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第4章
151話 話して下さい
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「……何処から話せばいいかな。」
いざ話すとなると、どう順序立てて話せばいいのか、困ってしまうもので。
悩む侯爵に、僕は単刀直入に聞いた。
「じゃあ、何で僕の命を狙っているのか。」
「いきなり核心からか。」
「迷ってらっしゃるなら、まず其処でしょう。僕からすれば、死に戻りなだけあって、死んで繰り返しているから。その死の原因たる理由が知りたい。」
「……それもそうか。」
僕の淡々と言う様に、侯爵は一瞬その瞳が揺らいだが、直ぐに手元のティーカップに目線が移った。
「この前の夏、お前は救世の巫子達と共に、フローレンシアへ来ただろう?」
「えぇ、其処で初めてお会いしましたね、貴方に。」
侯爵に問われて頷く僕に、彼は、一瞬僕の方をじっと見つめたが。
また、手元へ視線を戻した。
「……。私はそのフローレンシアの王太子でいらっしゃる、ベルナルト殿下の側近だ。」
「えぇ、そう…紹介を受けましたね。」
「そのベルナルト殿下は、私の生涯仕えるべき主であって……私の恩人なんだ。殿下は、本来私が受ける筈だったのに庇って下さり……受けてしまわれたんだ、呪いを……。」
「殿下が、呪い……。」
カレンの予想した通りだった。
救世の巫女でも救済できないのは……病ではなく、呪い、だったから。
「その呪いは特殊なもので、並みの呪(まじな)い師などでは無理だった。何十人も一遍に救済出来る救世の巫女でも、駄目だっただろう?」
「弾かれたって言っていましたね、カレン達は。」
「だろうな。あれは、単に病を癒す類の魔術の一種だ。恐らく、ゼルヴィルツがあの二人をこの世界へ召喚した際に授けたんだろう。強力だが単純な術として。あの者らが城で救済を施した時に実感したから。あれでは殿下の呪いは解けない。殿下の呪いは、同じ血族でしか解呪出来ないんだ。」
巫子達の力が単純な術だなんて。
強力なのは確かだが、とても単純なものの様には見えなかったのだが。
心の繊細さと術の繊細さは違うのか。
そして、殿下の受けてしまった呪いは、特殊なものらしいが。
「……どうして、そんなハッキリ言い切れるんです?」
「あの呪術を知っているからだ。殿下に術をかけたのは、同族の者だったから。……エンリルの民と言われている。」
「エンリルの……あ。」
そう言えば、魔術同好会で教えてくれたジェラルドが、そんな話もしてくれたな。
古の民とか、原初の民だとか、なんとか。
「古代史や古の魔術の事に詳しいクラスメイトが教えてくれて、耳にした事があります。かなり古い民族なのだとか。」
「……あぁ。もしかしたら、今の現象を引き起こしているゼルヴィルツよりも、起源はもっと古いかもしれない。ただ、そこまで古いと分岐と交配も進んでしまって、何処までをエンリルの民と言っていいのかは私も知らない。ただ、私が物心のついた頃には、一族の皆にそう教えられて育った。」
分岐が進んでしまったが、エンリルの民として遠い東方域で細々と暮らしていた。
だが、そんなある日、別のエンリルの民の襲撃に遭った。
分岐してしまった者達の中で、自身らこそが古からの唯一のエンリルの民だと、強く主張する一派だった。
先鋭化し、過激な手段に出る者達が現れたのだ。
しかし、分岐すればするほど、大昔の様な巨大な魔力は得られない。
力は小さくなっていく一方だ。
だから、一部は血族以外と交わる事を禁じた集団も居たし、一部は古くからの力やしきたりを大事にしつつも外界との交わりを持ち、常に変わる世の流れに対応していった者達も居た。
