117 / 369
第2章
117話 ユリウス王太子
しおりを挟む
案内されたのは、城の中庭の小さめのガゼボで。
僕は殿下に促されて、席に着く。
宮女達が無駄のない洗練された動作で、スッとお茶と茶菓子を準備してくれ、サッと引いて行った。
「長旅から帰って来て早々、参内させて悪かったね。」
「いえ。学院が始まる前にご報告に来れて良かったです。僕らが離れていた夏の間、こちらは特にお変りございませんでしたか?」
「いや、あったよ。見ての通り、マリアンヌが元気を持て余していてね。侍女達が手を焼いてる。」
王太子は、フフッと可笑しそうに笑った。
僕も、つられて軽く笑みを見せる。
「王女殿下……お元気になられて、本当に良かったです。」
「そうだね。それもこれも、あの巫子達のおかげだ。」
「えぇ。」
「でも、その巫子達を繋ぎ止めてくれている、君のおかげでもある。本当に感謝している。」
そう言って、王太子は実に麗しいその顔で、僕に微笑んでくれる。
僕は。
「……いえ、僕など…なにも。今回の旅でもつくづく思い知らされました。一応、付き添いのつもりで同行しましたが、僕に出来た事なんて、救済に回って疲れた彼らを労う事くらいでしたし。」
「それが何より大切なのだと、私は思うよ。異世界から来て、慣れないこの世界で…巫子達が心置きなく笑顔でいられるのは、君が居てくれるからなんだなって、見ていて思うよ。」
「そう……ですかね。」
「うん、そうだよ。」
自信なく返事する僕に、王太子は念を押す様に強く頷いた。
そして、どこまでも優しい笑みを向けて下さる。
シルヴィアの時、その笑顔を向けられるだけで、何よりも嬉しかった。
死に戻ってシリルとなって、その笑顔を遠くから見るだけになって、寂しくなった。
また、死に戻って……今は?
純粋に信頼してもらえている様で、嬉しい。
でも、それだけだ。
前の様に、心の何処かで手を伸ばして縋りつきたい様な、でも振り向かせる事も出来ないもどかしさも……無い。
ただの王子様と一臣下に、過ぎなくても。
素直に、感謝の気持ちを受け取れる。
「ありがとう…ございます、殿下。僕、自分に出来る事を出来る限り頑張ります。」
だから、正直な心のまま、そう言えた。
にっこりと笑う僕に、殿下は少しポカンとした様子を見せたが、すぐに微笑まれた。
「きっと、巫子達との交流が、クレイン公子にも良い影響を与えたんだね。君のそんなに素敵な笑顔、初めて見たよ。」
王太子はそう言い、目を丸くする僕に、またフフッと笑うと。
「付き合ってくれて、ありがとう。残り少しの学院生活を楽しんで。」
そう告げた王太子は、このガゼボから去って行った。
僕はポカンとしながら、彼の背が見えなくなるまで見送っていたが。
「シリル様、大丈夫ですか?」
呆けている僕に、テオが心配そうに後ろから声を掛けて来る。
「……うん、大丈夫。もう、大丈夫だ。」
僕は、吹っ切れた心地で、テオに自信を持って答えられた。
僕は殿下に促されて、席に着く。
宮女達が無駄のない洗練された動作で、スッとお茶と茶菓子を準備してくれ、サッと引いて行った。
「長旅から帰って来て早々、参内させて悪かったね。」
「いえ。学院が始まる前にご報告に来れて良かったです。僕らが離れていた夏の間、こちらは特にお変りございませんでしたか?」
「いや、あったよ。見ての通り、マリアンヌが元気を持て余していてね。侍女達が手を焼いてる。」
王太子は、フフッと可笑しそうに笑った。
僕も、つられて軽く笑みを見せる。
「王女殿下……お元気になられて、本当に良かったです。」
「そうだね。それもこれも、あの巫子達のおかげだ。」
「えぇ。」
「でも、その巫子達を繋ぎ止めてくれている、君のおかげでもある。本当に感謝している。」
そう言って、王太子は実に麗しいその顔で、僕に微笑んでくれる。
僕は。
「……いえ、僕など…なにも。今回の旅でもつくづく思い知らされました。一応、付き添いのつもりで同行しましたが、僕に出来た事なんて、救済に回って疲れた彼らを労う事くらいでしたし。」
「それが何より大切なのだと、私は思うよ。異世界から来て、慣れないこの世界で…巫子達が心置きなく笑顔でいられるのは、君が居てくれるからなんだなって、見ていて思うよ。」
「そう……ですかね。」
「うん、そうだよ。」
自信なく返事する僕に、王太子は念を押す様に強く頷いた。
そして、どこまでも優しい笑みを向けて下さる。
シルヴィアの時、その笑顔を向けられるだけで、何よりも嬉しかった。
死に戻ってシリルとなって、その笑顔を遠くから見るだけになって、寂しくなった。
また、死に戻って……今は?
純粋に信頼してもらえている様で、嬉しい。
でも、それだけだ。
前の様に、心の何処かで手を伸ばして縋りつきたい様な、でも振り向かせる事も出来ないもどかしさも……無い。
ただの王子様と一臣下に、過ぎなくても。
素直に、感謝の気持ちを受け取れる。
「ありがとう…ございます、殿下。僕、自分に出来る事を出来る限り頑張ります。」
だから、正直な心のまま、そう言えた。
にっこりと笑う僕に、殿下は少しポカンとした様子を見せたが、すぐに微笑まれた。
「きっと、巫子達との交流が、クレイン公子にも良い影響を与えたんだね。君のそんなに素敵な笑顔、初めて見たよ。」
王太子はそう言い、目を丸くする僕に、またフフッと笑うと。
「付き合ってくれて、ありがとう。残り少しの学院生活を楽しんで。」
そう告げた王太子は、このガゼボから去って行った。
僕はポカンとしながら、彼の背が見えなくなるまで見送っていたが。
「シリル様、大丈夫ですか?」
呆けている僕に、テオが心配そうに後ろから声を掛けて来る。
「……うん、大丈夫。もう、大丈夫だ。」
僕は、吹っ切れた心地で、テオに自信を持って答えられた。
80
お気に入りに追加
1,620
あなたにおすすめの小説


