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第3章
127話 テオの誤算
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「お帰りなさいませ、シリル様……って、え?!どうなされたのです、その顔!」
「……そんなに酷いか。」
「一体何があったんです?!」
迎えの馬車で、テオはいつもの様に迎えてくれる。
今日はカイトとカレンは救済の為に孤児院へ顔を出すと言っていたから、先に用意させていた別の馬車で既に学院を出ていた後だった為、顔を合わせずに済んで良かった。
でも、テオはそうはいかない。
「……すまない、テオドール。僕は最低な人間なんだ。こんな僕に仕えさせて、本当にすまない。」
そう言い、僕は頭を下げた。
だって、テオはいつだって僕の為にと仕えてくれているのに。
今世では、僕の死に戻りの事まで聞いてもらって、厄介事にも巻き込んで。
それでも、嫌な顔一つせず、いつも僕の為に付いていてくれるのに。
そんな僕が、こんな。
自分の欲望しか考えられない浅ましい人間だったなんて。
唾棄すべき存在だ。
「なんて事を仰るのです!頭をお上げ下さい!!こんなにお優しくて素敵なシリル様が、最低な人間だなんて、そんな事ある筈ないじゃないですか!」
「……表面的にそう見えるだけだ。身の内に巣食うのが、どんなに汚れて浅ましいものかなんて、見えないだろう?」
そんな事は無い、と言ってくれるテオに、僕は項垂れたまま掠れる声を絞り出して答えると。
一瞬、空気が変わった気配がして。
ふわりと両肩を掴まれた。
驚いて僕が顔を上げると、腰を下ろして僕に目線を合わせてくれる、テオの心配そうに見つめて来る表情が目に映った。
「……またそんなにお泣きになって。前世の所為ですか?もしあの件の事でしたら、カイトさんも仰っていた様に…っ」
「いいや、そうじゃない。アレは別に…」
「別に、じゃないですよ!……でも、それとは違うのなら何です?」
「……」
「………もしかして。」
急に眼を丸めたテオは、僕が大事そうに抱えている本を目に止めて。
チラリと妖しい視線を向けられる。
「…え?」
ポカンとする僕に、テオはニッコリと微笑むと、右手の手のひらを僕に向けて。
「ソレ貸して下さい。」
言われたのは、抱えていた本を渡す様に、との事で。
ますます呆けた顔をする僕は、おもむろにテオに本を渡したが。
「え、貸して下さるんですか。」
「え、だって貸せって言ったのテオじゃないか。」
言われた通りに渡したのに、今度はテオの方がポカンとした顔をして。
訳が分からん。
テオは、おかしいなぁ~と呟きながら、本のタイトルを見て、益々変な顔をした。
そして、首を傾げながら本のページをパラパラと捲り、途中で飽きた様に両手でパタンと本を閉じた。
「……なんだ、ただの算術の本じゃないですか。難し過ぎて寝れない時に良さそう。」
「昨日、カイトに算術を教わったから、それで借りて来ただけだ。……何だと思ったんだ?」
キョトンとした顔で首を傾げる僕に、テオは、顔を赤くして視線を逸らした。
「い、いえ。すみませんでした。……やっぱりシリル様より俺の方がよっぽど汚れてて浅ましい人間だという事がよく分かりました。」
ごめんなさい。
そう謝られるのだが、言われたって何の事だかさっぱり分からない。
「テオ、取り敢えず座りなよ。」
「いえ、そんな資格ないです……」
「いつも座る様に言ったら座ってくれるのに。僕と向かい合うのも嫌なのか?」
なかなか目を合わせてくれないテオに、何だか寂しくなって口走ったが。
そもそも、最低な人間だと打ち明けた僕と目を合わせたくないのは当たり前じゃないか。
僕がしゅんとした様子で落ち込んでいると。
