全てを諦めた公爵令息の開き直り

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第3章

123話 見惚れる

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「私は出来が悪いので、殿下にこってり絞られましたよ。」
「え、絞られたって……」

アハハ、と困った様に彼は笑い。
サフィルの話に心配な表情を滲ませた僕に、彼はフフッと柔らかに笑った。

「大丈夫ですよ。手伝って頂きました。『お前が卒業出来なきゃ俺が困るんだからなっ』って。」
「フフッ仰りそうですね。」

彼の言い様に僕は安心して笑みを零した。
その僕の様子を彼は何とも言えず優しい目をして見つめて来る。
その彼の視線に、僕は嬉しい様な恥ずかしい様な……何とも落ち着かない心地になって。

視線を泳がせてしまうと、目の端に入って来たのは、変わった石で。

「ソレは……貴方の物ですか?」

僕はそう言って、資料の山の端っこにちょこんと置かれていた黒っぽい石を指して尋ねた。
すると、彼はあぁ、と言ってその石をヒョイと掴み取った。

「そうです。祖母に貰いまして。記憶石とか護り石とか言われる物みたいで。私は殿下の護衛などで危険な事もあるだろうから、大事に身につける様に言われたのですが……。飾るには小さいし、ペンダントの様に身に着けるには石が大き過ぎて、正直扱いに困る代物でして…」

そう言って、サフィルは苦笑していた。
僕が不思議そうな顔をして、彼の手に収まっているその黒い石を見つめていると。

「見てみますか?どうぞ。」

そう言って、僕にその石を貸してくれた。
僕はまじまじとその石を観察してみる。
石は綺麗な八面体で、最初黒っぽいと思ったが、近くで見ると紫色も混じっている。
くすんで黒っぽくなった濃い紫色で、光の反射で、時に淡い色を見せる。
その黒の中に、彼のアメジストの様な美しい紫を閉じ込めている様に見えた。

「綺麗ですね。思わず見惚れてしまいました。」

そう口にし、僕はそっと彼にその石を返した。
すると、彼は僕から受け取ったその石を大事そうに見つめて、上着の中にしまった。
そして、しまった上着の上から、本当に大事そうに手で押さえていたのに。

「フッ、石にすら嫉妬してしまいそうです。」

そう、苦笑交じりに見つめられて。

「え?」

何の事?
僕が目を丸めて呆けていると。

彼の手が伸びてきて。
ふわりと僕の頬に触れた。
壊れ物を大事に大事に扱う様な、実に繊細な手付きで。

僕は全身がぶわりと粟立つのを感じた。
だって……だって、こんな仕草、眼差し。
まるで……。
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