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第3章
122話 図書室での邂逅
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————…そんな事があり。
僕は、つい今日の本来の目的とは関係ない算術書を手に取り、パラパラとめくってみる。
眺めてみると、小難しい説明と計算方法が記載されているが、カイトが昨日教えてくれた方法を用いれば、こんな回りくどい考え方をしなくても、もっと簡単に出来るのではないかと思えた。
すると、興味は湧いて来るもので。
僕は、その本を本棚に戻し、別の算術書に目星を付ける。
そして、その本に手を伸ばそうとしたが、高段に収納されており、背伸びをしても指先が触れるか触れないかといった高さで、取れそうにない。
そうなると梯子台を押してこないといけない為、少々面倒だ。
僕は、今度はもう少し頑張って背伸びをして手を伸ばしたが、やっぱり目的の本に触れても、掴むまでには至れない。
仕方なく諦めて手を下ろしかけた時。
スッと僕の背後に気配を感じた。
「この本ですか?」
そう言って、その者は僕が苦労して手を伸ばしていたのに、難なく本を掴み、僕の方へ寄越してくれた。
振り向くとそこに居たのはサフィルだった。
「サフィルっ」
「こうしてお会いできたのは、アデリート以来ですね。その節は本当にありがとうございました。あれからもまたお忙しそうでしたが、お元気にされておられましたか?」
「はい。あ、本…ありがとうございます。」
「いえ。」
彼の言う通り、こうして言葉を交わすのは本当に久しぶりだ。
アデリートへの旅の後、王宮に参内した際、彼はロレンツォ殿下と共に参内していたが、国王陛下との話し相手に徹していたロレンツォ殿下に付き従っていた為、僕らとゆっくり言葉を交わす間も無かったのだ。
僕らも、短い帰郷の後、直ぐにフローレンシアへ行ってしまったし。
夏季休暇も終わり、学院生活が再開されても、普通科の僕と違い、彼は殿下と同じ専学科で、科目内容も全く異なってくる為、こうして出会える機会がなかなか無い。
彼も、もう前みたいに、倉庫裏でロレンツォ殿下に蹴られる事も無くなったし。
彼にとっては絶対良かった事だけど、その分会える機会を失ってしまっていたから。
遠くから見かける事も無かった彼が、今、此処に居て。
僕は心臓の鼓動が大きく跳ねるのを感じた。
きちんと、笑えているだろうか。
僕は、恐る恐る手を伸ばし、彼から本を受け取った。
すると、彼は優しい笑みを向けてくれて。
「随分難しそうな本を読まれているのですね。流石、次期公爵様になられる御方だ。」
「いえ、そんな立派なものでは無く、単なる興味本位ですよ。……さ、サフィルは…どんな本を探しているのですか?」
僕は、折角会えた彼との会話を続けたくて、少し食い気味に尋ねると。
「あぁ、私は卒業論文に引用した本を返しに来たのです。」
「もう終えられたのですか?」
「あぁ、いえ。完成はまだなのですが、山場は終えましたので、残り少しです。」
「専学科は論文作成があるので、大変そうですね。」
僕は彼と話しながら、図書室内を回っていた。
幸い、他に利用者が居なかったから、周囲に気兼ねなく彼とのお喋りに花を咲かせ。
室内にある大テーブルの一角に腰かけた。
そして、促されて隣の席へ、おずおずと僕も腰を下ろした。
テーブルの上には、資料やら本が積まれていて。
此処で論文作成の作業をしていたのだろう。
その本や書類の量に僕が圧倒されていると。
こんな感じでやってたんですよ、と彼が横から説明してくれた。
僕は、つい今日の本来の目的とは関係ない算術書を手に取り、パラパラとめくってみる。
眺めてみると、小難しい説明と計算方法が記載されているが、カイトが昨日教えてくれた方法を用いれば、こんな回りくどい考え方をしなくても、もっと簡単に出来るのではないかと思えた。
すると、興味は湧いて来るもので。
僕は、その本を本棚に戻し、別の算術書に目星を付ける。
そして、その本に手を伸ばそうとしたが、高段に収納されており、背伸びをしても指先が触れるか触れないかといった高さで、取れそうにない。
そうなると梯子台を押してこないといけない為、少々面倒だ。
僕は、今度はもう少し頑張って背伸びをして手を伸ばしたが、やっぱり目的の本に触れても、掴むまでには至れない。
仕方なく諦めて手を下ろしかけた時。
スッと僕の背後に気配を感じた。
「この本ですか?」
そう言って、その者は僕が苦労して手を伸ばしていたのに、難なく本を掴み、僕の方へ寄越してくれた。
振り向くとそこに居たのはサフィルだった。
「サフィルっ」
「こうしてお会いできたのは、アデリート以来ですね。その節は本当にありがとうございました。あれからもまたお忙しそうでしたが、お元気にされておられましたか?」
「はい。あ、本…ありがとうございます。」
「いえ。」
彼の言う通り、こうして言葉を交わすのは本当に久しぶりだ。
アデリートへの旅の後、王宮に参内した際、彼はロレンツォ殿下と共に参内していたが、国王陛下との話し相手に徹していたロレンツォ殿下に付き従っていた為、僕らとゆっくり言葉を交わす間も無かったのだ。
僕らも、短い帰郷の後、直ぐにフローレンシアへ行ってしまったし。
夏季休暇も終わり、学院生活が再開されても、普通科の僕と違い、彼は殿下と同じ専学科で、科目内容も全く異なってくる為、こうして出会える機会がなかなか無い。
彼も、もう前みたいに、倉庫裏でロレンツォ殿下に蹴られる事も無くなったし。
彼にとっては絶対良かった事だけど、その分会える機会を失ってしまっていたから。
遠くから見かける事も無かった彼が、今、此処に居て。
僕は心臓の鼓動が大きく跳ねるのを感じた。
きちんと、笑えているだろうか。
僕は、恐る恐る手を伸ばし、彼から本を受け取った。
すると、彼は優しい笑みを向けてくれて。
「随分難しそうな本を読まれているのですね。流石、次期公爵様になられる御方だ。」
「いえ、そんな立派なものでは無く、単なる興味本位ですよ。……さ、サフィルは…どんな本を探しているのですか?」
僕は、折角会えた彼との会話を続けたくて、少し食い気味に尋ねると。
「あぁ、私は卒業論文に引用した本を返しに来たのです。」
「もう終えられたのですか?」
「あぁ、いえ。完成はまだなのですが、山場は終えましたので、残り少しです。」
「専学科は論文作成があるので、大変そうですね。」
僕は彼と話しながら、図書室内を回っていた。
幸い、他に利用者が居なかったから、周囲に気兼ねなく彼とのお喋りに花を咲かせ。
室内にある大テーブルの一角に腰かけた。
そして、促されて隣の席へ、おずおずと僕も腰を下ろした。
テーブルの上には、資料やら本が積まれていて。
此処で論文作成の作業をしていたのだろう。
その本や書類の量に僕が圧倒されていると。
こんな感じでやってたんですよ、と彼が横から説明してくれた。
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