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第4章
154話 事の発端
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「その時の私の記憶はそこまでだ……。それも、かなり曖昧ではあるんだが。」
「僕にはそんな記憶、ありません。いくら幼いと言っても、もう6つの時なら、それなりに物心はありました。そんな経験をしたのなら、尚更覚えていないのは、おかしい。」
「……だから、私はその辺りで記憶の改変が行われたんだろうと睨んでいる。私が自分の持てる力を全て注ぎ込んで救おうとしたアナトリアは、自分の子供の命を救う事に全てを賭けたんだろう。お前から、あの時……私が渡した魔力の気配が混ざっているから。」
……アナトリアとシルヴェスターの葬儀を離れた場所で見送ってから。
殿下の避暑地にご一緒した際に、王宮の警備が手薄になる隙を狙って。
あの時逃したらしい奴等の生き残りが、今度は私に向かって来たから。
私は人の居ない場所へと逃れる様にして誘い込んだんだ。
しかし其処に、運悪く殿下が涼みに来て居られて。
咄嗟に庇ったが、殿下に逆に庇われてしまって、悪足掻きの様な呪いを受けさせてしまった。
「……そうか。母に魔力の殆どを渡してしまったから、殿下の受けてしまわれた呪いを弾き返せなかったんですね。」
「そうだ。だから、その時の魔力を返してもらいたくて、お前達に干渉した。」
ただ、学院に通っていたから、ユリウス王太子も在籍していたし、警備も厳重で中々手出しが出来なかった。
だから。
「僕の時は、人の出入りが一番激しくなる卒業パーティーで、給仕辺りとして忍び込んで、僕の取るグラスに毒を仕込んだのですね?シルヴィアの時は……」
「ユリウス王太子を脅した。」
「は?!殿下を脅した?!」
「あぁ。シリル……お前は本当に隙が無くて手をこまねいていたが、シルヴィアはある意味簡単だった。表によく出ていたし、目立つ存在だったから。あの子を追い詰めるには、王太子から引き離すのが一番だった。」
そもそも、事の発端は、シルヴィアがユリウス殿下との婚約を成立させた事に始まっていた。
アナトリアも公爵令嬢として、結婚してからは公爵夫人として、社交界に姿を現していたが。
所詮、一貴族の女性に過ぎない。
自国や隣国くらいには、その噂は届いても、交流の無い東方域にまでは広まらない。
しかし、王太子妃ともなれば、話は別だ。
交易か何かの手段で、話が漏れ伝わったのだろう。
ただでさえ、勝ち気で、幼い頃から美しかったシルヴィアは、幼い令嬢達の中でもひと際目を引く存在だったから。
そして、美しい銀髪をこれでもかと靡かせていたから。
エンリルの民以外でも、銀の髪を持つ者はいるが、数は決して多くない。
ましてや、その美貌に加えて、強い存在感を放っていたから。
だから、ユリウス王太子との仲を引き裂く事により、その輝きを失わせ、手をかけやすくした。
ユリウス殿下の庇護から外れてしまえば、後はどうとでもなると思ったんだ。
殿下は初め、私の脅しを無視していた。
ただの悪戯か嫌がらせだと思ったのだろう。
私の手紙を調べはしたが、それだけだった。
だが、何度も手紙を送り付け……本当に大変だった。
実際に、シルヴィアが外出した際に、ちょっとしたトラブルを引き起こしてみせた。
頭上から花瓶を落としたり、馬車で引かれそうになる等々の嫌がらせ行為の演出を。
手紙の内容通りの事を起こしてみせ。
殿下もようやく危険だと判断したのだろう。
「……あとは、お前も知っている通りだ。救世の巫女なんて言う邪魔が入った時は心底驚いたが、殿下も逆にその巫女との仲を深めているフリをして、シルヴィアと距離をとってみせたんだ。」
饒舌に話していた侯爵は、しかし。
俯いて苦い顔をしていた。
僕もまた、俯いていた。
正直に話してくれたけれど。
僕の事はともかく、シルヴィアが不憫でならない。
あの時の立場なら、どんなに殿下を信じたくても、目の前で毎日毎日見せつけられて、それでも殿下を信じるなんて……無理があった。
それだけ、殿下の演技も上手だったし、救世の巫女という想定外の存在も、拍車を掛けた。
………けれど、殿下もシルヴィアを守る為に、動いていたなんて……。
もうちょっと、手を抜いたって良かったんじゃないだろうか。
あれなら、彼女の身を守れても、彼女の心は守れないじゃないか。
だって、本当に辛かったんだ。
元気で、自信たっぷりで。
