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第3章

129話 無知

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「なぁ、テオ。もう謝らなくても許してやるから。代わりに教えてくれよ、“大人の”テオドール?」

そう言って、フッと僕は笑みを浮かべた。
対するテオは、サーッと血の気が引いた顔をしている。

失礼な。
何も変な事を聞く気はない。
お前が口にした発言についてだけだ。

「興奮して……は、まぁ想像がつくんだが。抜くって何だ?」

どうせ、女性のあられもない姿の挿絵とか、嬌声とか、そういうのを本で見て読んで想像して興奮するんだろう?
でも、抜くって何なんだ?
それがよく分からなくて。
僕は尋ねてみたのだが。

聞かれたテオはと言えば。
ぴしっと固まってしまった。
その様子に、僕は目をぱちくりさせる。

だって、さっきお前が言った事じゃないか。
何で固まってるんだ。

そう文句を言おうとして。
口を開きかけると、テオは明らかに動揺した様子で、額にはダラダラと脂汗をかいていた。

「…………え。シリル様って、今までその……抜いた事ないんですか?」
「だから、何を?」
「ナニってそれはぁ……えー…どうしよ…」

テオはまた頭を抱えて、今度は小さく蹲って項垂れていた。

何かとんでもない事を聞いているのか?僕は。
でも、知らないものは知らない。
己の無知さに恥じ入るしかないが。
テオの反応が予想以上に大き過ぎて。

不安な顔になって見つめるしかない僕に、テオは右手で自身の顔を覆い、左手を突き出した。

「すみません、シリル様!お、俺には手に負えませんっ!」

無情にも突き放されて、僕はどう反応すればいいのか、分からない。
怒ればいいのか、悲しめばいいのか……。

ただ、戸惑っていると。

「あぁぁぁ…ごめんなさい、シリル様…。不安にさせるつもりじゃなかったんです……。ただ、俺の拙い語彙と説明で、ちゃんと正しく年相応にご理解頂ける解説を出来るかどうか……俺に自信が無かっただけなんです……。」
「…閨事とかに関する事?」
「んー、まぁそっち方面です。」
「そりゃそうだよな。そういう話だったんだし。……ただ、テオ…少しいいか。」

おろおろするばかりのテオに、僕がコホンと咳払いをして口にする。
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