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第2章
100話 追及
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「あ……あぅ…」
僕はと言えば、言葉にならない声を発するだけで。
「……ねぇ、シリル。前回…僕が毒で倒れた後、捕まって地下牢に居たって…言ってたよね。」
「……うん。」
「その時、ロレンツォ殿下達が来て、殿下に…ボコボコにされたって言ってたじゃん。もしかして……その時?」
「あ……そうだったっ」
前世の事を問うて来るカイトに、僕は頷く事しか出来ない。
殿下に牢でボコされた事を言われ、カレンは、あ!と、思い出していた。
今の殿下を目の当たりにすると、特にカレンは僕の言う殿下の人物像が、なかなか想像しづらいのだろう。
無理もない。
今の僕だって、殿下を前世の彼と同一人物と捉えるのは難しくなりつつあるし。
「……シリル、その、前に話してくれた時、どういう状況だったか……あんまり話してくれなかったじゃん?手枷を嵌められた状態で殿下達に暴行されたなんて、とても辛い事だっただろうから…僕らも触れない方がいいんだろうな、って思って…あれ以上は聞かなかったけど。でも、ひん剥かれて放り投げられたって……やっぱり、その時に……?」
心配そうに尋ねて来るカイトに、僕は、俯くしか出来なくて。
「……」
「シリル様ッ!その時、何があったんです?!殴る蹴るだけなら……服を脱がす必要なんかっ…」
横で悲壮な声を上げるテオに、僕は、カッと顔が朱に染まるのを自覚して。
彼に背を向けるしかなかった。
「シリル様ッ!!」
悲鳴の様なテオの声に、僕は余計に追い詰められる。
彼は何より僕を心配してくれているからこそなのは、分かっているのに…。
ぎゅっと瞳を閉じて、どうしよう、どうしよう、と必死に考えていると。
フッと向かいの席から立ち上がった気配がして、顔を背けていた僕の目の前に目線が合った。
「……シリル、言えないなら…無理しなくていいわ。大丈夫、今はもう前世とは…違うんだから。落ち着いて。ね?」
冷静で。
落ち着いた優しい声音で。
僕に向かい合って、そう諭してくれたのは、カレンで。
その彼女の様子に、僕は硬くしていた体の力をフッと解いた。
「馬鹿ね、二人共!シリルを追い詰めてどうするの?!無理矢理暴けばいいってもんじゃないんだから。あなた達もちょっと落ち着きなさいよ。」
心配と焦燥感が滲み出ていたテオとカイトは、カレンの冷静な指摘に、うっ。と、言葉を詰まらせた。
そして、カレンは再び僕を見やり、安心感を与える笑顔を向けてくれる。
カレンも本当に、僕を心配してくれて。
テオとカイトとはまた違う、思いやりを僕にくれる。
けれど……僕は。
“今はもう前世とは…違うんだから。”
その言葉が。
鈍く身の内に響く。
それは、彼女からすれば、昔の悪夢に囚われなくても、今は違うんだよ。
と、励ますつもりで言ってくれているんだろう。
けれど、僕には……。
細く……限りなく細く…繋がっていた糸が、絶たれるに等しい。
僕はと言えば、言葉にならない声を発するだけで。
「……ねぇ、シリル。前回…僕が毒で倒れた後、捕まって地下牢に居たって…言ってたよね。」
「……うん。」
「その時、ロレンツォ殿下達が来て、殿下に…ボコボコにされたって言ってたじゃん。もしかして……その時?」
「あ……そうだったっ」
前世の事を問うて来るカイトに、僕は頷く事しか出来ない。
殿下に牢でボコされた事を言われ、カレンは、あ!と、思い出していた。
今の殿下を目の当たりにすると、特にカレンは僕の言う殿下の人物像が、なかなか想像しづらいのだろう。
無理もない。
今の僕だって、殿下を前世の彼と同一人物と捉えるのは難しくなりつつあるし。
「……シリル、その、前に話してくれた時、どういう状況だったか……あんまり話してくれなかったじゃん?手枷を嵌められた状態で殿下達に暴行されたなんて、とても辛い事だっただろうから…僕らも触れない方がいいんだろうな、って思って…あれ以上は聞かなかったけど。でも、ひん剥かれて放り投げられたって……やっぱり、その時に……?」
心配そうに尋ねて来るカイトに、僕は、俯くしか出来なくて。
「……」
「シリル様ッ!その時、何があったんです?!殴る蹴るだけなら……服を脱がす必要なんかっ…」
横で悲壮な声を上げるテオに、僕は、カッと顔が朱に染まるのを自覚して。
彼に背を向けるしかなかった。
「シリル様ッ!!」
悲鳴の様なテオの声に、僕は余計に追い詰められる。
彼は何より僕を心配してくれているからこそなのは、分かっているのに…。
ぎゅっと瞳を閉じて、どうしよう、どうしよう、と必死に考えていると。
フッと向かいの席から立ち上がった気配がして、顔を背けていた僕の目の前に目線が合った。
「……シリル、言えないなら…無理しなくていいわ。大丈夫、今はもう前世とは…違うんだから。落ち着いて。ね?」
冷静で。
落ち着いた優しい声音で。
僕に向かい合って、そう諭してくれたのは、カレンで。
その彼女の様子に、僕は硬くしていた体の力をフッと解いた。
「馬鹿ね、二人共!シリルを追い詰めてどうするの?!無理矢理暴けばいいってもんじゃないんだから。あなた達もちょっと落ち着きなさいよ。」
心配と焦燥感が滲み出ていたテオとカイトは、カレンの冷静な指摘に、うっ。と、言葉を詰まらせた。
そして、カレンは再び僕を見やり、安心感を与える笑顔を向けてくれる。
カレンも本当に、僕を心配してくれて。
テオとカイトとはまた違う、思いやりを僕にくれる。
けれど……僕は。
“今はもう前世とは…違うんだから。”
その言葉が。
鈍く身の内に響く。
それは、彼女からすれば、昔の悪夢に囚われなくても、今は違うんだよ。
と、励ますつもりで言ってくれているんだろう。
けれど、僕には……。
細く……限りなく細く…繋がっていた糸が、絶たれるに等しい。
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