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第3章
135話 迷い込む
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「……え?カミル殿下??」
雑多に人が賑わう街の中を、フローレンシア王国の第2王子であるカミル殿下が。
お供も付けずに、たった一人で歩いていたからだ。
いくら殿下だって、時には街中を出歩く事もあるだろう。
しかし、供の者を一人も付けずに歩き回っているなんて、おかしい。
それに、なんだか様子が変だった。
市場で飲み食いや買い物を楽しんでいる様な雰囲気ではなく。
辺りをキョロキョロと警戒しながら、人の少ない路地裏の方へ入って行くのが見えたから。
僕はその時、考えるより先に手が動いていた。
街中を通行中だったので、ゆっくりではあったが、それでも動いている馬車の扉を急に、バン!と開いた。
何の合図も無いまま開かれた扉に、御者はそれこそびっくりして馬車を止めてくれて。
お陰で僕は難なく飛び降りる事が出来た。
驚いたのはテオも同じで。
さっきまで眠そうにウトウトとしていた主人が、急に眼を見開いて、あろう事か馬車を飛び降りたのだから。
「シリル様?!」
「カミル殿下、待って…」
直ぐにテオも馬車から飛び降りたのだろう、すぐ背中から僕の名を呼ぶ声が聞こえたが、僕はそれよりも前を行く殿下の後を追って行った。
待って。
そっちは危ない。
いくら救世の巫子達の救済を受け、怪我や病気を治してもらっても。
それで全てが良くなるなんて、世の中そんな簡単じゃないんだ。
仕事にあぶれ、上手くいかず、落ちぶれてしまう者も出てしまう。
そんな者達がたむろしている場所なんだ、そういう場所は。
そんな所に護衛も無しに踏み入ったら、どんな目に遭ってしまう事か!
僕は必死になって、仄暗い場所へ消えていく殿下の後を追って行ったのだった。
その僕の行動自体が、異常なのには気付きもせず……。
細い路地を抜け、暗い雰囲気の踊り場に出て。
そこで初めて周囲の異常な雰囲気に気付き。
僕はようやく足を止めた。
「何処だ……此処。」
思わず呟いたが、口にしてから、自分が知らない場所に迷い込んだ事に気が付いた。
元々、街へ出る事も無いから、そもそも周囲の土地勘があまり無いが、路地裏なんて危険な場所、今まで一度も足を踏み入れた事など無かったから。
訳も分からず、ただただ周囲を見回すだけしか出来なかった。
頭上にはその鈍色の空から、はらりはらりと泡雪が舞い降りて来る。
途方に暮れて空を見上げると、不意に周りの空気が変わるのを感じた。
……人の、気配がするのだ。
それも、ただの通りすがりの目付きじゃない。
獲物をねめつける様な、鋭くもねっとりと絡みつく視線が。
ゾッと寒気がして目線を空から地上に戻すと、生きた屍の様な姿をした者達が数人、こちらに寄って来るのに気付いた。
……狙われている。
そう、気付くよりも早く。
僕はにじり寄って来るみすぼらしい恰好をした一人とぱちりと目が合うと、その瞬間。
意識を失ったのだった……。
雑多に人が賑わう街の中を、フローレンシア王国の第2王子であるカミル殿下が。
お供も付けずに、たった一人で歩いていたからだ。
いくら殿下だって、時には街中を出歩く事もあるだろう。
しかし、供の者を一人も付けずに歩き回っているなんて、おかしい。
それに、なんだか様子が変だった。
市場で飲み食いや買い物を楽しんでいる様な雰囲気ではなく。
辺りをキョロキョロと警戒しながら、人の少ない路地裏の方へ入って行くのが見えたから。
僕はその時、考えるより先に手が動いていた。
街中を通行中だったので、ゆっくりではあったが、それでも動いている馬車の扉を急に、バン!と開いた。
何の合図も無いまま開かれた扉に、御者はそれこそびっくりして馬車を止めてくれて。
お陰で僕は難なく飛び降りる事が出来た。
驚いたのはテオも同じで。
さっきまで眠そうにウトウトとしていた主人が、急に眼を見開いて、あろう事か馬車を飛び降りたのだから。
「シリル様?!」
「カミル殿下、待って…」
直ぐにテオも馬車から飛び降りたのだろう、すぐ背中から僕の名を呼ぶ声が聞こえたが、僕はそれよりも前を行く殿下の後を追って行った。
待って。
そっちは危ない。
いくら救世の巫子達の救済を受け、怪我や病気を治してもらっても。
それで全てが良くなるなんて、世の中そんな簡単じゃないんだ。
仕事にあぶれ、上手くいかず、落ちぶれてしまう者も出てしまう。
そんな者達がたむろしている場所なんだ、そういう場所は。
そんな所に護衛も無しに踏み入ったら、どんな目に遭ってしまう事か!
僕は必死になって、仄暗い場所へ消えていく殿下の後を追って行ったのだった。
その僕の行動自体が、異常なのには気付きもせず……。
細い路地を抜け、暗い雰囲気の踊り場に出て。
そこで初めて周囲の異常な雰囲気に気付き。
僕はようやく足を止めた。
「何処だ……此処。」
思わず呟いたが、口にしてから、自分が知らない場所に迷い込んだ事に気が付いた。
元々、街へ出る事も無いから、そもそも周囲の土地勘があまり無いが、路地裏なんて危険な場所、今まで一度も足を踏み入れた事など無かったから。
訳も分からず、ただただ周囲を見回すだけしか出来なかった。
頭上にはその鈍色の空から、はらりはらりと泡雪が舞い降りて来る。
途方に暮れて空を見上げると、不意に周りの空気が変わるのを感じた。
……人の、気配がするのだ。
それも、ただの通りすがりの目付きじゃない。
獲物をねめつける様な、鋭くもねっとりと絡みつく視線が。
ゾッと寒気がして目線を空から地上に戻すと、生きた屍の様な姿をした者達が数人、こちらに寄って来るのに気付いた。
……狙われている。
そう、気付くよりも早く。
僕はにじり寄って来るみすぼらしい恰好をした一人とぱちりと目が合うと、その瞬間。
意識を失ったのだった……。
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