そして、同じ血族からその魔力を吸い取る事で能力低下を防ごうとした者達も居たのだ。
「それが、先鋭化した……貴方を襲った者達って事ですか。」
「あぁ。私達は襲われ、両親は力を吸い尽くされて殺され、一族の皆とは、散り散りになってしまった。ただ一人を除いては。その一人が……お前の母親、アナトリアだ。」
「え?!……母さん?」
アナトリアは、確かに……僕の実母の名前だが。
僕はびっくりして侯爵に問う。
「母が、そんな古の民の末裔だったなんて話、聞いた事ありません。母は、エウリルスの有力貴族…ウィルソン公爵の娘だったと聞きましたが。」
同じ公爵家でも数代前が王弟という事で公爵の地位を与えられたクレイン家と違い。
ウィルソン家はシャンデル家と並んでその実力で公私共に王家を支え、その実務の多くを担っている公爵家だ。
「その割に、お前はそのウィルソン公爵家との交流はなさそうだな?向こうからすれば、亡き娘の忘れ形見だろうに。」
「父も母も若くに亡くなりましたからね。ウィルソン家からしたら、忌々しいのではないですか?格下のクレイン家などに嫁がせたばっかりにって。それに、両親が亡くなってすぐ、叔父夫婦が帰って来てクレイン家を守ってくれました。ウィルソンからすれば、付け入る隙も無くなって、面白くないのでは?」
「それにしたって、彼らからしたら、お前は孫になるだろう?お前はよく似ている、アナトリアに。」
いつぞやに、屋敷の中を歩き回っていたカイトに尋ねられた事がある。
昔、両親が使っていた部屋に置いてあった家族の肖像画を見つけて、言われた。
『これが、シリルのご両親の絵?』
『あぁ。』
『そっか。シリルはお母さん似だったんだね。滅茶苦茶美人だぁ。実際に会ってみたかったなぁ。』
……などと、喋っていた事を思い出した。
父は叔父と同じ、暗めのブロンドの髪に、僕と同じ濃い藍色の瞳で。
肖像画の母は、僕と同じく銀色の髪を長く垂らして………淡い紫色の瞳をしていた。
そう、ヴァルトシュタイン侯爵……彼と、同じ様な。
いざ話すとなると、どう順序立てて話せばいいのか、困ってしまうもので。
悩む侯爵に、僕は単刀直入に聞いた。
「じゃあ、何で僕の命を狙っているのか。」
「いきなり核心からか。」
「迷ってらっしゃるなら、まず其処でしょう。僕からすれば、死に戻りなだけあって、死んで繰り返しているから。その死の原因たる理由が知りたい。」
「……それもそうか。」
僕の淡々と言う様に、侯爵は一瞬その瞳が揺らいだが、直ぐに手元のティーカップに目線が移った。
「この前の夏、お前は救世の巫子達と共に、フローレンシアへ来ただろう?」
「えぇ、其処で初めてお会いしましたね、貴方に。」
侯爵に問われて頷く僕に、彼は、一瞬僕の方をじっと見つめたが。
また、手元へ視線を戻した。
「……。私はそのフローレンシアの王太子でいらっしゃる、ベルナルト殿下の側近だ。」
「えぇ、そう…紹介を受けましたね。」
「そのベルナルト殿下は、私の生涯仕えるべき主であって……私の恩人なんだ。殿下は、本来私が受ける筈だったのに庇って下さり……受けてしまわれたんだ、呪いを……。」
「殿下が、呪い……。」
カレンの予想した通りだった。
救世の巫女でも救済できないのは……病ではなく、呪い、だったから。
「その呪いは特殊なもので、並みの呪(まじな)い師などでは無理だった。何十人も一遍に救済出来る救世の巫女でも、駄目だっただろう?」
「弾かれたって言っていましたね、カレン達は。」
「だろうな。あれは、単に病を癒す類の魔術の一種だ。恐らく、ゼルヴィルツがあの二人をこの世界へ召喚した際に授けたんだろう。強力だが単純な術として。あの者らが城で救済を施した時に実感したから。あれでは殿下の呪いは解けない。殿下の呪いは、同じ血族でしか解呪出来ないんだ。」
巫子達の力が単純な術だなんて。
強力なのは確かだが、とても単純なものの様には見えなかったのだが。
心の繊細さと術の繊細さは違うのか。
そして、殿下の受けてしまった呪いは、特殊なものらしいが。
「……どうして、そんなハッキリ言い切れるんです?」
「あの呪術を知っているからだ。殿下に術をかけたのは、同族の者だったから。……エンリルの民と言われている。」
「エンリルの……あ。」
そう言えば、魔術同好会で教えてくれたジェラルドが、そんな話もしてくれたな。
古の民とか、原初の民だとか、なんとか。
「古代史や古の魔術の事に詳しいクラスメイトが教えてくれて、耳にした事があります。かなり古い民族なのだとか。」
「……あぁ。もしかしたら、今の現象を引き起こしているゼルヴィルツよりも、起源はもっと古いかもしれない。ただ、そこまで古いと分岐と交配も進んでしまって、何処までをエンリルの民と言っていいのかは私も知らない。ただ、私が物心のついた頃には、一族の皆にそう教えられて育った。」
分岐が進んでしまったが、エンリルの民として遠い東方域で細々と暮らしていた。
だが、そんなある日、別のエンリルの民の襲撃に遭った。
分岐してしまった者達の中で、自身らこそが古からの唯一のエンリルの民だと、強く主張する一派だった。
先鋭化し、過激な手段に出る者達が現れたのだ。
しかし、分岐すればするほど、大昔の様な巨大な魔力は得られない。
力は小さくなっていく一方だ。
だから、一部は血族以外と交わる事を禁じた集団も居たし、一部は古くからの力やしきたりを大事にしつつも外界との交わりを持ち、常に変わる世の流れに対応していった者達も居た。
そして、同じ血族からその魔力を吸い取る事で能力低下を防ごうとした者達も居たのだ。
「それが、先鋭化した……貴方を襲った者達って事ですか。」
「あぁ。私達は襲われ、両親は力を吸い尽くされて殺され、一族の皆とは、散り散りになってしまった。ただ一人を除いては。その一人が……お前の母親、アナトリアだ。」
「え?!……母さん?」
アナトリアは、確かに……僕の実母の名前だが。
僕はびっくりして侯爵に問う。
「母が、そんな古の民の末裔だったなんて話、聞いた事ありません。母は、エウリルスの有力貴族…ウィルソン公爵の娘だったと聞きましたが。」
同じ公爵家でも数代前が王弟という事で公爵の地位を与えられたクレイン家と違い。
ウィルソン家はシャンデル家と並んでその実力で公私共に王家を支え、その実務の多くを担っている公爵家だ。
「その割に、お前はそのウィルソン公爵家との交流はなさそうだな?向こうからすれば、亡き娘の忘れ形見だろうに。」
「父も母も若くに亡くなりましたからね。ウィルソン家からしたら、忌々しいのではないですか?格下のクレイン家などに嫁がせたばっかりにって。それに、両親が亡くなってすぐ、叔父夫婦が帰って来てクレイン家を守ってくれました。ウィルソンからすれば、付け入る隙も無くなって、面白くないのでは?」
「それにしたって、彼らからしたら、お前は孫になるだろう?お前はよく似ている、アナトリアに。」
いつぞやに、屋敷の中を歩き回っていたカイトに尋ねられた事がある。
昔、両親が使っていた部屋に置いてあった家族の肖像画を見つけて、言われた。
『これが、シリルのご両親の絵?』
『あぁ。』
『そっか。シリルはお母さん似だったんだね。滅茶苦茶美人だぁ。実際に会ってみたかったなぁ。』
……などと、喋っていた事を思い出した。
父は叔父と同じ、暗めのブロンドの髪に、僕と同じ濃い藍色の瞳で。
肖像画の母は、僕と同じく銀色の髪を長く垂らして………淡い紫色の瞳をしていた。
そう、ヴァルトシュタイン侯爵……彼と、同じ様な。
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