美形×平凡の子供の話
めちゅう
BL
美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか?
──────────────────
お読みくださりありがとうございます。
お楽しみいただけましたら幸いです。
腐男子ですが何か?
みーやん
BL
俺は田中玲央。何処にでもいる一般人。
ただ少し趣味が特殊で男と男がイチャコラしているのをみるのが大好きだってこと以外はね。
そんな俺は中学一年生の頃から密かに企んでいた計画がある。青藍学園。そう全寮制男子校へ入学することだ。しかし定番ながら学費がバカみたい高額だ。そこで特待生を狙うべく勉強に励んだ。
幸いにも俺にはすこぶる頭のいい姉がいたため、中学一年生からの成績は常にトップ。そのまま三年間走り切ったのだ。
そしてついに高校入試の試験。
見事特待生と首席をもぎとったのだ。
「さぁ!ここからが俺の人生の始まりだ!
って。え?
首席って…めっちゃ目立つくねぇ?!
やっちまったぁ!!」
この作品はごく普通の顔をした一般人に思えた田中玲央が実は隠れ美少年だということを知らずに腐男子を隠しながら学園生活を送る物語である。

春を拒む【完結】
璃々丸
BL
日本有数の財閥三男でΩの北條院環(ほうじょういん たまき)の目の前には見るからに可憐で儚げなΩの女子大生、桜雛子(さくら ひなこ)が座っていた。
「ケイト君を解放してあげてください!」
大きなおめめをうるうるさせながらそう訴えかけてきた。
ケイト君────諏訪恵都(すわ けいと)は環の婚約者であるαだった。
環とはひとまわり歳の差がある。この女はそんな環の負い目を突いてきたつもりだろうが、『こちとらお前等より人生経験それなりに積んどんねん────!』
そう簡単に譲って堪るか、と大人げない反撃を開始するのであった。
オメガバな設定ですが設定は緩めで独自設定があります、ご注意。
不定期更新になります。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。


王命で第二王子と婚姻だそうです(王子目線追加)
かのこkanoko
BL
第二王子と婚姻せよ。
はい?
自分、末端貴族の冴えない魔法使いですが?
しかも、男なんですが?
BL初挑戦!
ヌルイです。
王子目線追加しました。
沢山の方に読んでいただき、感謝します!!
6月3日、BL部門日間1位になりました。
ありがとうございます!!!

それ以上近づかないでください。
ぽぽ
BL
「誰がお前のことなんか好きになると思うの?」
地味で冴えない小鳥遊凪は、ある日、憧れの人である蓮見馨に不意に告白をしてしまい、2人は付き合うことになった。
まるで夢のような時間――しかし、その恋はある出来事をきっかけに儚くも終わりを迎える。
転校を機に、馨のことを全てを忘れようと決意した凪。もう二度と彼と会うことはないはずだった。
ところが、あることがきっかけで馨と再会することになる。
「本当に可愛い。」
「凪、俺以外のやつと話していいんだっけ?」
かつてとはまるで別人のような馨の様子に戸惑う凪。
「お願いだから、僕にもう近づかないで」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる