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第3章
144話 誘拐
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逃げられた!連れ去られてしまった!シリル様が……。
「アイツっ!!」
背後から息を切らして戻って来ていたのは、ロレンツォ殿下と護衛のジーノで。
二人も、彼がシリル様を連れ去ったところを目にしたのだろう。
肩で息をしながら、とても険しい顔をしている。
「外からでも凄い光が見えましたが、あれはなんだったんです?!」
殿下の後ろから、ジーノが吠える様に尋ねて来る。
「シリル様の……力の様、でした。正気には見えなかった。あれが…魔術?魔力の…暴走が起きていた様な…」
未だに目の前で起きた事が信じられなかったが。
俺は自分自身を落ち着かせる為にも、出来るだけ頑張って答えた。
まだ、心臓がバクバクと激しく音を立てている。
「けど、また急に姿を現したフードのあの人が、シリル様に軽く触れただけで簡単に力を止めて……消えてしまってっ」
「テオドール、アイツの事…知っているのか?さっき名前を呼んでいたな?」
ロレンツォ殿下に厳しい表情ながらも冷静に問われ、俺はコクリと頷いた。
「はい。さっき、殿下達が彼を追いかけて行かれる前、俺があのフードを裂いた時、見えました。銀色の髪と淡い紫色の瞳の…あの顔には見覚えがあります。この夏、アデリート王国訪問の次に出向いたフローレンシア王国の、ベルナルト王太子の側近の一人、ヒブリス・ヴァルトシュタイン侯爵で間違いありません!」
彼の風貌は、あのフローレンシア王国の人間の中でも、一際目を引いた。
お目にかかったのは一度きりだが、あの特徴的な髪と瞳、まず間違いない。
「シリル様が……」
俺達が必死に冷静になって話し合っている横で、アルベリーニ卿が虚ろな瞳で呟いていた。
そして、のっそりと立ち上がると、急に走りだそうとして。
それに気付いた殿下に、足先を払われて盛大に躓かされる。
「殿下!何をっ」
「それはこっちの台詞だ、この馬鹿が。相手はあの強大な光を発していたクレイン卿に軽く触れただけで、その力を抑えられるくらい強力で、様々な種類の術も駆使できる術者だろう?そんな魔術の使い手相手に、何の役にも立たなかったお前一人で飛び込んで行って、一体何が出来ると思っている?」
「…っ!」
冷たい声で諫められて、アルベリーニ卿は何の反論も出来ずに俯いた。
すると、殿下は卿の周囲に散らばっている、あの石の破片を見て、鼻で嗤った。
「……ふん。先々代の子爵夫人から頂いた護り石も砕けてしまったか。お前の少ない魔術をもってしても、対抗できなかったって事だな。」
「?!」
「……え?魔術?……私にはそんなものは…」
殿下の言葉に驚く卿と俺には目もくれず。
殿下は膝を折ると、散らばっている石の欠片を1つ掴み、つまらなそうな顔で眺めていた。
「……コレは本当の魔石の贋作(レプリカ)なんだよ。お前のお婆様の一族が代々受け継いできていたものだと、当時まだ宮女だった母上にこっそり教えて下さったそうだ。レプリカでも、長い年月をかけ、本物の魔石の様に伝えて来た者達の魔力を纏って強力な魔石の様な力を持ち、持ち主の魔力を吸い取る代わりに、その者の身に重大な危険が迫ると、石が発動して持ち主を護ってくれるのだ、と。」
「聞いた事ありません、そんな話……」
「だろうな。あの方も、受け継がせる子に話す気はない、と母上に言っておられたから。言えば、自身の魔力に気付いてしまうし、そうしたら、きっとその魔力を欲する者に狙われてしまうからって。」
アルベリーニ卿のお婆様自身か、その先祖かは分からないが、魔力を持っている為に……狙われた事があるのか。
「……だったら、シリル様が侯爵に攫われたのも……」
「あんな膨大な魔力を発生させていたのを目の当たりにしたんだ。そう、なんだろうな。」
「そんな……」
唯一対抗できたかもしれないのが、祖母からもらったあの護り石と自身のあったとされる魔術だったなんて……と。
