全てを諦めた公爵令息の開き直り

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第4章

153話 片割れ

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「……まぁ、そう言った経緯で結婚した二人だったが、しばらくして子供が出来た。それが、」
「僕か。」
「それと、シルヴィアだな。……双子だったんだよ、お前達は。」
「…………は?僕と…シルヴィアが……双子?!」

いきなりの話に、僕は驚愕の声を上げた。
いや、確かに僕は死に戻ったりしているけど、子供の頃の記憶だって、ちゃんとある。
物心つく前は覚えていないけれど、確かに一人っ子で、双子だった記憶なんて……。

「覚えてなくても仕方がないな。私も最近まで忘れていた。でも、アナトリアからの古い手紙を整理していたら、確かに書いてあったんだ。可愛い双子が生まれたって。……恐らく、記憶改変が為されて、双子としての事実が消されたんだろう……と思う。」
「……誰がそんな事を?」
「分からない。シルヴィアがやったのか、ゼルヴィルツと接触して、奴が介入したのか。けれど、その記憶改変も完全じゃなかったって訳だ。効果の範囲にも限りがあるだろうし。エウリルス内ならともかく、フローレンシアに居た私の記憶は変えられても、アナトリアが残した手紙にまでは効果範囲が及ばなかった様だ……。」
「……そんな……シルヴィアが…僕と、双子だったなんて……。シルヴィアは姉だったの?妹だったの?」

彼女は、前の世の自分だと、完全に思っていた。
だって、彼女の記憶、想い、全てを僕は引き継いでいたから。

それなのに。
同じ血を分けた双子の片割れだったなんて。
彼女は、僕にとって……どういう存在だったの?

「彼女は…シルヴィアは、お前の妹だった。」
「僕の……妹………。」

彼女は、僕の……妹だったのか。
たった一人の。

「僕は……たった一人の妹を……守ってやれなかったのか……。それどころか、自分の妹だったことすら、忘れてっ」

彼女が受けて来た悲しみも辛さも、本当なら兄としてもっと。
守ってやらないと、いけなかった筈なのに……。

「……いや、お前はシルヴィアを守ってやった。だから、最初の生の時、シルヴィアだったんだろうな。」
「……え?」
「混乱しているだろうが、順を追って話そう。……とにかく、シルヴェスターと結婚して双子を産んだアナトリアは幸せいっぱいで、私にも時々手紙をくれていた。だから、離れて暮らしていても、何となく彼女の状況は知っていたんだ。そんな幸せな彼女の生活が一変したのが、娘のシルヴィアがユリウス王太子との婚約が決まった後、しばらくしての事だった。」

ユリウス殿下にぞっこんだったシルヴィアとの婚約を成立させてから、両親は時折城へ参内しては、シルヴィアとユリウス殿下を引き合わせていたようだ。
僕も、もちろん付いて行っていたが、ちょっとシルヴィアに邪険にされて、むすくれていたらしい。
そんな事までつらつらと手紙に書き連ねては、それもまた可愛い可愛いと書いてあったそうだ。
親バカと言うか、面白がってないで、もっと上手く間に入って仲裁して欲しいんだが。

折角、シルヴィアが僕の妹だと知ったのに。
邪魔者扱いされてたとか、悲し過ぎるんだが。
ちょっと泣いていいですか?

色々ショックを受けている僕に、侯爵は溜息をついた。

「……何であの能天気から、こんな繊細な子が生まれたんだろうな?反面教師?シルヴェスターはもっと豪快というか…やっぱり能天気だったし。」

侯爵は本当に分からない、という感じで首を捻っている。
ちょっと、人の親の事、能天気能天気と連呼するの、やめて頂けません?
僕、覚えてないから、否定も肯定も出来ないんだけど。

じろりと見やる僕の事など、どこ吹く風とばかりに受け流し、侯爵は話を続けた。

「ただ、そうやって王城に時折通ってしばらく経った頃から、馬車での行き帰りの度に、どこからか視線を感じる様な、嫌な気配が纏わりつく様な感じがして気味が悪いと、不安を訴える内容を度々書いていた。そして、私にも影響があってはいけないから…とぱったり手紙が来なくなって。私も立太子を無事済まされた殿下のお側をそう簡単に離れられなかったし、最初は様子を見る様にしていたんだが、半年経っても手紙が来ず、いよいよ嫌な予感を覚えた私は、殿下に暇を貰い、こっそりアナトリアに会いに行こうとして。そしたら……帰路から大きく外れた険しい道を馬車で駆けて逃げていたお前達に遭遇したんだ。」

昔からそういう勘は良かったから、予感は的中してしまった。
それも、嫌な方向に。
段々激しくなる雨の中を信じられない程の速いスピードで走り抜けていたアナトリア達は、けれど、次々と襲撃して来る敵に、逃げの一手しか打てずにいた。
私もすぐに追いかけたが、頑張って馬を駆っても、雨でぬかるむ悪路だから、なかなか直ぐに追いつけず。
そうこうしている内に、馬車は道を踏み外し、崖道から転落してしまった。

直ぐに落下地点へと向かったが。
馬車は何とか形を留めていたものの、損傷が激しく。
まず目に付いたのが、馬車の外で頭から血を流して倒れていた公爵のシルヴェスターだった。
後から気付いた事だが、馬車の馬を操って走らせていたのは御者ではなく、公爵自身だったらしい。
恐らく、途中の襲撃で御者はやられてしまったのだろう。
急いで魔術で治癒を施そうとしたが、既に息絶えていた状態だった。

私は馬車の方へ向かい、必死でアナトリアの名を叫んだ。
横転している馬車の扉をこじ開け、中を見ると。
シリルはシルヴィアを抱きしめていて。
その二人の子供を守って、下敷きになって血を流していたアナトリアの姿があった。
虫の息だったが、それでもなんとか反応があり、私は無我夢中で慣れない治癒魔術を施してみるも。
それでも、血は止まらないし、一向に良くなる気配が無い。
一瞬、私の存在に気付いてくれたが、すぐまた気を失ってしまった。

外では雨音が私の声をある程度掻き消してくれたが、いつ奴らに見つかるか分からない。
私は、不得手だった結界を張って、奴らの視界からこちらを隠し、再び治癒魔術に専念したが……いくらやっても変わらなかった。

その後の事は、よく覚えていない。
ただ、彼女を失う事を受け入れられなくて、それまで扱った事のない程の大量の魔力を送り、なんとか息を吹き返した彼女が、意識を取り戻したのを目にして。
それを見届けた私は、薄くなっていく結界を重ね掛けし、その外へ飛び出していった。
襲って来た奴らを返り討ちにする為に。

自分達の凝り固まった思想の為に、1度ならず2度までも。
アナトリアを…たった一人の幼馴染の命を刈ろうとした者達へ、報復を。

残り少ない魔力でも、充分だった。
奴等は魔力の強さばかりに目を奪われて、その術の精度を疎かにしていたから。
簡易な術でも沸騰した頭の奴等は簡単に引っ掛かり、面白い様に倒れていった。

そうして、一人掃討を敢行していた私は、しばらくして片を付けると。
もう、立ち上がる力も無くなって、その場にしばらく倒れ込んでいた。
半日して眠りから醒めた頃、また馬車の方へ向かったが、何故かアナトリアは絶命し、腕の中の子供達が姿を消していた…。
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