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第3章
145話 偽りのない本心を
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「でも、分かりません。シリル様は……確かに魔術がお使いになれます。ですが、小さい氷を作るだけで精一杯だと苦笑しておられました。そのシリル様に…あんな…膨大な魔力があったなんて…」
俺が、事情に明るそうなロレンツォ殿下に、シリル様の魔術の事を明かしてみるが。
「すまない。俺も魔術そのものにはそんなに詳しくない。俺は使えないし。だから、これは単なる憶測でしかないが……何かをきっかけにして……クレイン卿の中に眠っていた魔力が覚醒したんじゃないか?……俺達がアイツを追いかけている間、何があった。」
尋ねて来る殿下に、口を開きかけた俺を遮る様に立ち上がり、話し始めたのはアルベリーニ卿だった。
「……あの後、気を失っておられたシリル様に声を掛けて、ようやく気が付かれたあの方に私が安堵した後……思い出しました。救世の巫子様方が仰っていた、前世の記憶を。前世で私達がシリル様に犯してしまった過ちも、その全てを!……あまりに酷いものでした。とても、許されるものでは……ありません。貴方や巫子様方があんなに怒っておられた意味も、やっと理解出来ました。」
「思い…出されたんですか。」
「はい…。」
卿の瞳からは光が失われ、力なく揺らいでいた。
その卿の様子を見るに、淡々と話していたシリル様の話以上に、随分酷いものだったのだろう。
その事に、自らの行いに卿自身が打ちのめされている。
「信じ…られません。あ、あんな……残酷な事をしてしまったのに。私を……恨んで下さいと、言ったくらいだったのに。それなのに何で、シリル様はあんな…優しい笑顔を向けて下さるんです……?とても、そんな資格…私には、無いのに。……だから、シリル様を拒絶しました。関わるべきではなかったのにっ」
頭を抱えて泣き崩れる卿に、茫然と聞いていた俺ではなく、殿下が卿の胸倉を乱暴に掴んで、引っ張り起こした。
「なるほどな。今ので大体予想は付いた。お前のその反応、どうせそう仕向けたのは俺だろうな。俺だったら、事と次第に依っちゃあ…有り得るな。……クッソ!全ての責任はこの俺だ!そうだろうが!それをお前は、やり直そうと手を差し出してくれたクレイン卿を拒絶しちまって…。この大馬鹿野郎が!前世を思い出したんなら、分かんないのか?!それでもクレイン卿がお前に笑いかけてくれた理由が!」
「……」
「これ以上は言わねぇ!自分の頭で考えろ!んで、何より自分の気持ちにもっと向き合え!あんなに言ってやってんのに!」
全く、手のかかる!
そう言って、殿下は卿から手を離した。
ゆっくりと膝を付く卿の姿を、殿下とのやり取りを、俺はただ茫然と眺めていた。
「資格が無いとか、自分は駄目だからとか……今は余計な事考えんな。そういうの全部取っ払って、お前はどうしたい?」
さっきより些か穏やかな声音で、殿下は項垂れる卿に問いかける。
しばらくの沈黙ののち、卿はぼそりと呟いた。
「……シリル様を取り戻したいです。何としても。」
「よし、決まりだ!そうとなったら、どうすればいいか考えよう。」
な?と殿下は俺にも顔を向けた。
その顔は、アデリートで母君と一緒に頭を下げていた時の様に、ちょっぴりしょげた表情をしていたが。
それでも、前向きに対策を考えようと言って下さる殿下が、今は誰よりも頼もしかった。
俺が、事情に明るそうなロレンツォ殿下に、シリル様の魔術の事を明かしてみるが。
「すまない。俺も魔術そのものにはそんなに詳しくない。俺は使えないし。だから、これは単なる憶測でしかないが……何かをきっかけにして……クレイン卿の中に眠っていた魔力が覚醒したんじゃないか?……俺達がアイツを追いかけている間、何があった。」
尋ねて来る殿下に、口を開きかけた俺を遮る様に立ち上がり、話し始めたのはアルベリーニ卿だった。
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その事に、自らの行いに卿自身が打ちのめされている。
「信じ…られません。あ、あんな……残酷な事をしてしまったのに。私を……恨んで下さいと、言ったくらいだったのに。それなのに何で、シリル様はあんな…優しい笑顔を向けて下さるんです……?とても、そんな資格…私には、無いのに。……だから、シリル様を拒絶しました。関わるべきではなかったのにっ」
頭を抱えて泣き崩れる卿に、茫然と聞いていた俺ではなく、殿下が卿の胸倉を乱暴に掴んで、引っ張り起こした。
「なるほどな。今ので大体予想は付いた。お前のその反応、どうせそう仕向けたのは俺だろうな。俺だったら、事と次第に依っちゃあ…有り得るな。……クッソ!全ての責任はこの俺だ!そうだろうが!それをお前は、やり直そうと手を差し出してくれたクレイン卿を拒絶しちまって…。この大馬鹿野郎が!前世を思い出したんなら、分かんないのか?!それでもクレイン卿がお前に笑いかけてくれた理由が!」
「……」
「これ以上は言わねぇ!自分の頭で考えろ!んで、何より自分の気持ちにもっと向き合え!あんなに言ってやってんのに!」
全く、手のかかる!
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ゆっくりと膝を付く卿の姿を、殿下とのやり取りを、俺はただ茫然と眺めていた。
「資格が無いとか、自分は駄目だからとか……今は余計な事考えんな。そういうの全部取っ払って、お前はどうしたい?」
さっきより些か穏やかな声音で、殿下は項垂れる卿に問いかける。
しばらくの沈黙ののち、卿はぼそりと呟いた。
「……シリル様を取り戻したいです。何としても。」
「よし、決まりだ!そうとなったら、どうすればいいか考えよう。」
な?と殿下は俺にも顔を向けた。
その顔は、アデリートで母君と一緒に頭を下げていた時の様に、ちょっぴりしょげた表情をしていたが。
それでも、前向きに対策を考えようと言って下さる殿下が、今は誰よりも頼もしかった。
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