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第4章
148話 一思いに
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「やめて下さい、侯爵!」
痛みの中で必死に叫んでも、僕なんかの声は届いてすらいないのか。
侯爵はただ僕に稲光を向け続ける。
どうして、こんな事をするのだろう?
魔術を使い続けるのだって、決して楽では無い筈だ。
現に、見ると侯爵の額にはうっすらと汗が滲み出ている。
そうまでして、僕の事。
「————殺したいなら殺せばいいだろう!でも、こんな手間のかかる方法じゃなく、もっと色々あるだろうが?!こんな中途半端な力で嬲り殺しになんかせずに、どうせなら、もっと一思いにやってくれ!!」
本当に、中途半端な攻撃だったから。
でも、このまま浴び続けたら、本当に死にかねないな、とも思う。
こんな身体的苦痛をじわじわと感じながら弱るのは嫌だ。
もう本当に、やるなら一思いに終わらせて欲しくて。
若干、腹立ちまぎれに吐き捨てる様に叫ぶと。
やっと痺れが弱くなった。
ハッとなって侯爵の方を見やると。
手から放たれていた稲光がどんどん細くなり、やがてパリッと小さな音を立てると、出て来なくなった。
魔力の放出を止めた侯爵は、やがてずるずると壁に背を預けて座り込んだ。
凄く走りすぎた後みたいに、肩で呼吸をしながら、額からは汗がダラダラと流れ落ちている。
魔術での攻撃をやめたんじゃない。
魔力が切れて、動けなくなったんだ。
侯爵が蹲るすぐ横には、狭いこの部屋から室外へと通じる扉がある。
彼の動きが鈍っている今なら。
全力で走ってあの扉の外へ出れば、逃げられるかもしれない。
そのくらい、目の前の侯爵は弱っている様に見えた。
けれど。
「……大丈夫ですか、侯爵。」
散々彼と隣の扉を見比べて迷った後、僕は動かず。
壁に凭れて蹲ったままの侯爵に声を掛けた。
「……何故、逃げない?」
僕の声掛けに答える代わりに、侯爵は僕に問うて来て。
僕は、グッと言葉に詰まったが、それでも恐る恐る口を開いた。
「………この部屋を出られた所で、あんまり意味はないかなって思って。どの程度で貴方の魔力が戻るのかも分かりませんし。それに何より……僕を拘束していないでしょう?だからやっぱり危険だと思ったのです。普通は逃げられない様にする為、拘束する筈ですからね。その拘束がされていないという事は、この場を逃れられても、直ぐに捕まえられる算段があるのかと。」
下手な抵抗は逆に危険だと感じた。
散々迷いはしたけれど。
「……フッ。此処で仕留めるつもりだったので、外に出られれば逃げられますよ。……ただし、森の中なので、上手く人里までお一人で逃れられるかは分かりませんが。」
……やっぱり!
そんなの無理に決まっている。
僕は、今まで殆どエウリルスの王都の公爵邸でしか暮らした事のない人間だ。
移動だって基本、馬車。
森の中なんて、今まで徒歩で入った事もなければ、どんな野生生物に注意しなければならないのかとか、そういった知識もまるで無い。
やっぱり無茶せず正解だった。
僕が蒼くなった顔をしていると、侯爵は鼻で嗤った。
「一思いに殺せ、なんて威勢の良い事を言う割に、随分と臆病なんだな。」
「当たり前だ!僕は自分の能力の低さには、自分自身でよくよく理解してるんだ。」
「……繰り返し死を経験したから、今更死は怖くないという事か。」
冷めた目で見て来る侯爵に、僕は目を見開いた。
「………え?!何故、それを…」
「知っているさ。何度も死に戻っているだろう?……力に目覚めて直ぐで、まだ実感は無いかもしれないが、お前には強い魔力が宿っている。私にも、それなりに。そこそこ強い魔力の持ち主には分かるのさ、繰り返されている世界だってな。」
「僕に……そんな、強い魔力が?」
「そうだ。さっきの攻撃は、普通の人間が喰らえば直ぐに意識を飛ばせるほどの強力なものだ。それをお前は中途半端な力と言っただろう。それが……魔力が強く、耐性が高い証拠だ。」
かなり渾身の力だったのに。
そう、拗ねる様に言われて。
えー、でもだって、本当に、なんかじりじりと嫌な感じではあったけど、決定打の無い…攻撃だったから……。
いや、それよりも。
痛みの中で必死に叫んでも、僕なんかの声は届いてすらいないのか。
侯爵はただ僕に稲光を向け続ける。
どうして、こんな事をするのだろう?
魔術を使い続けるのだって、決して楽では無い筈だ。
現に、見ると侯爵の額にはうっすらと汗が滲み出ている。
そうまでして、僕の事。
「————殺したいなら殺せばいいだろう!でも、こんな手間のかかる方法じゃなく、もっと色々あるだろうが?!こんな中途半端な力で嬲り殺しになんかせずに、どうせなら、もっと一思いにやってくれ!!」
本当に、中途半端な攻撃だったから。
でも、このまま浴び続けたら、本当に死にかねないな、とも思う。
こんな身体的苦痛をじわじわと感じながら弱るのは嫌だ。
もう本当に、やるなら一思いに終わらせて欲しくて。
若干、腹立ちまぎれに吐き捨てる様に叫ぶと。
やっと痺れが弱くなった。
ハッとなって侯爵の方を見やると。
手から放たれていた稲光がどんどん細くなり、やがてパリッと小さな音を立てると、出て来なくなった。
魔力の放出を止めた侯爵は、やがてずるずると壁に背を預けて座り込んだ。
凄く走りすぎた後みたいに、肩で呼吸をしながら、額からは汗がダラダラと流れ落ちている。
魔術での攻撃をやめたんじゃない。
魔力が切れて、動けなくなったんだ。
侯爵が蹲るすぐ横には、狭いこの部屋から室外へと通じる扉がある。
彼の動きが鈍っている今なら。
全力で走ってあの扉の外へ出れば、逃げられるかもしれない。
そのくらい、目の前の侯爵は弱っている様に見えた。
けれど。
「……大丈夫ですか、侯爵。」
散々彼と隣の扉を見比べて迷った後、僕は動かず。
壁に凭れて蹲ったままの侯爵に声を掛けた。
「……何故、逃げない?」
僕の声掛けに答える代わりに、侯爵は僕に問うて来て。
僕は、グッと言葉に詰まったが、それでも恐る恐る口を開いた。
「………この部屋を出られた所で、あんまり意味はないかなって思って。どの程度で貴方の魔力が戻るのかも分かりませんし。それに何より……僕を拘束していないでしょう?だからやっぱり危険だと思ったのです。普通は逃げられない様にする為、拘束する筈ですからね。その拘束がされていないという事は、この場を逃れられても、直ぐに捕まえられる算段があるのかと。」
下手な抵抗は逆に危険だと感じた。
散々迷いはしたけれど。
「……フッ。此処で仕留めるつもりだったので、外に出られれば逃げられますよ。……ただし、森の中なので、上手く人里までお一人で逃れられるかは分かりませんが。」
……やっぱり!
そんなの無理に決まっている。
僕は、今まで殆どエウリルスの王都の公爵邸でしか暮らした事のない人間だ。
移動だって基本、馬車。
森の中なんて、今まで徒歩で入った事もなければ、どんな野生生物に注意しなければならないのかとか、そういった知識もまるで無い。
やっぱり無茶せず正解だった。
僕が蒼くなった顔をしていると、侯爵は鼻で嗤った。
「一思いに殺せ、なんて威勢の良い事を言う割に、随分と臆病なんだな。」
「当たり前だ!僕は自分の能力の低さには、自分自身でよくよく理解してるんだ。」
「……繰り返し死を経験したから、今更死は怖くないという事か。」
冷めた目で見て来る侯爵に、僕は目を見開いた。
「………え?!何故、それを…」
「知っているさ。何度も死に戻っているだろう?……力に目覚めて直ぐで、まだ実感は無いかもしれないが、お前には強い魔力が宿っている。私にも、それなりに。そこそこ強い魔力の持ち主には分かるのさ、繰り返されている世界だってな。」
「僕に……そんな、強い魔力が?」
「そうだ。さっきの攻撃は、普通の人間が喰らえば直ぐに意識を飛ばせるほどの強力なものだ。それをお前は中途半端な力と言っただろう。それが……魔力が強く、耐性が高い証拠だ。」
かなり渾身の力だったのに。
そう、拗ねる様に言われて。
えー、でもだって、本当に、なんかじりじりと嫌な感じではあったけど、決定打の無い…攻撃だったから……。
いや、それよりも。
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