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第2章
90話 名前で…
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「もし……よろしければ、私の事は“サフィル”と呼んで下さいっ」
「え……っ」
彼の更なる申し出に、僕はつい、一瞬固まってしまった。
その様子に、彼はしまった…という顔をしていたが。
ち、違うんです。
嫌なわけじゃない。
そうじゃない。
……ただ、前回にもその様に言われた時。
今とはあまりに違う状況だったから……驚いてしまっただけで…。
あぁぁ……駄目だ。
思い出すな。
“今”は、違うだろう?
僕はふぅ、と息を吐くと。
もう一度彼を見やり、ざわつく心を落ち着かせた。
「あの、ありがとうございます。では、僕の事も同じ様に名前で呼んで欲しいです。」
なんとかそう口にして、笑みを浮かべる事が出来た。
すると、彼は一瞬ぽ~っとした顔を見せたが、すぐに変わって。
「あ、わ、私などがクレイン公子様の事をお名前で呼ぶなどっ」
「僕には呼んでくれないんですか……?」
「あ、い、いえ!わ、わかり…ました。お許し頂けるのでしたら……」
「もちろんです。では、また明日お会い致しましょう。おやすみなさい……サフィル。」
そう、簡単に挨拶をして。
僕は礼をして部屋の扉を閉めた。
……今世で初めて、彼を名前で呼べた。
何故か、その事がじんわりと心を満たしてくれた気がする。
何だか、嬉しいな。
純粋に、親しくなれて、名前を呼び合える様に……なれて。
ぼんやりとそんな風に思いながら、寝室へ行こうと振り返って。
僕は不意に顔を上げたら。
視線の先に居たのは、テオで。
「え……っ」
彼の更なる申し出に、僕はつい、一瞬固まってしまった。
その様子に、彼はしまった…という顔をしていたが。
ち、違うんです。
嫌なわけじゃない。
そうじゃない。
……ただ、前回にもその様に言われた時。
今とはあまりに違う状況だったから……驚いてしまっただけで…。
あぁぁ……駄目だ。
思い出すな。
“今”は、違うだろう?
僕はふぅ、と息を吐くと。
もう一度彼を見やり、ざわつく心を落ち着かせた。
「あの、ありがとうございます。では、僕の事も同じ様に名前で呼んで欲しいです。」
なんとかそう口にして、笑みを浮かべる事が出来た。
すると、彼は一瞬ぽ~っとした顔を見せたが、すぐに変わって。
「あ、わ、私などがクレイン公子様の事をお名前で呼ぶなどっ」
「僕には呼んでくれないんですか……?」
「あ、い、いえ!わ、わかり…ました。お許し頂けるのでしたら……」
「もちろんです。では、また明日お会い致しましょう。おやすみなさい……サフィル。」
そう、簡単に挨拶をして。
僕は礼をして部屋の扉を閉めた。
……今世で初めて、彼を名前で呼べた。
何故か、その事がじんわりと心を満たしてくれた気がする。
何だか、嬉しいな。
純粋に、親しくなれて、名前を呼び合える様に……なれて。
ぼんやりとそんな風に思いながら、寝室へ行こうと振り返って。
僕は不意に顔を上げたら。
視線の先に居たのは、テオで。
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