140 / 365
第3章
140話 対峙
しおりを挟む
「シリル様っ!!」
1階の部屋を改めるまでもなく。
火の無い暖炉の側で、横たわっていたシリル様が目に飛び込んで来た。
卿と共に、すぐにでも駆け寄ろうとして。
扉の時の様に弾かれた。
まるで、シリル様の側に、見えない壁でもあるみたいに。
「うぐっ」
「っ」
「おい、大丈夫か?!……そこのお前、一体何をした?!」
床に叩きつける様に弾かれて、俺と卿が軽く呻くと、殿下が俺達から別の方へ視線を向けた。
その先へすぐさま目をやると、そこには目深に黒いフードを被った、如何にも怪しい奴が立っていた。
その側には、同じフードを被った者が剣を握り、前に出て来て。
「この者に一体何をした?!お前達だろう?攫ったのはっ」
殿下の怒声に、フードの二人は何も口を開かず。
剣を握った者は、口元をニッと歪めると、殿下に切りかかって来たのだった。
「ジーノ!」
「ここは俺が。殿下はクレイン卿をっ」
護衛騎士ジーノが殿下を庇う様に前へ踏み出し、同じく剣でフードの者に対峙した。
何度か組み合っているが、ジーノは決して押し負けてはいない。
俺はジーノに加勢すべきか、まずはシリル様の御身を守るべきか一瞬迷ったが。
シリル様は殿下と卿が何とかしようとして下さっているので、俺はもう一人のフードを被っている者の方へ斬りかかった。
しかし、奴を捉えたと思い、剣を振り下ろすと、またもや弾かれて吹っ飛ばされる。
何だ、この力は。
まさか……魔術?
そう考えついた途端、先程の扉やシリル様の前の見えない壁のカラクリにも納得がいった。
そうか、奴の仕業か。
なら、術師を叩けば魔術は消える筈。
俺は再び奴に斬りかかった。
今度はもう少し間合いを大きくして。
しかし、届かず剣先を弾かれる。
どうすれば。
束の間逡巡した俺だったが、その目の前を何かが通り過ぎた。
……近くにあったテーブルに備え付けられていた古びた椅子だ。
ヒュンとそれが通り過ぎると、またバチッと弾かれて床に落ちる。
だが、弾かれた椅子が床に転がるよりも早く、殿下がそのフードの者に斬りかかりに行っていた。
ソイツは椅子に気取られて反応が遅れたのか、殿下の剣を避けきれず、かっちりと身に纏っていたローブの端を軽く切り裂かれていた。
「チッ!」
術師本人には届かず、殿下は大きく舌打ちしたが、それは相手も同じだった。
ここまで追い詰められるとは思っていなかったのだろう。
ローブをギュッと握り締めて、身を固くしたのが分かった。
「シリル様っ!!」
殿下にローブを少し切り裂かれて、術の精度が下がったのか、見えない壁が取り払われ、卿がシリル様の体を抱えた。
強く呼び掛けているが返事が無い。
コートを身に着けているにも拘らず、体が冷えきってしまっておられる。
それが直接触れなくても、その血色の悪い顔色を見るに、そうだろうと思い至った。
一体、どうしてこんな真似を。
俺はカッとなってもう一度フードの術者らしき者に斬りかかる。
俺はそのフードの方を、めくり上げる様にして剣を振り上げ。
グッと力を込めた為、剣自体は届かなくとも、その剣の切っ先から生じた小さい風が更に小さい稲妻の様になって、そのフードを軽く切り裂いた。
1階の部屋を改めるまでもなく。
火の無い暖炉の側で、横たわっていたシリル様が目に飛び込んで来た。
卿と共に、すぐにでも駆け寄ろうとして。
扉の時の様に弾かれた。
まるで、シリル様の側に、見えない壁でもあるみたいに。
「うぐっ」
「っ」
「おい、大丈夫か?!……そこのお前、一体何をした?!」
床に叩きつける様に弾かれて、俺と卿が軽く呻くと、殿下が俺達から別の方へ視線を向けた。
その先へすぐさま目をやると、そこには目深に黒いフードを被った、如何にも怪しい奴が立っていた。
その側には、同じフードを被った者が剣を握り、前に出て来て。
「この者に一体何をした?!お前達だろう?攫ったのはっ」
殿下の怒声に、フードの二人は何も口を開かず。
剣を握った者は、口元をニッと歪めると、殿下に切りかかって来たのだった。
「ジーノ!」
「ここは俺が。殿下はクレイン卿をっ」
護衛騎士ジーノが殿下を庇う様に前へ踏み出し、同じく剣でフードの者に対峙した。
何度か組み合っているが、ジーノは決して押し負けてはいない。
俺はジーノに加勢すべきか、まずはシリル様の御身を守るべきか一瞬迷ったが。
シリル様は殿下と卿が何とかしようとして下さっているので、俺はもう一人のフードを被っている者の方へ斬りかかった。
しかし、奴を捉えたと思い、剣を振り下ろすと、またもや弾かれて吹っ飛ばされる。
何だ、この力は。
まさか……魔術?
そう考えついた途端、先程の扉やシリル様の前の見えない壁のカラクリにも納得がいった。
そうか、奴の仕業か。
なら、術師を叩けば魔術は消える筈。
俺は再び奴に斬りかかった。
今度はもう少し間合いを大きくして。
しかし、届かず剣先を弾かれる。
どうすれば。
束の間逡巡した俺だったが、その目の前を何かが通り過ぎた。
……近くにあったテーブルに備え付けられていた古びた椅子だ。
ヒュンとそれが通り過ぎると、またバチッと弾かれて床に落ちる。
だが、弾かれた椅子が床に転がるよりも早く、殿下がそのフードの者に斬りかかりに行っていた。
ソイツは椅子に気取られて反応が遅れたのか、殿下の剣を避けきれず、かっちりと身に纏っていたローブの端を軽く切り裂かれていた。
「チッ!」
術師本人には届かず、殿下は大きく舌打ちしたが、それは相手も同じだった。
ここまで追い詰められるとは思っていなかったのだろう。
ローブをギュッと握り締めて、身を固くしたのが分かった。
「シリル様っ!!」
殿下にローブを少し切り裂かれて、術の精度が下がったのか、見えない壁が取り払われ、卿がシリル様の体を抱えた。
強く呼び掛けているが返事が無い。
コートを身に着けているにも拘らず、体が冷えきってしまっておられる。
それが直接触れなくても、その血色の悪い顔色を見るに、そうだろうと思い至った。
一体、どうしてこんな真似を。
俺はカッとなってもう一度フードの術者らしき者に斬りかかる。
俺はそのフードの方を、めくり上げる様にして剣を振り上げ。
グッと力を込めた為、剣自体は届かなくとも、その剣の切っ先から生じた小さい風が更に小さい稲妻の様になって、そのフードを軽く切り裂いた。
85
お気に入りに追加
1,621
あなたにおすすめの小説

