全てを諦めた公爵令息の開き直り

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第2章

108話 フローレンシアへ

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————…そんなこんなで。

長くて短いアデリート王国での滞在を終え、約1か月ぶりに僕らはエウリルス王国へと帰国した。
エウリルス王への挨拶を済ませ、僕らを無事此処まで送り届けてくれたロレンツォ殿下が、アデリート国王からの感謝の意を示した書簡やお礼の品を献上していた。

この旅の実現に一番貢献して下さった第1王女殿下に、カレンとカイトと一緒にお土産を持参すると、殿下は大いに喜んで下さった。
公爵邸へ戻ると、叔父達が僕らの帰りを本当に待ちわびてくれていて、アデリートのささやかなお土産もとっても喜んでくれていた。

久々の帰省に、僕らは少しの間、ゆっくりと旅の疲れを癒し。
そしてまた、次の地に向けて旅立った。

今度は、エウリルスの東方、フローレンシア王国へ向けて。
フローレンシアの第2王子カミル殿下の先導で、フローレンシアの王都フールへと向かう。

アデリート行きの時とやる事は同じで、行く先々の村々で、カイトとカレンの両巫子は、またまた救済の力を発揮していた。
フローレンシアはエウリルスやアデリートと違って小さい国なので、一つ一つの村も小さく、人口も少ない分、一度の救済人数は決して多くないが、その分、医療院を兼ねた修道院なども少なく、中には重病人もちらほら居り、巫子達の負担は決して軽くない様に見受けられたが。

それでも一人一人丁寧に救済していくごとに、フローレンシアの人々の救世の巫子達への感謝と期待が多くなっていった。

ただ、一つ。
エウリルスやアデリートと違って、魔術を使える者を度々見かけた。
まぁ、能力の程は僕とあまり大差ない様に感じたが。
魔術を使える者というよりは、昔から行われている民間療法とか、呪(まじな)い師の様だった。

なので、救世の巫子達の事も、なんだか物凄い治癒の力が使える大呪(まじな)い師の様に思われ、村人達にありがたがられていた。

「そう言えば、シリルも魔術使えたんだね。知らなかったよ。」

フローレンシアの王都へ向かう馬車の中で、カイトはそう尋ねてきて。

「……まぁ、小さい氷を1、2個作れる程度だから、大した事はないけどな。」
「えー、でも凄いよぉ!僕らも凄い凄い言われるけどさ、多分この世界に来た時に神様みたいなのに貰った様なモンだから。元から自分が持ってた能力とかじゃないし。」
「もー、もっと早く教えてくれれば…!アデリート結構暑かったから、シリルに氷出してもらって、冷たい飲み物飲みたかったぁ!」
「あ!本当だったな。やれば良かった。すっかり忘れてたよ。」

カイトに自身の能力を褒められたが、カレンに飲み物に氷作って入れて欲しかった!と言われ、自分でもそれをすっかり失念していたのをちょっぴり残念に思った。

アデリートはエウリルスより南方だったから、より夏の暑さを感じたのに。
休憩でお茶をした時に、氷と創る術を披露すれば良かった。

「ごめんごめん。これからは冷たい物欲しい時に言ってくれれば出すよ。」

言っても、フローレンシアはエウリルスより涼しい風が吹いているから、あんまり必要ないかもしれないが。
そんな他愛もない話をしながら、今日も泊まる村でカイトとカレンは救済を施している。
休憩時に早速希望され、出された果実水に氷を作ってやったら。
二人は大いに喜んでくれた。

こんなことなら、もっと早くすればよかったなぁ。
なんて、和んでいると、その様子を見ていた村人達から、凄い凄い!とざわつかれた。
カイトやカレンみたいな大規模な術はもちろん素晴らしいが、僕みたいなちょっとした術だと、同じく魔術を使える呪(まじな)い師を見ている者達からすると、とても身近に感じたらしい。
巫子達程ではないが、なんだか僕まで尊敬の眼差しで見られて気恥ずかしかった。
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