自分に何よりの誇りを持っていた彼女が。
たった半年の間に、どんどん疲弊していくのを実感したから。
だから………。
「僕にはそんな記憶、ありません。いくら幼いと言っても、もう6つの時なら、それなりに物心はありました。そんな経験をしたのなら、尚更覚えていないのは、おかしい。」
「……だから、私はその辺りで記憶の改変が行われたんだろうと睨んでいる。私が自分の持てる力を全て注ぎ込んで救おうとしたアナトリアは、自分の子供の命を救う事に全てを賭けたんだろう。お前から、あの時……私が渡した魔力の気配が混ざっているから。」
……アナトリアとシルヴェスターの葬儀を離れた場所で見送ってから。
殿下の避暑地にご一緒した際に、王宮の警備が手薄になる隙を狙って。
あの時逃したらしい奴等の生き残りが、今度は私に向かって来たから。
私は人の居ない場所へと逃れる様にして誘い込んだんだ。
しかし其処に、運悪く殿下が涼みに来て居られて。
咄嗟に庇ったが、殿下に逆に庇われてしまって、悪足掻きの様な呪いを受けさせてしまった。
「……そうか。母に魔力の殆どを渡してしまったから、殿下の受けてしまわれた呪いを弾き返せなかったんですね。」
「そうだ。だから、その時の魔力を返してもらいたくて、お前達に干渉した。」
ただ、学院に通っていたから、ユリウス王太子も在籍していたし、警備も厳重で中々手出しが出来なかった。
だから。
「僕の時は、人の出入りが一番激しくなる卒業パーティーで、給仕辺りとして忍び込んで、僕の取るグラスに毒を仕込んだのですね?シルヴィアの時は……」
「ユリウス王太子を脅した。」
「は?!殿下を脅した?!」
「あぁ。シリル……お前は本当に隙が無くて手をこまねいていたが、シルヴィアはある意味簡単だった。表によく出ていたし、目立つ存在だったから。あの子を追い詰めるには、王太子から引き離すのが一番だった。」
そもそも、事の発端は、シルヴィアがユリウス殿下との婚約を成立させた事に始まっていた。
アナトリアも公爵令嬢として、結婚してからは公爵夫人として、社交界に姿を現していたが。
所詮、一貴族の女性に過ぎない。
自国や隣国くらいには、その噂は届いても、交流の無い東方域にまでは広まらない。
しかし、王太子妃ともなれば、話は別だ。
交易か何かの手段で、話が漏れ伝わったのだろう。
ただでさえ、勝ち気で、幼い頃から美しかったシルヴィアは、幼い令嬢達の中でもひと際目を引く存在だったから。
そして、美しい銀髪をこれでもかと靡かせていたから。
エンリルの民以外でも、銀の髪を持つ者はいるが、数は決して多くない。
ましてや、その美貌に加えて、強い存在感を放っていたから。
だから、ユリウス王太子との仲を引き裂く事により、その輝きを失わせ、手をかけやすくした。
ユリウス殿下の庇護から外れてしまえば、後はどうとでもなると思ったんだ。
殿下は初め、私の脅しを無視していた。
ただの悪戯か嫌がらせだと思ったのだろう。
私の手紙を調べはしたが、それだけだった。
だが、何度も手紙を送り付け……本当に大変だった。
実際に、シルヴィアが外出した際に、ちょっとしたトラブルを引き起こしてみせた。
頭上から花瓶を落としたり、馬車で引かれそうになる等々の嫌がらせ行為の演出を。
手紙の内容通りの事を起こしてみせ。
殿下もようやく危険だと判断したのだろう。
「……あとは、お前も知っている通りだ。救世の巫女なんて言う邪魔が入った時は心底驚いたが、殿下も逆にその巫女との仲を深めているフリをして、シルヴィアと距離をとってみせたんだ。」
饒舌に話していた侯爵は、しかし。
俯いて苦い顔をしていた。
僕もまた、俯いていた。
正直に話してくれたけれど。
僕の事はともかく、シルヴィアが不憫でならない。
あの時の立場なら、どんなに殿下を信じたくても、目の前で毎日毎日見せつけられて、それでも殿下を信じるなんて……無理があった。
それだけ、殿下の演技も上手だったし、救世の巫女という想定外の存在も、拍車を掛けた。
………けれど、殿下もシルヴィアを守る為に、動いていたなんて……。
もうちょっと、手を抜いたって良かったんじゃないだろうか。
あれなら、彼女の身を守れても、彼女の心は守れないじゃないか。
だって、本当に辛かったんだ。
元気で、自信たっぷりで。
自分に何よりの誇りを持っていた彼女が。
たった半年の間に、どんどん疲弊していくのを実感したから。
だから………。
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