手切れ金
のらねことすていぬ
BL
貧乏貴族の息子、ジゼルはある日恋人であるアルバートに振られてしまう。手切れ金を渡されて完全に捨てられたと思っていたが、なぜかアルバートは彼のもとを再び訪れてきて……。
貴族×貧乏貴族
【BL】こんな恋、したくなかった
のらねことすていぬ
BL
【貴族×貴族。明るい人気者×暗め引っ込み思案。】
人付き合いの苦手なルース(受け)は、貴族学校に居た頃からずっと人気者のギルバート(攻め)に恋をしていた。だけど彼はきらきらと輝く人気者で、この恋心はそっと己の中で葬り去るつもりだった。
ある日、彼が成り上がりの令嬢に恋をしていると聞く。苦しい気持ちを抑えつつ、二人の恋を応援しようとするルースだが……。
※ご都合主義、ハッピーエンド

愛する人
斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
「ああ、もう限界だ......なんでこんなことに!!」
応接室の隙間から、頭を抱える夫、ルドルフの姿が見えた。リオンの帰りが遅いことを知っていたから気が緩み、屋敷で愚痴を溢してしまったのだろう。
三年前、ルドルフの家からの申し出により、リオンは彼と政略的な婚姻関係を結んだ。けれどルドルフには愛する男性がいたのだ。
『限界』という言葉に悩んだリオンはやがてひとつの決断をする。

【完結】可愛いあの子は番にされて、もうオレの手は届かない
天田れおぽん
BL
劣性アルファであるオズワルドは、劣性オメガの幼馴染リアンを伴侶に娶りたいと考えていた。
ある日、仕えている王太子から名前も知らないオメガのうなじを噛んだと告白される。
運命の番と王太子の言う相手が落としていったという髪飾りに、オズワルドは見覚えがあった――――
※他サイトにも掲載中
★⌒*+*⌒★ ☆宣伝☆ ★⌒*+*⌒★
「婚約破棄された不遇令嬢ですが、イケオジ辺境伯と幸せになります!」
が、レジーナブックスさまより発売中です。
どうぞよろしくお願いいたします。m(_ _)m
悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
*
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)

その捕虜は牢屋から離れたくない
さいはて旅行社
BL
敵国の牢獄看守や軍人たちが大好きなのは、鍛え上げられた筋肉だった。
というわけで、剣や体術の訓練なんか大嫌いな魔導士で細身の主人公は、同僚の脳筋騎士たちとは違い、敵国の捕虜となっても平穏無事な牢屋生活を満喫するのであった。
期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています
ぽんちゃん
BL
病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。
謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。
五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。
剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。
加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。
そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。
次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。
一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。
妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。
我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。
こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。
同性婚が当たり前の世界。
女性も登場しますが、恋愛には発展しません。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる