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第4章
149話 壮大な実験
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「……ヴァルトシュタイン侯爵、貴方も…この世界の繰り返しに気付いておられたなんて。……まさか、貴方がこの繰り返しを引き起こされたりとかは……していないのですか?」
雷の様な魔術を使ったり、幻影を創ったり。
巧みに色んな事が出来る侯爵なら、あるいは。
念の為、尋ねてみたが。
恐る恐る聞く僕に、侯爵はギロリと睨み付けてきて。
「魔術で貴方にとどめも刺せない私に、そんな芸当が出来るとでも?繰り返しを感知は出来ても、それを行使する事は出来ません。出来れば、そもそもこんな苦労はしない。」
「じゃあ、どうしてなんだろう?一体誰が?……まさか、神様…とか?」
「ハッ…まぁ、当たらずとも遠からず…と言った所ですかね。……救世の巫子がいるでしょう?あの存在を異世界から呼び寄せた人物ですよ。私達等より遥か高次元の魔術が使える大魔術師。その神の如く大魔術師サマの、壮大な実験の一部でしかないのですよ、これは。」
「………はぁ?大魔術師の実験?」
ヒブリス・ヴァルトシュタイン侯爵。
魔術を巧みに扱える彼は。
その魔術の扱いだけでなく、魔術師の事にも詳しい様だ。
呆気にとられる僕を睨み見て、侯爵は苦々しい顔をした。
「私達は所詮、ゼルヴィルツの手のひらで転がされている駒の一部にしかすぎません。奴からすればただ永い生の中での、ほんの暇つぶしにしか過ぎない。それに抗うほどの力は私には無い。だから、奴の気の向くまま、好きにすればいいだろう。私は、私の為すべき事を為すまでだ。」
圧倒的強者の手のひらで転がされるだけの存在でしかなくとも。
自分は自分のすべき事をやり遂げてみせる。
侯爵はそう決意を強く宿した瞳で、僕を見つめて来る。
「……それが、僕を殺す事ですか。」
「…あぁ。」
「そうですか。」
「………」
強い憎しみすら篭った目で睨み付けられて。
きっと、以前の僕ならそれだけで怯んだだろうけど。
生憎、色んな事が有り過ぎて、そのくらいではどうにも怖気づかなくなってしまった。
侯爵の答えに淡々と反応する僕に、彼は僕をはかりかねている様だった。
「ヒブリス・ヴァルトシュタイン侯爵。貴方は僕より多くの事を知っている。ただこの運命に翻弄され続けていた、僕などとは違って。お願いします、侯爵……教えて下さい。貴方のご存知の事を全て。僕は逃げませんから。……もう、逃げる事はしませんから。だから、教えて欲しい。何があって、どうして僕の命が欲しいのか。何も知らないまま死ぬのはもう嫌なんだ!」
知りたいんだ、何故、この様な事になったのか。
2度の死に戻りで、色々知れたと思っていた。
でも、違った。
この3度目の今世でも、知らなかった事が沢山あった。
ヴァルトシュタイン侯爵、貴方の存在も、その1つだ。
僕は、侯爵のその淡く美しい瞳を見つめた。
決して逸らすつもりは無い。
僕は逃げないと誓ったんだ。
貴方だって、逃がすつもりはない。
じっと見つめ続けると、侯爵は根負けしたのか、ようやく口を開いた。
「…………分かった。お話ししましょう。」
「…あ、待って。」
「……何です?」
やっと折れた侯爵に対し、僕は気付いて待ったをかけた。
侯爵は急に出ばなをくじかれて、嫌な顔をして見せたが。
「絶対、お話長くなりますよね?だったら、椅子に座って話しましょう。お茶も必要ですね。あるでしょう?」
僕はニッコリ笑ってそう言うと、床に蹲ったままの侯爵に手を伸ばし、立つ様に促した。
侯爵は益々変な顔をしたが、呆れて、それでも僕の手を取ってくれて。
僕はグイッと引っ張って、侯爵を立たせた。
でも、それよりも侯爵が自分の力で立ち上がったと言うべきか。
……カイトの様に上手く引っ張れない。
やっぱり腕力に差があり過ぎるのか。
僕はちょっぴりがっかりした。
雷の様な魔術を使ったり、幻影を創ったり。
巧みに色んな事が出来る侯爵なら、あるいは。
念の為、尋ねてみたが。
恐る恐る聞く僕に、侯爵はギロリと睨み付けてきて。
「魔術で貴方にとどめも刺せない私に、そんな芸当が出来るとでも?繰り返しを感知は出来ても、それを行使する事は出来ません。出来れば、そもそもこんな苦労はしない。」
「じゃあ、どうしてなんだろう?一体誰が?……まさか、神様…とか?」
「ハッ…まぁ、当たらずとも遠からず…と言った所ですかね。……救世の巫子がいるでしょう?あの存在を異世界から呼び寄せた人物ですよ。私達等より遥か高次元の魔術が使える大魔術師。その神の如く大魔術師サマの、壮大な実験の一部でしかないのですよ、これは。」
「………はぁ?大魔術師の実験?」
ヒブリス・ヴァルトシュタイン侯爵。
魔術を巧みに扱える彼は。
その魔術の扱いだけでなく、魔術師の事にも詳しい様だ。
呆気にとられる僕を睨み見て、侯爵は苦々しい顔をした。
「私達は所詮、ゼルヴィルツの手のひらで転がされている駒の一部にしかすぎません。奴からすればただ永い生の中での、ほんの暇つぶしにしか過ぎない。それに抗うほどの力は私には無い。だから、奴の気の向くまま、好きにすればいいだろう。私は、私の為すべき事を為すまでだ。」
圧倒的強者の手のひらで転がされるだけの存在でしかなくとも。
自分は自分のすべき事をやり遂げてみせる。
侯爵はそう決意を強く宿した瞳で、僕を見つめて来る。
「……それが、僕を殺す事ですか。」
「…あぁ。」
「そうですか。」
「………」
強い憎しみすら篭った目で睨み付けられて。
きっと、以前の僕ならそれだけで怯んだだろうけど。
生憎、色んな事が有り過ぎて、そのくらいではどうにも怖気づかなくなってしまった。
侯爵の答えに淡々と反応する僕に、彼は僕をはかりかねている様だった。
「ヒブリス・ヴァルトシュタイン侯爵。貴方は僕より多くの事を知っている。ただこの運命に翻弄され続けていた、僕などとは違って。お願いします、侯爵……教えて下さい。貴方のご存知の事を全て。僕は逃げませんから。……もう、逃げる事はしませんから。だから、教えて欲しい。何があって、どうして僕の命が欲しいのか。何も知らないまま死ぬのはもう嫌なんだ!」
知りたいんだ、何故、この様な事になったのか。
2度の死に戻りで、色々知れたと思っていた。
でも、違った。
この3度目の今世でも、知らなかった事が沢山あった。
ヴァルトシュタイン侯爵、貴方の存在も、その1つだ。
僕は、侯爵のその淡く美しい瞳を見つめた。
決して逸らすつもりは無い。
僕は逃げないと誓ったんだ。
貴方だって、逃がすつもりはない。
じっと見つめ続けると、侯爵は根負けしたのか、ようやく口を開いた。
「…………分かった。お話ししましょう。」
「…あ、待って。」
「……何です?」
やっと折れた侯爵に対し、僕は気付いて待ったをかけた。
侯爵は急に出ばなをくじかれて、嫌な顔をして見せたが。
「絶対、お話長くなりますよね?だったら、椅子に座って話しましょう。お茶も必要ですね。あるでしょう?」
僕はニッコリ笑ってそう言うと、床に蹲ったままの侯爵に手を伸ばし、立つ様に促した。
侯爵は益々変な顔をしたが、呆れて、それでも僕の手を取ってくれて。
僕はグイッと引っ張って、侯爵を立たせた。
でも、それよりも侯爵が自分の力で立ち上がったと言うべきか。
……カイトの様に上手く引っ張れない。
やっぱり腕力に差があり過ぎるのか。
僕はちょっぴりがっかりした。
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