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第2章
85話 王妃と側妃達
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次に、殿下の隣から、サフィルが口を開いた。
「殿下の仰る通りです。昔と違い、今では王太子殿下もかなり強固な地盤を築かれ、政務にも積極的にご参加されています。あの頃は、まだ王太子殿下も政務に関わられる前だったので、余計に第2王子殿下を推す声も大きかったのでしょう。ですが、修道院に入られた第2王子殿下は、そちら側でのお力を強めていらっしゃる様なので、政治には介入なさっていません。今後もなさらないでしょう。元々、政治より文化面がお好きな方でしたので。」
伏目がちに言うサフィルは、遠い目をして話していた。
きっと、彼も第2王子と昔は交流があったのだろうか。
「我が家のアルベリーニ前子爵が第2王子の台頭を支持しなかったのも、そこも大きかったと聞いております。文化、芸術に非常に造詣が深くていらっしゃいましたから。今は、宗教絵画や古代史などに没頭三昧の日々だとか。元々、政争には向かない方だったのですよ。お母上の血でしょうか。」
「……そうか、元々第2王子のお母上のご実家は、絵画などの芸術面に目がないと評判でしたね。」
「えぇ。その絵画の中などに密書を忍ばせて裏取引をする者などもいたりしますから、疑いの目を向けられやすかったのでしょう。でも、あの方は本当に芸術馬鹿と言われるほど芸術を愛されていましたから、そういった事はなさらないと思いましたけど……」
残念そうに俯くサフィルに、横から殿下が冷たく告げた。
「真実はどうであれ、敵に付け入らせる隙を見せた時点で駄目だろう。最初から絵だけを愛でていれば良かったんだ。欲をかいて第2王子を担ぐから、結局失敗して…第2兄上も失脚させてしまったんだ。こちらも、巻き込まれずに済んだってのに。」
「……」
そうだな。
殿下とサフィルからしたら、二人とも侯爵の権力欲の被害者でもある。
殿下が迷惑がるのも仕方のない事だった。
「……第2王子殿下のお母上は、大丈夫なのですか?」
おずおずとカイトの横からカレンが彼らに尋ねた。
「大丈夫だと思います。一時期はかなり落ち込んでいらっしゃいましたが、あの方もずっと沈んでばかりはいられません。第2王子の他にも、第1王女、第4王子、第5王女がいらっしゃいますから。」
「お、多いですね。」
ロレンツォ殿下の回答に、カイトがまた目を丸くしていた。
「第1側妃は他の王子王女達を無事に育て上げる事に必死で、危ない賭けになんて乗れないでしょう。実際、王太子派と第2王子派で揉めていた時も、第1側妃自身は乗り気でなく、よくお父上と言い争っておられましたし。今は第1王女殿下の嫁ぎ先を定めるのに特に心を砕かれていらっしゃいます。」
「……なるほど~。第2、第3側妃も大丈夫そう?」
今度はカイトが尋ね、殿下はうーん、と眉根を寄せた。
「問題ない、大丈夫です、とは言い切れませんが……あっけらかんとした性格の第2側妃とのんびりした性格の第3側妃ですから……ご本人だけなら大丈夫です。その周りの者達に要らぬ事を吹き込まれれば、また別の話ですが。」
ま、そうなればその時は、その要らぬ事を宣う者どもを徹底的に打ちのめすまでです。
と、ロレンツォ殿下は酷薄な笑みを浮かべ、言い切った。
その彼の表情に、カイトと僕も若干引き攣った笑いで返した。
そんな僕らの様子を見て、サフィルは苦笑気味に口を開く。
「王妃と側妃の方々は、我が国にある学園の学生時代の先輩後輩になりますし、幼い頃から気心が知れた仲ですので、後宮自体はそこまでギスギスしていません。まぁ、殿下のお母上の第4側妃様は宮女から上がられましたので、また他の方々とは別の意味で見知った間柄ではあるのですが、でも、殿下も他の王子殿下や王女殿下方とも交流がございますし、一時期は事件の所為で疎遠になってしまっていた王妃様と第1側妃様もまた少しずつ交流される様になっていらっしゃるくらいですし。」
「人の心の内は分からんが…な。第1側妃も王女の嫁ぎ先の為になりふり構ってられないのさ。」
「殿下……まぁそうですけど…」
「お前は詰めが甘いんだよ!もう少し巫子様方やクレイン卿を見習えっ」
「はぁ……」
しっかりしろ!と叱咤する殿下に、サフィルはいまいちピンと来ていない様だった。
その様子が、ちょっと間抜けで僕は可笑しかった。
「フフッ…分かりました。まぁ、後宮の方々はそんなに深刻な関係性では無いという事なのでしょう。では、話を元に戻しますが、殿下のお母上の救済のタイミングは…いかがなさいますか。」
「そうですね……」
結局、話はそこになる。
殿下とサフィルの話しぶりを聞くに、殿下が慎重に慎重を重ねて考えてらっしゃるのだろう。
例の事件からかなり時間も経っているので、当時だったならともかく、今ならそう問題にはならない様に思うが。
普通に母君の治癒を行っても、少なくとも王妃や他の側妃達は厭味ったらしく非難を口にする様な方々ではなさそうだ。
しかし、他の貴族や重臣達となると、またどうなるかは分からない。
考え込む僕らに、おずおずと手を上げたのは、カイトで。
「…あのさ、その事なんだけどぉ……。」
「殿下の仰る通りです。昔と違い、今では王太子殿下もかなり強固な地盤を築かれ、政務にも積極的にご参加されています。あの頃は、まだ王太子殿下も政務に関わられる前だったので、余計に第2王子殿下を推す声も大きかったのでしょう。ですが、修道院に入られた第2王子殿下は、そちら側でのお力を強めていらっしゃる様なので、政治には介入なさっていません。今後もなさらないでしょう。元々、政治より文化面がお好きな方でしたので。」
伏目がちに言うサフィルは、遠い目をして話していた。
きっと、彼も第2王子と昔は交流があったのだろうか。
「我が家のアルベリーニ前子爵が第2王子の台頭を支持しなかったのも、そこも大きかったと聞いております。文化、芸術に非常に造詣が深くていらっしゃいましたから。今は、宗教絵画や古代史などに没頭三昧の日々だとか。元々、政争には向かない方だったのですよ。お母上の血でしょうか。」
「……そうか、元々第2王子のお母上のご実家は、絵画などの芸術面に目がないと評判でしたね。」
「えぇ。その絵画の中などに密書を忍ばせて裏取引をする者などもいたりしますから、疑いの目を向けられやすかったのでしょう。でも、あの方は本当に芸術馬鹿と言われるほど芸術を愛されていましたから、そういった事はなさらないと思いましたけど……」
残念そうに俯くサフィルに、横から殿下が冷たく告げた。
「真実はどうであれ、敵に付け入らせる隙を見せた時点で駄目だろう。最初から絵だけを愛でていれば良かったんだ。欲をかいて第2王子を担ぐから、結局失敗して…第2兄上も失脚させてしまったんだ。こちらも、巻き込まれずに済んだってのに。」
「……」
そうだな。
殿下とサフィルからしたら、二人とも侯爵の権力欲の被害者でもある。
殿下が迷惑がるのも仕方のない事だった。
「……第2王子殿下のお母上は、大丈夫なのですか?」
おずおずとカイトの横からカレンが彼らに尋ねた。
「大丈夫だと思います。一時期はかなり落ち込んでいらっしゃいましたが、あの方もずっと沈んでばかりはいられません。第2王子の他にも、第1王女、第4王子、第5王女がいらっしゃいますから。」
「お、多いですね。」
ロレンツォ殿下の回答に、カイトがまた目を丸くしていた。
「第1側妃は他の王子王女達を無事に育て上げる事に必死で、危ない賭けになんて乗れないでしょう。実際、王太子派と第2王子派で揉めていた時も、第1側妃自身は乗り気でなく、よくお父上と言い争っておられましたし。今は第1王女殿下の嫁ぎ先を定めるのに特に心を砕かれていらっしゃいます。」
「……なるほど~。第2、第3側妃も大丈夫そう?」
今度はカイトが尋ね、殿下はうーん、と眉根を寄せた。
「問題ない、大丈夫です、とは言い切れませんが……あっけらかんとした性格の第2側妃とのんびりした性格の第3側妃ですから……ご本人だけなら大丈夫です。その周りの者達に要らぬ事を吹き込まれれば、また別の話ですが。」
ま、そうなればその時は、その要らぬ事を宣う者どもを徹底的に打ちのめすまでです。
と、ロレンツォ殿下は酷薄な笑みを浮かべ、言い切った。
その彼の表情に、カイトと僕も若干引き攣った笑いで返した。
そんな僕らの様子を見て、サフィルは苦笑気味に口を開く。
「王妃と側妃の方々は、我が国にある学園の学生時代の先輩後輩になりますし、幼い頃から気心が知れた仲ですので、後宮自体はそこまでギスギスしていません。まぁ、殿下のお母上の第4側妃様は宮女から上がられましたので、また他の方々とは別の意味で見知った間柄ではあるのですが、でも、殿下も他の王子殿下や王女殿下方とも交流がございますし、一時期は事件の所為で疎遠になってしまっていた王妃様と第1側妃様もまた少しずつ交流される様になっていらっしゃるくらいですし。」
「人の心の内は分からんが…な。第1側妃も王女の嫁ぎ先の為になりふり構ってられないのさ。」
「殿下……まぁそうですけど…」
「お前は詰めが甘いんだよ!もう少し巫子様方やクレイン卿を見習えっ」
「はぁ……」
しっかりしろ!と叱咤する殿下に、サフィルはいまいちピンと来ていない様だった。
その様子が、ちょっと間抜けで僕は可笑しかった。
「フフッ…分かりました。まぁ、後宮の方々はそんなに深刻な関係性では無いという事なのでしょう。では、話を元に戻しますが、殿下のお母上の救済のタイミングは…いかがなさいますか。」
「そうですね……」
結局、話はそこになる。
殿下とサフィルの話しぶりを聞くに、殿下が慎重に慎重を重ねて考えてらっしゃるのだろう。
例の事件からかなり時間も経っているので、当時だったならともかく、今ならそう問題にはならない様に思うが。
普通に母君の治癒を行っても、少なくとも王妃や他の側妃達は厭味ったらしく非難を口にする様な方々ではなさそうだ。
しかし、他の貴族や重臣達となると、またどうなるかは分からない。
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「…あのさ、その事なんだけどぉ……。」
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