アルベリーニ卿は、愕然とした顔で膝から崩れ落ちた。
「アイツっ!!」
背後から息を切らして戻って来ていたのは、ロレンツォ殿下と護衛のジーノで。
二人も、彼がシリル様を連れ去ったところを目にしたのだろう。
肩で息をしながら、とても険しい顔をしている。
「外からでも凄い光が見えましたが、あれはなんだったんです?!」
殿下の後ろから、ジーノが吠える様に尋ねて来る。
「シリル様の……力の様、でした。正気には見えなかった。あれが…魔術?魔力の…暴走が起きていた様な…」
未だに目の前で起きた事が信じられなかったが。
俺は自分自身を落ち着かせる為にも、出来るだけ頑張って答えた。
まだ、心臓がバクバクと激しく音を立てている。
「けど、また急に姿を現したフードのあの人が、シリル様に軽く触れただけで簡単に力を止めて……消えてしまってっ」
「テオドール、アイツの事…知っているのか?さっき名前を呼んでいたな?」
ロレンツォ殿下に厳しい表情ながらも冷静に問われ、俺はコクリと頷いた。
「はい。さっき、殿下達が彼を追いかけて行かれる前、俺があのフードを裂いた時、見えました。銀色の髪と淡い紫色の瞳の…あの顔には見覚えがあります。この夏、アデリート王国訪問の次に出向いたフローレンシア王国の、ベルナルト王太子の側近の一人、ヒブリス・ヴァルトシュタイン侯爵で間違いありません!」
彼の風貌は、あのフローレンシア王国の人間の中でも、一際目を引いた。
お目にかかったのは一度きりだが、あの特徴的な髪と瞳、まず間違いない。
「シリル様が……」
俺達が必死に冷静になって話し合っている横で、アルベリーニ卿が虚ろな瞳で呟いていた。
そして、のっそりと立ち上がると、急に走りだそうとして。
それに気付いた殿下に、足先を払われて盛大に躓かされる。
「殿下!何をっ」
「それはこっちの台詞だ、この馬鹿が。相手はあの強大な光を発していたクレイン卿に軽く触れただけで、その力を抑えられるくらい強力で、様々な種類の術も駆使できる術者だろう?そんな魔術の使い手相手に、何の役にも立たなかったお前一人で飛び込んで行って、一体何が出来ると思っている?」
「…っ!」
冷たい声で諫められて、アルベリーニ卿は何の反論も出来ずに俯いた。
すると、殿下は卿の周囲に散らばっている、あの石の破片を見て、鼻で嗤った。
「……ふん。先々代の子爵夫人から頂いた護り石も砕けてしまったか。お前の少ない魔術をもってしても、対抗できなかったって事だな。」
「?!」
「……え?魔術?……私にはそんなものは…」
殿下の言葉に驚く卿と俺には目もくれず。
殿下は膝を折ると、散らばっている石の欠片を1つ掴み、つまらなそうな顔で眺めていた。
「……コレは本当の魔石の贋作(レプリカ)なんだよ。お前のお婆様の一族が代々受け継いできていたものだと、当時まだ宮女だった母上にこっそり教えて下さったそうだ。レプリカでも、長い年月をかけ、本物の魔石の様に伝えて来た者達の魔力を纏って強力な魔石の様な力を持ち、持ち主の魔力を吸い取る代わりに、その者の身に重大な危険が迫ると、石が発動して持ち主を護ってくれるのだ、と。」
「聞いた事ありません、そんな話……」
「だろうな。あの方も、受け継がせる子に話す気はない、と母上に言っておられたから。言えば、自身の魔力に気付いてしまうし、そうしたら、きっとその魔力を欲する者に狙われてしまうからって。」
アルベリーニ卿のお婆様自身か、その先祖かは分からないが、魔力を持っている為に……狙われた事があるのか。
「……だったら、シリル様が侯爵に攫われたのも……」
「あんな膨大な魔力を発生させていたのを目の当たりにしたんだ。そう、なんだろうな。」
「そんな……」
唯一対抗できたかもしれないのが、祖母からもらったあの護り石と自身のあったとされる魔術だったなんて……と。
アルベリーニ卿は、愕然とした顔で膝から崩れ落ちた。
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