると。
其処には、在りし日の記憶が、掠れた像となって映し出されていった……。
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