「そんな事ある訳ないじゃないですか。すみません、それじゃあ…失礼して。」
テオは違うとハッキリ言ってくれて、僕の向かいの席に座ってくれた。
「……そんなに酷いか。」
「一体何があったんです?!」
迎えの馬車で、テオはいつもの様に迎えてくれる。
今日はカイトとカレンは救済の為に孤児院へ顔を出すと言っていたから、先に用意させていた別の馬車で既に学院を出ていた後だった為、顔を合わせずに済んで良かった。
でも、テオはそうはいかない。
「……すまない、テオドール。僕は最低な人間なんだ。こんな僕に仕えさせて、本当にすまない。」
そう言い、僕は頭を下げた。
だって、テオはいつだって僕の為にと仕えてくれているのに。
今世では、僕の死に戻りの事まで聞いてもらって、厄介事にも巻き込んで。
それでも、嫌な顔一つせず、いつも僕の為に付いていてくれるのに。
そんな僕が、こんな。
自分の欲望しか考えられない浅ましい人間だったなんて。
唾棄すべき存在だ。
「なんて事を仰るのです!頭をお上げ下さい!!こんなにお優しくて素敵なシリル様が、最低な人間だなんて、そんな事ある筈ないじゃないですか!」
「……表面的にそう見えるだけだ。身の内に巣食うのが、どんなに汚れて浅ましいものかなんて、見えないだろう?」
そんな事は無い、と言ってくれるテオに、僕は項垂れたまま掠れる声を絞り出して答えると。
一瞬、空気が変わった気配がして。
ふわりと両肩を掴まれた。
驚いて僕が顔を上げると、腰を下ろして僕に目線を合わせてくれる、テオの心配そうに見つめて来る表情が目に映った。
「……またそんなにお泣きになって。前世の所為ですか?もしあの件の事でしたら、カイトさんも仰っていた様に…っ」
「いいや、そうじゃない。アレは別に…」
「別に、じゃないですよ!……でも、それとは違うのなら何です?」
「……」
「………もしかして。」
急に眼を丸めたテオは、僕が大事そうに抱えている本を目に止めて。
チラリと妖しい視線を向けられる。
「…え?」
ポカンとする僕に、テオはニッコリと微笑むと、右手の手のひらを僕に向けて。
「ソレ貸して下さい。」
言われたのは、抱えていた本を渡す様に、との事で。
ますます呆けた顔をする僕は、おもむろにテオに本を渡したが。
「え、貸して下さるんですか。」
「え、だって貸せって言ったのテオじゃないか。」
言われた通りに渡したのに、今度はテオの方がポカンとした顔をして。
訳が分からん。
テオは、おかしいなぁ~と呟きながら、本のタイトルを見て、益々変な顔をした。
そして、首を傾げながら本のページをパラパラと捲り、途中で飽きた様に両手でパタンと本を閉じた。
「……なんだ、ただの算術の本じゃないですか。難し過ぎて寝れない時に良さそう。」
「昨日、カイトに算術を教わったから、それで借りて来ただけだ。……何だと思ったんだ?」
キョトンとした顔で首を傾げる僕に、テオは、顔を赤くして視線を逸らした。
「い、いえ。すみませんでした。……やっぱりシリル様より俺の方がよっぽど汚れてて浅ましい人間だという事がよく分かりました。」
ごめんなさい。
そう謝られるのだが、言われたって何の事だかさっぱり分からない。
「テオ、取り敢えず座りなよ。」
「いえ、そんな資格ないです……」
「いつも座る様に言ったら座ってくれるのに。僕と向かい合うのも嫌なのか?」
なかなか目を合わせてくれないテオに、何だか寂しくなって口走ったが。
そもそも、最低な人間だと打ち明けた僕と目を合わせたくないのは当たり前じゃないか。
僕がしゅんとした様子で落ち込んでいると。
「そんな事ある訳ないじゃないですか。すみません、それじゃあ…失礼して。」
テオは違うとハッキリ言ってくれて、僕の向かいの席に座ってくれた。
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