149 / 331
第4章
149話 壮大な実験
しおりを挟む
「……ヴァルトシュタイン侯爵、貴方も…この世界の繰り返しに気付いておられたなんて。……まさか、貴方がこの繰り返しを引き起こされたりとかは……していないのですか?」
雷の様な魔術を使ったり、幻影を創ったり。
巧みに色んな事が出来る侯爵なら、あるいは。
念の為、尋ねてみたが。
恐る恐る聞く僕に、侯爵はギロリと睨み付けてきて。
「魔術で貴方にとどめも刺せない私に、そんな芸当が出来るとでも?繰り返しを感知は出来ても、それを行使する事は出来ません。出来れば、そもそもこんな苦労はしない。」
「じゃあ、どうしてなんだろう?一体誰が?……まさか、神様…とか?」
「ハッ…まぁ、当たらずとも遠からず…と言った所ですかね。……救世の巫子がいるでしょう?あの存在を異世界から呼び寄せた人物ですよ。私達等より遥か高次元の魔術が使える大魔術師。その神の如く大魔術師サマの、壮大な実験の一部でしかないのですよ、これは。」
「………はぁ?大魔術師の実験?」
ヒブリス・ヴァルトシュタイン侯爵。
魔術を巧みに扱える彼は。
その魔術の扱いだけでなく、魔術師の事にも詳しい様だ。
呆気にとられる僕を睨み見て、侯爵は苦々しい顔をした。
「私達は所詮、ゼルヴィルツの手のひらで転がされている駒の一部にしかすぎません。奴からすればただ永い生の中での、ほんの暇つぶしにしか過ぎない。それに抗うほどの力は私には無い。だから、奴の気の向くまま、好きにすればいいだろう。私は、私の為すべき事を為すまでだ。」
圧倒的強者の手のひらで転がされるだけの存在でしかなくとも。
自分は自分のすべき事をやり遂げてみせる。
侯爵はそう決意を強く宿した瞳で、僕を見つめて来る。
「……それが、僕を殺す事ですか。」
「…あぁ。」
「そうですか。」
「………」
強い憎しみすら篭った目で睨み付けられて。
きっと、以前の僕ならそれだけで怯んだだろうけど。
生憎、色んな事が有り過ぎて、そのくらいではどうにも怖気づかなくなってしまった。
侯爵の答えに淡々と反応する僕に、彼は僕をはかりかねている様だった。
「ヒブリス・ヴァルトシュタイン侯爵。貴方は僕より多くの事を知っている。ただこの運命に翻弄され続けていた、僕などとは違って。お願いします、侯爵……教えて下さい。貴方のご存知の事を全て。僕は逃げませんから。……もう、逃げる事はしませんから。だから、教えて欲しい。何があって、どうして僕の命が欲しいのか。何も知らないまま死ぬのはもう嫌なんだ!」
知りたいんだ、何故、この様な事になったのか。
2度の死に戻りで、色々知れたと思っていた。
でも、違った。
この3度目の今世でも、知らなかった事が沢山あった。
ヴァルトシュタイン侯爵、貴方の存在も、その1つだ。
僕は、侯爵のその淡く美しい瞳を見つめた。
決して逸らすつもりは無い。
僕は逃げないと誓ったんだ。
貴方だって、逃がすつもりはない。
じっと見つめ続けると、侯爵は根負けしたのか、ようやく口を開いた。
「…………分かった。お話ししましょう。」
「…あ、待って。」
「……何です?」
やっと折れた侯爵に対し、僕は気付いて待ったをかけた。
侯爵は急に出ばなをくじかれて、嫌な顔をして見せたが。
「絶対、お話長くなりますよね?だったら、椅子に座って話しましょう。お茶も必要ですね。あるでしょう?」
僕はニッコリ笑ってそう言うと、床に蹲ったままの侯爵に手を伸ばし、立つ様に促した。
侯爵は益々変な顔をしたが、呆れて、それでも僕の手を取ってくれて。
僕はグイッと引っ張って、侯爵を立たせた。
でも、それよりも侯爵が自分の力で立ち上がったと言うべきか。
……カイトの様に上手く引っ張れない。
やっぱり腕力に差があり過ぎるのか。
僕はちょっぴりがっかりした。
雷の様な魔術を使ったり、幻影を創ったり。
巧みに色んな事が出来る侯爵なら、あるいは。
念の為、尋ねてみたが。
恐る恐る聞く僕に、侯爵はギロリと睨み付けてきて。
「魔術で貴方にとどめも刺せない私に、そんな芸当が出来るとでも?繰り返しを感知は出来ても、それを行使する事は出来ません。出来れば、そもそもこんな苦労はしない。」
「じゃあ、どうしてなんだろう?一体誰が?……まさか、神様…とか?」
「ハッ…まぁ、当たらずとも遠からず…と言った所ですかね。……救世の巫子がいるでしょう?あの存在を異世界から呼び寄せた人物ですよ。私達等より遥か高次元の魔術が使える大魔術師。その神の如く大魔術師サマの、壮大な実験の一部でしかないのですよ、これは。」
「………はぁ?大魔術師の実験?」
ヒブリス・ヴァルトシュタイン侯爵。
魔術を巧みに扱える彼は。
その魔術の扱いだけでなく、魔術師の事にも詳しい様だ。
呆気にとられる僕を睨み見て、侯爵は苦々しい顔をした。
