全てを諦めた公爵令息の開き直り

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第2章

107話 平謝り

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「……行っちゃった。」

しばらくポカンとして、僕は閉じられた扉を見つめていたが。
少しすると、キッとカイトとテオを睨み付けた。

「本当に二人とも!さっきは心臓が飛び出るかと思ったぞ!」
「俺は謝らないからね。」
「カイト!救世の巫子の癖に、怪我人つくってどうするんだよ。」
「巫子だってただの人間ですぅ~。怒る時は怒るし、殴りたい奴が居たら殴る。」

何だ、その言い草は。
カイトの不貞腐れた言い訳に、後ろでテオがコクコクと頷いて同調している。
~~~~コイツらはっ。

「信じられない。僕だって、前世で何度お前を殴ってやろうかと心の中で考えたけど、我慢したのに。」
「えぇ?!何で俺を?!」
「そりゃあ、そうだろう。死神と恐れていたのに勝手に寄って来るし、空き教室には無理矢理引っ張り込まれたし?うちに泊まりに行くから!って紙切れ一つで本当に来たし。」
「う“っ……」

僕だって、機会と環境さえ許せば、お前を殴っていたんだぞ。と言うと。
カイトは言葉を詰まらせていた。

「テオも!僕の従者で居てくれるんなら、もう少し冷静に行動してくれ。頭に血が上ったカイトと一緒になってどうする。」
「……すみません。俺も血が上ってました。」
「むしろ僕が激高して周りが見えなくなった時に、冷静に止めてくれるくらいでないと。」
「シリル様……。それは流石に無理ですよ。貴方様より冷静な者なんて、そうそう居りません。」

テオは至極真面目な顔で、無理なものは無理です。と言い切った。
いや、そんな事自信持って言うな。
それに僕だって、大して冷静でも何でもないぞ。
慎重と臆病をはき違えているだけだ。

そんな感じで僕が呆れていると、急にまた扉を叩く音が響いた。
……またまた何だ?

さっきよりも急いている様子がして、近くに居た僕が扉を開くと。
其処に居たのは、第4側妃様とロレンツォ殿下で。
後ろに護衛騎士のジーノと、サフィルも居る…。

ビックリした僕に、部屋に入れて欲しいとせがまれて。
勢いに負けて中へ促すと。

扉が閉められた途端、第4側妃が両膝をついた。
ギョッとすると、ロレンツォ殿下も膝をついて。
もちろん、後ろのジーノとサフィルも膝をつく。

「ど、どうなさったのです?!」

驚きの声を上げた僕の顔を見上げた側妃は、目があった途端、ガーネットの様なその美しい赤色の瞳を潤ませて、がばっと額を床に擦り付けた。
え?!と声を上げる間もなく、側妃は頭を下げたまま、隣のロレンツォ殿下の頭を押さえて、自分と同じ様に床に付く様に下げさせた。

いや、本当に何だ?!

僕は訳も分からず膝をついて彼女らを起こすべきかオロオロしていると。

「クレイン公子様っ!巫子様方!……申し訳ございませんでしたっ!!サフィルから聞きましたっ……その、ロレンの命でサフィルが公子様に無体を働き、巫子様方が大変ご立腹になられたと……!私をこの様に回復させて頂いたのに、そのご恩をお返しするどころか、何という事をっ……」

泣き崩れて謝罪を口にする側妃に、僕は一瞬言葉が詰まった。
……母君は前世の息子の所業など、知る由も無いだろうに。
サフィルに伝えられたあれらの言葉だけで、大体内容合ってるんだけど…。
流石、このロレンツォ殿下の母君……と言ってしまっていいのか?

取り敢えず、僕は側妃達に顔を上げて下さるよう頼んだ。
初めは、いいえ、いいえ!出来ません!と首を横に振っていたが、僕が再々お願いすると、ようやく顔を上げて下さった。

「せっかく良くなられたばかりですのに、これではまたお体を悪くしてしまいますよ。僕らはもうすぐ帰りますから、どうぞ笑顔で見送って頂きたいのです。」

そう伝えると、側妃は僕の手を取って滂沱の涙を流したのだった。
ロレンツォ殿下も、しゅんとして反省していた様だった。

記憶が無いだろうに、ある意味凄い。
……あの悪どい殿下も、母親には敵わないのかな?
そう思うと、可愛らしい所もあるもんだ。
……絶対、本人には口が裂けても言えないけど。
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