全てを諦めた公爵令息の開き直り

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第3章

143話 暴走

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「もう、終わりにしましょう…」

おもむろに口を開かれたシリル様に、何の話かと顔を覗き見て、またギョッとなってしまった。
シリル様の目は大きく見開かれ、その瞳は焦点が合わず……蒼く光を放っている。
何だ?何が起こっている?

俺が思わず固唾を飲むと、正気とは思えない目の前の主人の体がフワリと宙に浮いた。
その光景に、信じられない思いで目を見張ると。
急に、その身は光で包まれ、いきなり強い力で弾かれた。

「うあっ」
「ぐっ!」

俺と卿は部屋の壁に強かに背中を打ち付けたが、シリル様は気付いていない。
相変わらず焦点の定まらない瞳を光らせたまま、ぼんやりと宙を見ていた。

凄い圧に押され、身動きがままならないが、それでもなんとか身を起こし、俺と卿は立ち上がって、シリル様に呼び掛けた。

「シリル様!!どうされたのですか!お気を確かにっ!!」

呼び掛けてみるも反応が無い。
暴風の様な強い圧力を受けながらも、卿は必死にシリル様に手を伸ばしていた。
そして。

「シリル様っ」

手を伸ばす卿の身の内から、ブワッと風の様なモノが揺らいで、卿の懐から何か出て来た。
それは、八面体をした黒い石で。
その石が宙にフワリと浮いたかと思うと、先程の様に、またあの紫色の光を強く放った。
その石が発する力が、シリル様の圧倒的な力に対抗しているのか、シリル様から発せられる力の圧を受けずに身動きが出来る。

でも、シリル様の圧と光の強さに押し負けて……途端に大きく破裂したのだった。

「あっ」

砕け散る石の欠片と共に、俺達を守ってくれた力の防御も無くなり、また、シリル様から離される。
これでは、近付けない。
正気でないシリル様をこのままにしておいて、絶対にいい筈が無いのに。
どうすれば。

そんな事を迷う隙も無く。
石の力が無くなっても、身一つで再び手を伸ばす卿の目の前に。
先程のフードの人物が急に姿を現した。

「っ」

シリル様の力をもろともせず、フードの人物はその右手をシリル様の額に伸ばし。
その手が触れた瞬間、シリル様の虚ろだった目が大きく見開かれて、一際強い光を放つと。
見る見るうちに瞳の光は失われ、瞼を閉じられ気を失われた。

「シリル様っ」

ガクリと宙から落ちかけたその身を、フードの人物は軽々と抱える。
シリル様はと言えば、その者の腕に抱かれて、意識の無いまま瞳を閉じて顔を埋めてしまわれている。

「シリル様を返して下さい!ヴァルトシュタイン侯爵っ!!」

戸惑うアルベリーニ卿の隣から身を乗り出した俺は、シリル様の力の暴走を止めて抱えているフードの人物、ヒブリス・ヴァルトシュタイン侯爵の名を叫んだ。
名を呼ばれた侯爵は、俺の方をその淡い紫色の瞳で鋭く睨むと、シリル様を抱えたままローブを翻した。

「待っ」

待て!!
そう、叫んで手を伸ばしたが、その手がローブに届くよりも前に。
シュンと眼前から姿を消してしまった。
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