全てを諦めた公爵令息の開き直り

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第2章

117話 ユリウス王太子

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案内されたのは、城の中庭の小さめのガゼボで。
僕は殿下に促されて、席に着く。
宮女達が無駄のない洗練された動作で、スッとお茶と茶菓子を準備してくれ、サッと引いて行った。

「長旅から帰って来て早々、参内させて悪かったね。」
「いえ。学院が始まる前にご報告に来れて良かったです。僕らが離れていた夏の間、こちらは特にお変りございませんでしたか?」
「いや、あったよ。見ての通り、マリアンヌが元気を持て余していてね。侍女達が手を焼いてる。」

王太子は、フフッと可笑しそうに笑った。
僕も、つられて軽く笑みを見せる。

「王女殿下……お元気になられて、本当に良かったです。」
「そうだね。それもこれも、あの巫子達のおかげだ。」
「えぇ。」
「でも、その巫子達を繋ぎ止めてくれている、君のおかげでもある。本当に感謝している。」

そう言って、王太子は実に麗しいその顔で、僕に微笑んでくれる。
僕は。

「……いえ、僕など…なにも。今回の旅でもつくづく思い知らされました。一応、付き添いのつもりで同行しましたが、僕に出来た事なんて、救済に回って疲れた彼らを労う事くらいでしたし。」
「それが何より大切なのだと、私は思うよ。異世界から来て、慣れないこの世界で…巫子達が心置きなく笑顔でいられるのは、君が居てくれるからなんだなって、見ていて思うよ。」
「そう……ですかね。」
「うん、そうだよ。」

自信なく返事する僕に、王太子は念を押す様に強く頷いた。
そして、どこまでも優しい笑みを向けて下さる。

シルヴィアの時、その笑顔を向けられるだけで、何よりも嬉しかった。
死に戻ってシリルとなって、その笑顔を遠くから見るだけになって、寂しくなった。
また、死に戻って……今は?

純粋に信頼してもらえている様で、嬉しい。
でも、それだけだ。

前の様に、心の何処かで手を伸ばして縋りつきたい様な、でも振り向かせる事も出来ないもどかしさも……無い。
ただの王子様と一臣下に、過ぎなくても。
素直に、感謝の気持ちを受け取れる。

「ありがとう…ございます、殿下。僕、自分に出来る事を出来る限り頑張ります。」

だから、正直な心のまま、そう言えた。
にっこりと笑う僕に、殿下は少しポカンとした様子を見せたが、すぐに微笑まれた。

「きっと、巫子達との交流が、クレイン公子にも良い影響を与えたんだね。君のそんなに素敵な笑顔、初めて見たよ。」

王太子はそう言い、目を丸くする僕に、またフフッと笑うと。

「付き合ってくれて、ありがとう。残り少しの学院生活を楽しんで。」

そう告げた王太子は、このガゼボから去って行った。
僕はポカンとしながら、彼の背が見えなくなるまで見送っていたが。

「シリル様、大丈夫ですか?」

呆けている僕に、テオが心配そうに後ろから声を掛けて来る。

「……うん、大丈夫。もう、大丈夫だ。」

僕は、吹っ切れた心地で、テオに自信を持って答えられた。
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