「私達は所詮、ゼルヴィルツの手のひらで転がされている駒の一部にしかすぎません。奴からすればただ永い生の中での、ほんの暇つぶしにしか過ぎない。それに抗うほどの力は私には無い。だから、奴の気の向くまま、好きにすればいいだろう。私は、私の為すべき事を為すまでだ。」
圧倒的強者の手のひらで転がされるだけの存在でしかなくとも。
自分は自分のすべき事をやり遂げてみせる。
侯爵はそう決意を強く宿した瞳で、僕を見つめて来る。
「……それが、僕を殺す事ですか。」
「…あぁ。」
「そうですか。」
「………」
強い憎しみすら篭った目で睨み付けられて。
きっと、以前の僕ならそれだけで怯んだだろうけど。
生憎、色んな事が有り過ぎて、そのくらいではどうにも怖気づかなくなってしまった。
侯爵の答えに淡々と反応する僕に、彼は僕をはかりかねている様だった。
「ヒブリス・ヴァルトシュタイン侯爵。貴方は僕より多くの事を知っている。ただこの運命に翻弄され続けていた、僕などとは違って。お願いします、侯爵……教えて下さい。貴方のご存知の事を全て。僕は逃げませんから。……もう、逃げる事はしませんから。だから、教えて欲しい。何があって、どうして僕の命が欲しいのか。何も知らないまま死ぬのはもう嫌なんだ!」
知りたいんだ、何故、この様な事になったのか。
2度の死に戻りで、色々知れたと思っていた。
でも、違った。
この3度目の今世でも、知らなかった事が沢山あった。
ヴァルトシュタイン侯爵、貴方の存在も、その1つだ。
僕は、侯爵のその淡く美しい瞳を見つめた。
決して逸らすつもりは無い。
僕は逃げないと誓ったんだ。
貴方だって、逃がすつもりはない。
じっと見つめ続けると、侯爵は根負けしたのか、ようやく口を開いた。
「…………分かった。お話ししましょう。」
「…あ、待って。」
「……何です?」
やっと折れた侯爵に対し、僕は気付いて待ったをかけた。
侯爵は急に出ばなをくじかれて、嫌な顔をして見せたが。
「絶対、お話長くなりますよね?だったら、椅子に座って話しましょう。お茶も必要ですね。あるでしょう?」
僕はニッコリ笑ってそう言うと、床に蹲ったままの侯爵に手を伸ばし、立つ様に促した。
侯爵は益々変な顔をしたが、呆れて、それでも僕の手を取ってくれて。
僕はグイッと引っ張って、侯爵を立たせた。
でも、それよりも侯爵が自分の力で立ち上がったと言うべきか。
……カイトの様に上手く引っ張れない。
やっぱり腕力に差があり過ぎるのか。
僕はちょっぴりがっかりした。
55
お気に入りに追加
1,597
あなたにおすすめの小説
ハッピーエンドのために妹に代わって惚れ薬を飲んだ悪役兄の101回目
カギカッコ「」
BL
ヤられて不幸になる妹のハッピーエンドのため、リバース転生し続けている兄は我が身を犠牲にする。妹が飲むはずだった惚れ薬を代わりに飲んで。
悪役令息の死ぬ前に
ゆるり
BL
「あんたら全員最高の馬鹿だ」
ある日、高貴な血筋に生まれた公爵令息であるラインハルト・ニーチェ・デ・サヴォイアが突如として婚約者によって破棄されるという衝撃的な出来事が起こった。
彼が愛し、心から信じていた相手の裏切りに、しかもその新たな相手が自分の義弟だということに彼の心は深く傷ついた。
さらに冤罪をかけられたラインハルトは公爵家の自室に幽閉され、数日後、シーツで作った縄で首を吊っているのを発見された。
青年たちは、ラインハルトの遺体を抱きしめる男からその話を聞いた。その青年たちこそ、マークの元婚約者と義弟とその友人である。
「真実も分からないクセに分かった風になっているガキがいたからラインは死んだんだ」
男によって過去に戻された青年たちは「真実」を見つけられるのか。
俺は北国の王子の失脚を狙う悪の側近に転生したらしいが、寒いのは苦手なのでトンズラします
椿谷あずる
BL
ここはとある北の国。綺麗な金髪碧眼のイケメン王子様の側近に転生した俺は、どうやら彼を失脚させようと陰謀を張り巡らせていたらしい……。いやいや一切興味がないし!寒いところ嫌いだし!よし、やめよう!
こうして俺は逃亡することに決めた。
魔王討伐後に勇者の子を身篭ったので、逃げたけど結局勇者に捕まった。
柴傘
BL
勇者パーティーに属していた魔術師が勇者との子を身篭ったので逃走を図り失敗に終わるお話。
頭よわよわハッピーエンド、執着溺愛勇者×気弱臆病魔術師。
誰もが妊娠できる世界、勇者パーティーは皆仲良し。
さくっと読める短編です。
手切れ金
のらねことすていぬ
BL
貧乏貴族の息子、ジゼルはある日恋人であるアルバートに振られてしまう。手切れ金を渡されて完全に捨てられたと思っていたが、なぜかアルバートは彼のもとを再び訪れてきて……。
貴族×貧乏貴族
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる